東京感動線

原宿だからこそ
『食』への考えが深められた
013

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ブラウンシュガー1ST代表
荻野 みどり

ブラウンシュガー1ST代表荻野 みどりさん
荻野 みどりさん
ひと

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“食卓”を中心に
“つながり”を拡げていきたい。

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ココナッツオイルを日本に広めた荻野みどりさん。
“わが子に食べさせたいかどうか?”を基準に、食の背景にある有機的なつながりを大切にしながら、“ワクワクする”商品を生み出す。
個性的で自由な街に見守られ、そこに集う人たちとつながりながら、さらなる夢に向かって進んでいる。

食べものが体をつくることを実感したから

有機的につながり循環するそれこそがオーガニック
「みんなのお母さんになれたらいいなって思ったんです」
そう言って晴れやかに笑うのは、有機ココナッツでつくる有機エキストラバージンココナッツオイルで知られる食品会社、ブラウンシュガーファーストの代表・荻野みどりさん。
起業のきっかけは、娘さんを出産した4カ月後のこと。母乳育児をしていたある日、娘さんに湿疹ができ、10日間ほど便秘になってしまったことだという。

「娘は母乳しか口にしていませんから、私の食生活が原因としか考えられません。人は食べたものでできているということを実感した出来ごとでした。これをきっかけに食生活を見直したのはもちろん、安心して子どもに与えられる美味しいものが気軽に買えたらいいのにと思うようになったんです」

そうして“わが子に食べさせたいかどうか?”を基準に食材を厳選するプライベートブランド「ブラウンシュガーファースト」は生まれた。
当初は手づくりの菓子店として、娘さんをおんぶしながらファーマーズマーケットなどで販売していた。
順調に売れ行きを伸ばす中、荻野さんは菓子の材料を意識するようになる。

「よりよいものをつくるために、材料自体を探究したいと思うようになりました」

そうして出会ったのがココナッツオイルだった。
乳飲み子の娘さんを日本に残し、フィリピンの生産者を訪ねるなど、商品化のために奔走。
同時に、当時事務所が入っていた原宿駅前のビルの屋上でメディアなどを集めた試食会を何度も開き、ココナッツオイルの魅力を発信し続けた。

「どう食べるか、どう楽しむかを知ってもらうことが大切だと思いました。普通の暮らしに楽しく取り入れられるものでないと、文化として根付きませんから」

荻野さんにとってオーガニックとは「有機農業から生まれた食品」ということだけではない。

「ココナッツオイルであれば、太陽・大地・水といった豊かな自然環境があってヤシの木が育つ。それを代々つくり続ける人たちがいる。その商品を使ってお母さんがお菓子をつくり、子どもが食べる。使い手が感想をフィードバックして、つくり手と想いを通わせる。商品の背景にある、そういう複雑で有機的なつながりこそがオーガニックだと考えています。そして、その想いのもとで、つくる人、売る人、食べる人、みんなに幸せが循環することを目指しています」

「原宿は、夢をもつ人たちを受け入れてくれる街」

個性的で自由な気風がつながりを生み、夢を育む
荻野さんが原宿・代々木エリアを拠点とするようになったのは産後2カ月のとき。
それまでは専業主婦で郊外に住んでいたが、自分が働く姿を娘さんに見せたいと思い立ち、以前から気になっていた街、千駄ヶ谷へ引っ越した。

「東京の真ん中なのに自然が豊かで、新旧が入り混じった雰囲気があるところがいいなぁと思っていました。引っ越した先は丁寧にリノベーションされたビンテージマンション。キラキラした最先端のものを求めると同時に、古いものを大切にするところもこのエリアの魅力だと思います」

引っ越し後、街に慣れるために、娘さんを連れての散歩が日課になった。そこで出会ったのが神宮前にある「リコカリー」の店主・坂本真美子さん。

「初対面なのにとても気さくで。私が娘を抱っこして、引っ越してきたばかりだという話をすると、真美子さんもお子さんがいるということもあって『困ったことがあったらなんでも聞いて』と声をかけてくれました。店頭に商品を置いてくれたり、小児科や保育園の情報を教えてくれたりと、公私ともに支えてもらっています」

同じころ、表参道裏手にあるカフェの老店主とも出会った。店に通ううち、閉業を考えているということを聞いた荻野さん。

「『閉めるなら貸してください』って思わず言っちゃいました。『お金はないですけど……』って(笑)。そうしたら『そこまで言うなら』と、貸してもらえたんです。そうして若者のパワーを面白がってくれる大人がたくさんいるエリアだとも思います」

“こうしたい”と思ったら、とにかくそれを大きい声で言ってみることが大事だと荻野さんはいう。

「それを許してくれる、叶えてくれるのがこの街。原宿って実験的な街だと思うんです。人と違っても気にしない、それどころかその差異を面白がる文化がある。そして成功する確証がなくても、好きにさせてくれるゆるさがある」

文化を生む街であり人を育てる街でもある
夢をもつ人を受け入れ、さまざまな文化を生んできた原宿・代々木エリア。その居心地のよさに、世界的なデザイナーやクリエイターが下積み時代を経験したこのエリアに、成功後もとどまり続けることも珍しくない。

「世の中には、なにかの模倣や、なんとなくかたちになった“っぽいもの”がありますが、そういうものは原宿という街でフィルターにかけられて、本物だけが残るように思います。でも原宿には、“っぽいもの”から本物を育てる土壌もある。だからこそ、個性的な文化が生まれるし、生み出す可能性のある人たちが集まる街なんだと思います」

街が人を育て、その人が文化を生み、その文化が街を育てる。その好循環を生み出すのは、“こうしたい”という強い想い。

「ただ、強い想いがあればそれをかたちにできる街である一方で、想いが揺らげば流されてしまう街でもあります。原宿は生み出す場であると同時に、消費する場でもある。良くも悪くも、価値観がものすごいスピードで変わります。だから、根源的なものをもっていないと流されちゃうんです」

荻野さん自身、ココナッツオイルを取り巻くブームの中で、そのことを実感したという。

「ビジネスには、イメージの世界である“虚”と、守りたいものである“実”があります。ブラウンシュガーファーストは、イメージを守りながら商品をつくりますが、本当に守りたいのはその背景にあるオーガニックなつながり。虚と実のバランスをとりながら、自分の想いに対してぶれないことの大切さをこの街で感じています」

そんな荻野さんの想いを支えているのが対話。

「話し合うことでたいていの問題は解決しますし、対話で心が通うことで人とつながれる。そしてそこで交換するのは経済的価値じゃなくてワクワク感。そのつながりって、とってもオーガニックだと思うんです」

【写真】
「リコプア」店主 坂本真美子さん
「リコカレー」(神宮前)、「リコプア」(千駄ヶ谷・写真)の2店舗を構えるほか、フードトラック「リコカー」でもカレーを販売している。

固定概念を超えた先に生まれる、心ふるえる商品

荻野さんは昨年、日本の食料廃棄(フードロス)をなくすことを目標に掲げる「食べ物を棄てない日本計画」を立ち上げた。

「いまは“体にも地球にも優しくて気持ちのいい食べ物”が要求される時代。そんな要求にリスクゼロで応えるための業界のルールがフードロスを生み出す原因のひとつです。廃棄のほかに寄付という方法もありますが、どちらも商品としての価値はゼロに。そうではなくて、別の価値をつくることで新たな商品にする。つまりフードロスを商売で解決しようというプロジェクトです。解決方法のアイディアはSNSで募集するなど、みんなで考えて行動することを大切にしています」

このプロジェクトからは、廃棄予定の柿を加工した柿チャツネが誕生。

「こうした商品は受け入れてくれる場所にだけ、不安定供給で入れていけばいいと思います。そうしないと、そこからまたフードロスを生んでしまいますから。また工場にブランドを貸し、ブラウンシュガーファーストの名でプロデュースしたオーガニックメープルシロップも企画。このプロジェクトは、賞味期限や業界の習慣について改めて考えたことから始まっています。常識であっても疑問に思ったらゼロから見直すこと。常識にとらわれていては、みんながワクワクする、心ふるえる商品はつくれませんから。かといって常識を覆して対立するようなことはしません。オーガニックは対話から生まれます。ベストな道をみんなで探すことを大切にしています」

ロンドンの老舗蒸留所とのコラボレーションで生まれた有機ブラックチャイ・ジンには、商品づくりのためには、自分がつくったルールさえも見直すことを厭わない荻野さんの真摯な姿勢が伺える。

「“わが子に食べさせたいかどうか?”を基準にしているといいながらお酒!? と思われるかもしれません。でもお酒は、食事を彩るアイテムであり、食べ物をより豊かに楽しませてくれるもののひとつ。そう考えれば、わが子に伝えたい食文化でもあります。自分がつくったルールにそうやって“ツッコミ”を入れたからこそ、この素晴らしいジンが生まれました」

子どもたちの未来に心豊かな食文化をつなぐ

荻野さんが目指しているのは、未来につなげたい食文化を、子どもたちに伝えること。

「安心して美味しいものをわが子に食べさせたいと思うと同時に、食べることを通じて心が豊かになる、食の文化を伝えることも必要だと思っています。いろいろな技術が進んで、生活がどんどん便利になる中で、食のスタイルも変わっていくでしょう。いまある食の文化を当たり前と思うのではなく、意識して伝えることが心豊かな食文化を子どもたちの未来につなげることになるのだと思います」

いま荻野さんが取り組んでいることのすべては、そのためのパーツだという。

「対話しながら、みんなで力を合わせてひとつの夢に向かってつながる。そういう知恵を授けてくれる街、そしてその夢を叶えてくれる街がここ原宿だと思います」

母娘ともに大好きなカレーを「いただきます!」

公園での撮影を終えた荻野みどりさん&娘さん。

取材班と娘さんはここでお別れの予定だったが、次の撮影場所が「リコプア」だと知った娘さんが「食べたい!」と目を輝かせた。営業時間外だったものの、お気に入りのカレーをつくってもらった娘さんは大喜び。

荻野さんは、「母乳がカレー味だったと思う(笑)」くらい、娘さんが赤ちゃんのころに毎日のように食べていたといい、この日は、母娘ふたりで大好きなカレーを味わった。

BROWN SUGAR 1ST.

記事の中でご紹介したBROWN SUGAR 1ST.の商品は、こちらから購入することができます。

「ORGANIC 1ST.」
http://www.organic1st.jp

食べものを棄てない日本計画

フードロスをなくすことを目標に立ち上げたプロジェクト。
賞味期限のルールや食品流通業界の慣習により、廃棄される食料・食品に新たな価値を付加、廃棄しないためのアイディアをSNSで募集。
実現可能なものから、商品化するなど事業化している。

http://food-re-valuation.com/

Bonyu. Lab

母乳検査サービスを行う会社。
母乳の成分を科学的に分析したうえで、具体的な対応策をフィードバックする。
体質や食生活などによって一人ひとり異なる母乳の成分を母親が正しく知ることで、自信をもって授乳できる環境をつくりたいという想いから立ち上げた。

https://www.bonyu.me/

ブラウンシュガー1ST代表 
荻野 みどりさん

荻野 みどりさん

2011年、産後4カ月のときに、手作り菓子の店「ブラウンシュガーファースト」を自身の母とともに立ち上げる。
その後、ココナッツオイルと出会い、2013年に株式会社として登記。
“わが子に食べさせたいかどうか?”を基準にオーガニック食品の輸入・卸を行う

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“つながり”を拡げていきたい。

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