東京感動線

都市の中に、人々が集い、
交流するスペースを作りたい
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ヴォーン・アリソンさん

交流・体験
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住まいをコミュニティスペースに変える

暮らす人たちの息づかいを感じられる街が好きだと話す、オーストラリア人のヴォーン・アリソンさん。
約10年前に日本人の理恵さんとメルボルンで出会い、結婚を機に日本での暮らしをスタートさせた。現在は6歳の長男と3人で、千駄ヶ谷~北参道エリアにあるレトロな佇まいのマンションで生活している。

ライターからイベントプロデューサーまで、多彩な肩書きをもつヴォーンさんと、自身の設計事務所を構える理恵さんは、ともに多忙な日々を送る。
オーストラリアと日本は、当然ながらまったく異なる生活習慣や文化をもつ。
ヴォーンさんによれば、こうした文化の違いを乗り越えるコツは、家族が一緒にいる時間をつくり、日常の会話を大切にすることにあるそうだ。

「3人そろって、テーブルを囲む時間を大切にしています。家族みんなの話を聞くために、敢えてリビングにテレビを置いていませんが(笑)、退屈に感じることはありません。話したいことがたくさんあって、時間が足りないくらいですからね」
と、ヴォーンさんが話す。

さて、東京での暮らしと聞くと、近所との関わりが希薄なイメージを抱く日本人は多いかもしれない。
ところが、ヴォーンさんは、都会であるにもかかわらず安全で、隣の人との距離が近い都市はないと驚嘆する。
原宿・代々木エリアには、そうした日本の魅力が凝縮されていると話すヴォーンさんは、出会う人には積極的に話しかけ、行く先々のお店の店員とも親交を深めている。
来日後、特にお気に入りになったと話すのが、この街の喫茶店だ。

「もちろんコーヒーを飲みに来る人が多いのですが、一方でパソコンを持ち込んで仕事をしたり、読書のために訪れる人もいます。常連さんはマスターとおしゃべりに来ますし、通りすがりに立ち寄る人もいます。さまざまな立場の人が集まったコミュニティスペースなのです」

目を輝かせながら喫茶店の魅力を話すヴォーンさんは、自らの住まいをもコミュニティスペースに変えようとしている。
アリソン家はフローリングのリビングダイニングとキッチン、畳敷きの和室が二間という2LDK。
和室からは畳の香りが漂い、洗練されたインテリアを備えている。
実際、普段から来客が多く、まるで喫茶店のようににぎやかだ。
ヴォーンさんと理恵さんはともに実家が飲食店で、いろいろな価値観をもつ、家族以外の誰かが近くにいることが当たり前だった。
ふたりの理想は、ショップ、オフィス、住まいといった空間が一体になった家をつくることなのだという。

ヴォーンさんは、住まいの理想をこのように話す。

「私の家族にとっては、働くことと暮らすことは一体です。地域の人たちも家族の一員のように思っていますし、気軽に家に来てほしいなと思っています。そして、私は家というよりも“街に住みたい”と考えていますが、原宿・代々木エリアは私の夢が叶う街といえるでしょう」

昨今、日本の住まいは閉鎖的になりつつあり、来客を家に上げる機会も減っているといわれる。
ヴォーンさんは、今こそオープンな家が必要だと話す。
さまざまな人が集う東京だからこそ、交流を深めていくことで、暮らしも街ももっと楽しく豊かになると考えている。

「私は、人と人が結びつくようなコミュニティが大好きです。いつか、いろいろな人が好きなように過ごせるスペースをつくり、もっと楽しい街にしていきたいですね」

ヴォーンさんは多彩な仕事ゆえに、さまざまな人と出会うことが多い。
理恵さんも設計の仕事を通じて、人々のコミュニケーションが生まれる“地域の居場所”が必要だと感じている。
そんなふたりは出会った人と人を結び付け、新しい化学反応を生み出そうとしているのだ。

原宿・代々木エリアは流行の発信地としての一面が強い街だが、変わらない親しみやすさをもち、多様性が育まれている。
そうした街の魅力は、ヴォーンさんら住民一人一人の取り組みによって生み出されているのかもしれない。