

PROJECT 3
MaaSの推進

PROJECT 3
MaaSの推進
立原 穂久斗
HOKUTO TACHIHARA
- MaaS・Suica推進本部
- MaaS戦略グループ
- 2010年入社(エリア職)
ICTを活用した移動手段の高度化・最適化によって、社会をもっと便利で豊かにする取り組みとして注目を集めるMaaS(Mobility as a Service)。JR東日本も「シームレスな移動」「ストレスフリーな移動」「総移動時間の短縮」の実現に向け、各地の自治体や他企業と協力してさまざまな検討や実証実験を行っている。2019年春にはMaaS事業の推進を担う専門部署を立ち上げており、その翌年、ここに社内公募で加わったのが立原である。立原が「MaaSは課題解決の手段の1つ」と言うように、めざすのはMaaSによる社会課題の解決であり地域の活性化だ。

MaaSに興味を持つきっかけは、外国人観光客の苦労の声。
「MaaSの推進という、入社当時には思いもしなかった仕事に就いていますが、そのときどきの担当業務に前向きに取り組む中で新たな興味を見つけ、今に至ったと感じます」
立原は、エリア職採用としてJR東日本に入社した。そして最初の配属先が、成田空港の空港第2ビル駅だったことが後の歩みへつながっていく。入社した2010年当時は海外からの外国人観光客が急速に増えている時期で、駅は外国人で溢れるほど。この状況に刺激され、もともと海外や語学に興味があった立原は海外体験プログラム(短期留学)を利用して、3ヵ月のカナダ留学に出る。戻ってからもインバウンド対応の重要性は高まり続けており、2018年にはグループ会社の㈱びゅうトラベルサービス(現:㈱JR東日本びゅうツーリズム&セールス)に出向し、成田空港訪日旅行センターの配属となる。
「現地で購入したJAPAN RAIL
PASSの引き換えなど、外国人観光客への対応を行っていたのですが、この頃は富士山や京都・大阪といったメジャーな観光地を巡るゴールデンルートに加え、よりディープな地域へ向かう方が増えていました。訪れてみたら英語表記の案内は少なく、バスは2時間に1本、小銭の用意がなくて苦労した。窓口で外国人観光客からそうした声を数多く聞き問題に感じていたときに知ったのがMaaSでした。調べてみると、私が抱いた課題の解決に役立ちそうな取り組みになっている。そう考え始めたタイミングでMaaS事業部門の社内公募があり、異動希望が叶いました」

MaaSはあくまでも地域活性化や観光促進の一手段。
立原が現在携わっている主な業務には、次のようなものがある。
1つは、地方の交通に関わるもの。バスやタクシーなど地域内の交通が不便では、住民も観光客も活発に動くことができない。「住んで良し、訪れて良し」とするため、オンデマンド交通の利用促進策などを自治体や地元企業と一緒に検討している。
もう1つが、都市部の交通課題の解決。首都圏の一見便利な街も、域内交通のバランスによっては、せっかくの魅力的な施設を活かしきれていないケースがよくある。幕張新都心(千葉県千葉市)でもこうした問題があり、自治体が中心となってコンソーシアムを発足。立原も千葉支社の担当とともにこれに参加し、自治体や他企業と課題解決のための議論を交わしている。
そしてもう1つが、他企業と共に展開する観光促進事業。外国人観光客が苦労していたようなことを解消できれば、地域の観光が活性化しJR東日本の利用も増える。一例として立原は、東急㈱や伊豆急行㈱との共同による観光型MaaS実証実験の中で、伊豆地域におけるスマートフォンを使用したチケットシステムの開発や利用促進策に携わった。
「基本的に、地域が抱える課題の洗い出しや取り組むべきテーマの設定は、日頃から地元と密に接している支社が主体となります。その解決にMaaSが有効であれば専門部署の我々がサポートする、という動きになっています。これを有効に機能させるためには、支社にもMaaS関連の対応窓口を設ける必要があると考え、私から提案し体制を整えることができました」
立原が仕事上で気をつけているのは、MaaSはあくまで課題解決手段の1つであり、MaaSの実施が目的ではないことを支社や自治体、地元事業者などに理解してもらうこと。「先進的な取り組みをしている」と、MaaS施策の実施が目的になりがちなのである。
「MaaSを取り入れなくても課題解決ができればそれで良いんです。ただ、これまで難しかった問題の解決に力を発揮することが多いのも確かで、地域の実情に合わせ、適切にMaaS施策を導入するのが私たちの役割だと思っています」
都市部、都市の近郊、地方それぞれに異なった社会的・交通的な課題があり、それらを広く見られるところに今の仕事の面白さを感じています。必要なMaaS施策や関係者への対応が案件ごとに異なるので飽きることがありません。また支社や自治体、地域の方々、他の事業者など関わる方が多様なのも大きな魅力です。こうした経験を重ねることで自分の視野を広げ、いずれはMaaS以外の制度設計やまちづくりなども含めた地域の活性化、地方創生に携わってみたいと思っています。その前に、まずはMaaS施策の成功事例を増やさなければいけませんね。コロナ禍で停滞しているインバウンドが戻ってきたとき、海外からのお客さまに地方へも快適に旅していただきたい。それが私がMaaSに興味を持った原点ですから。

身近に鉄道会社に勤める人が多かったこともあり、もともと鉄道会社に興味があったのに加え、生活サービス事業も幅広く展開している点に魅力を感じてJR東日本に入社。最初の配属先は成田空港の空港第2ビル駅で、駅業務やサービスマネージャーを務める。社内の研修制度を利用した海外留学などを経て、2018年にグループ会社の㈱びゅうトラベルサービス(㈱JR東日本びゅうツーリズム&セールス)に出向。成田空港の訪日旅客対応カウンターに勤務するとともに、副店長としてプロパー社員の育成も担当する。JR東日本グループの旅行会社にふさわしい、鉄道全般やJR東日本の事業に関する知識と理解を深めてもらうよう努めた。