海外帰りのシェフとソムリエ
偶然の出会いがスタートに
才能と意欲に満ちた二人の若者、安田翔平さんと江本賢太郎さんが出会ったのは東京・目黒。安田さんはデンマーク、江本さんはオーストラリアでの仕事が一段落し、日本に帰国したばかりの2016年12月のことだ。偶然、ワインバーで隣り合わせになって話すうちに、同じ調理師専門学校の出身で、年齢も20代半ばとほぼ一緒、国内外の一流店での経験など共通項も多いことがわかり意気投合した。
「当時、世界各国のシェフが自国の伝統を重んじつつ、ベストを尽くしている中で、僕は“日本のフランス料理”のレストランに面白みを感じられなかったんです」と江本さんが言えば、安田さんは「デンマークで人生初の味噌やぬか漬けを作りました。味噌はグリンピースを使い、ぬか漬けはコールラビで。日本の伝統食を見直してみて、日本人だからできる料理があると思いました」と話す。
そんな日本の外食シーンのあり方に疑問をもっていた二人は、出会った翌月にコンビでイベントを開催。彼らの世界観を表した食を体験してもらうイベントは回数を重ねるごとに話題となり、自然と店舗をもつことにつながっていった。こうして2017年11月に「Kabi」は誕生した。
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素揚げのピーマンの上に車海老を乗せた「シュリンプ」。コースの料理内容は1カ月で10皿をチェンジする。
「型」にはまらない、という
料理とペアリングのスタイル
「コロナ禍の前後で変わっていますが、以前は、来店されるお客様の約半数が外国の方でした」
と安田さんは言う。そんな海外からのゲストに対して「和食のエントリーとなる飲食店でありたい」というのが二人の共通の想いだ。
このためコースを基本とする「Kabi」の料理は、日本各地の食材を使い、日本に根付く食文化や伝統的な手法を使って調理される。しかし、懐石料理をベースにした、いわゆる「日本料理」をイメージすると軽やかに裏切られる。
たとえば、コース料理のひと皿目の「シュリンプ」は、素揚げしたピーマンと茹でた車海老を、魚醬「しょっつる」の八方だしでいただく。
これだけならほかの「日本料理」店でも供されるかもしれない。だが「Kabi」では、さらにカシスの葉のオイルと発酵させたグリンピースのソース、白味噌とエゴマの醤(ジャン)を合わせる。
つまり、日本の食材、伝統の調理法を用いながらも、独自の解釈で料理に驚きと感動を与える。それが安田さんの料理スタイルなのだ。
自身の料理について「日本で料理をしていたら、自然と“和食”になりますよね」とも。海外で催した食体験イベントに日本の食材を持っていったが、「結局、その土地の食材・調理法がおいしいことに気づかされました。日本でなら、日本の漁師が締めた魚がおいしい。素材がいいからソースは必要ないし、シンプルな出汁と合うのです」。
料理と合わせる酒もワイン、日本酒、発酵ジュースのカクテルと多彩だ。ワインリストは置かず、ゲストと話をしながらその人に合ったドリンクを提案するスタイル。
江本さんは「料理もドリンクも型にはめるのではなく、自分が美味しいと思うもの、好きなスタイルのものを提案したい。ひとつでもお客様の琴線に触れるものがあればうれしいです」と笑顔を見せる。
“美味しさ”は、国境や人種、文化の違いをたやすく超える。しなやかな心身で、国内外の美食の世界を体験してきた二人だからこそ、古き「日本」を見つめ、新しい形を生み出すことができるのだろう。
この眼差しこそが未来の食を拓くカギかもしれない。
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Kabiは“日本”ならではのイノーベーティブな料理を発信し続ける。
アクセス
所在地:東京都目黒区目黒4-10-8
時間:コース料理18:00or18:30or19:00スタート、ランチ(土日のみ)12:00~15:00(13:30L.O.)/不定休
Tel:03-6451-2413(予約はオンラインのみ受付)