東京感動線

コロナ最前線で闘う人を「食」で応援
「未来につながる食」の提案も
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Smile Food Project

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新型コロナウイルスとの闘いの最前線に立つ医療従事者。彼らに「食」で感謝の気持ちを届けたいと、トップシェフたちが立ち上がった。病院で働く人々を支援すると同時に、全国の生産者や飲食業界にかかわる人たちへエールを送り、「未来につながる食」を提案する意味も、このプロジェクトには込められている。

【最初の画像】
パッケージを開けた瞬間に楽しい気持ちになれるお弁当。時間が経っても衛生的で美味しいメニューを工夫する

【画像1】
プロジェクト名には「料理で笑顔を届けたい」との想いをこめた。

発案から1週間で事業開始 毎日約400食をデリバリー

プロジェクトの発端は、東京・渋谷のフランス料理店「シンシア」のオーナーシェフ、石井真介さんが4月初旬にアップしたSNSの投稿。
修業時代を過ごしたフランスの日本人シェフが、医療機関に食事を差し入れたというニュースを見て、自分もやりたい!という強い想いを書いた。
これに応じたのが、ミシュラン星付きのレストランやケータリングを手がける「サイタブリア」の代表取締役社長・石田聡さんだ。つながりのあった広告代理店NKBからも全面支援の連絡があり、すぐにミーティングが開かれた。投稿から1週間後には都内の病院に初回のお弁当を届け、「Smile Food Project(スマイルフードプロジェクト)」は始まった。
「飲食店の営業自粛で料理ができなくなり、何かやりたいと思っているシェフはたくさんいるが、初めの一歩が踏み出せない。
石田社長の突破力で実現しました」と石井さんは振り返る。
現在は、石井さんがリードシェフを務める、海洋資源の持続的な利用を目指すシェフグループ「Chefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)」の仲間のシェフとサイタブリアのシェフ・奥田さんが順番にメニューを監修。日曜を除く毎日、1日約400食のお弁当を担当シェフとケータリングチームで調理し、医療機関にデリバリーしている。
 

 

 

「食」で元気を届けたるトップシェフたち

Sincere(シンシア)オーナーシェフ
石井 真介さん


【画像2】

<profile>
調理師学校を卒業後、「オテル・ドゥ・ミクニ」や「ラ・ブランシュ」を経て渡仏。フランスのミシュラン星付きのレストランで修業し、2004年に帰国。日本一予約がとれないと言われた「レストラン バカ―ル」シェフを7年間務めた後、2016年4月にフレンチレストラン「シンシア」をオープンした。

La Paix(ラペ)オーナーシェフ
松本 一平さん


【画像3】

<profile>
和歌山県出身。六本木のレストラン勤務を経て、2000年に渡欧。ベルギーのミシュラン星付きレストラン「レッソンシェル」で修業した後に帰国し、日本橋「オーグードゥ ジュール メルヴェイユ」の初代シェフを務める。2014年に「和の心」を感じさせるフレンチレストラン「ラペ」をオープンした。

CITABRIA(サイタブリア)シェフ
奥田 祐也さん


【画像4】

<profile>
恵比寿の「タイユバンジョエルロブション」や銀座の「アンジェリーナ」などのフレンチレストランで修業後、2010年にタイ・バンコクの高級ブティックホテル「MA DU ZI Hotel Bangkok」のエグゼクティブシェフに就任。帰国後はサイタブリアに入社し、シェフとして店舗やケータリングチームを率いる。

徹底した衛生管理に配慮 お弁当時間で自分を取り戻す


「お弁当は美味しく栄養があることはもちろんですが、何よりも衛生管理に気をつけています」。こう話すのは、サイタブリアのケータリングチームを率いるシェフの奥田祐也さん。
調理現場となるサイタブリアのフードラボは、通常15~20人で使えるキッチンだが“社会的距離”をとるために、最大8人で調理にあたる。料理人はディスポーザブルのキャップ、手袋、コックコート、キッチン専用シューズを着用し、調理場の消毒も欠かさない。また、スタッフは出勤しない人も含めて全員、毎日検温して健康状態をオンライン上で報告。本人だけでなく、同居の家族らも同様に健康状態をチェックするという徹底ぶりだ。
奥田さんは「ケータリングと異なり、お弁当を食べる時間は人それぞれなので、食中毒にはもっとも警戒しています。添加物を使わず食品衛生的に安全な調理方法を工夫し、提供したお弁当サンプルも事務所で常温に置き、2時間おきに状態をチェックしています」と話す。
こうした上でさらに、見た目の美しさや季節感のあるメニューを心がける。石井さんは「看護師さんからもらったメッセージで、食事が“自分に戻れる唯一の時間”なのだと知りました。緊迫した状況が続く中、食事の時間だけはひと息ついて力を蓄えてほしい。食にはそのパワーがあると実感します。和洋中と毎週料理を変えるのも、楽しみにしてもらいたいからです」と力を込める。

【画像5】
衛生管理を徹底したサイタブリアのフードラボに立つ石井シェフと松本シェフ。
【画像6】
目にも“美味しい”食材の色にも配慮する。
 

 

 

 

 

 

仕入れで生産者を支援し未来の食のあり方も提起


この日のお弁当を監修したミシュラン一つ星のシェフ・松本一平さんは「食材は、これまで飲食店に食材を卸していた生産者や、協力を申し出ていただいた生産者のものを使っています。基本的にすべてが国産の食材です」と説明する。
近年、シェフたちは自分の足で生産地をめぐり出会った生産者から直接食材を購入する傾向にある。こうした食材の中には、持続性などに配慮した生産方法のため、大量生産・流通が難しいものも多い。飲食店の営業自粛に伴い、こうした食材も行き場をなくしていた。
石井シェフは言う。「昔は仕入れられる食材でおいしく料理をすれば良いと思っていました。でも自分の料理を作りたいと思い、そのための食材探しをするようになって、今だけでなく“未来につながる食”について考えるようになりました。今回のプロジェクトには、私たち世代のシェフたちのそんな想いも込められているのです」

【画像7】
トップシェフの調理技術を駆使。
【画像8】
ケータリング用の冷蔵車でデリバリーする。

「料理には力がある。〝食〟のパワーで 元気を取り戻そう」(石井)

「Smile Food Project」は、医療従事者だけでなく、生産者や飲食関係者へのエールも込められている。トップシェフたちの想いを聞いた。

――当初は無償でのスタートでしたが、寄付金が集まったそうですね。

石井:おかげさまで目標額の2100万円を超える寄付金をいただきました。食材費、光熱費、配送費などの実費として使い、6月末まで2万食の提供を続ける予定です。

――飲食店に食材を卸していた生産者もダメージを受けていますか?

石井:はい。ですから、お弁当に使う食材も「提供」ではなく「仕入れ」にしています。生産者さんには頑張ってもらいたいです。
奥田:サイタブリアでは、運営するレストランで仕入れていた生産者の食材を、豊洲のサイタブリア・ベイパーク敷地内で週末、「市」の形で一般の方に販売しています。こんな折ですが、シェフが消費者に直接、食材の良さを話せる良い機会になっています。

――シェフが医療従事者に「食」の支援を行う動きが広がっています。

石井:全国の飲食店からプロジェクトに参加したい、自分の地域でも同じことをやりたいとの声をもらっています。
松本:私自身、お客様に喜んでもらいたいという気持ちだけで料理を作ってきましたが、それができなくなりじっとしていられない気持ちでした。みなさん同じ思いなのでしょうね。また、店を再開しても席数を制限し、長時間滞在を避けてもらっての営業です。これからどうしたらいいかと落ち込んでいる飲食関係者も多いと思いますが、料理には力があります。
石井:そうですね。自信を失いかけている料理人たちには、このプロジェクトを通じて、食のパワーを思い出してほしいです。

<Smile Food Project公式サイト>
https://smilefoodproject.com/

 

 

 

 

「We Support」 医療従事者にワンストップで食品を提供

新型コロナウイルス対策の最前線に立つ医療従事者への支援プロジェクトは、ほかにもある。安心・安全に配慮した食品の宅配サービスを手がける「オイシックス・ラ・大地(株)」は、地域活性化プロジェクトを推進する「(一社)RCF」、買い物弱者のための食料・日用品の配送サービスをする「ココネット(株)」とともに、新型コロナウイルスの予防や治療にあたる医療従事者へ、食品の物資支援を行うプラットフォーム「We Support」を運営する。
「We Support」は、食品の提供を希望する企業や団体と、支援を必要とする病院とのニーズをマッチングさせる事業。企業から個別に医療機関に物資が届くなどの負担を最小限にし、物流の取りまとめの役割を果たす。「We Support」事務局からは安心・安全に食品を届けるためのノウハウをSmile Food Projectへと共有しているという。
「We Support」の提供する食品は、栄養サポートや不安・緊張感の緩和を目的とし、野菜ジュースなどの飲料やレトルト食品、菓子など常温で流通できる個包装のものに限る。
 支援企業数は73社、協賛品総額は2億1000万円を超え、東京都の感染症指定医療機関を中心に、29カ所の医療機関を対象として支援を行っている(5月21日現在)。


【画像9】
「オイシックス・ラ・大地」が行った医療機関へのヒアリングでは、「満足に食事をとれていない」「栄養バランスを考慮できない」などの声があった。こうした現場と医療従事者に「食」を支援したい企業をつなぐことで、最前線で闘う医療従事者を応援したい考えだ

https://wesupport.jp/