東京感動線

商店街から始まる
ちょっと懐かしい未来のカタチ
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ニューニュータウン西尾久

まち
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寂れつつある商店街に5軒の店舗がニューオープン

ニューニュータウン西尾久。
ノスタルジックでもあり斬新でもあるような、不思議なタイトルを掲げたプロジェクトが動き始めている。
舞台は荒川区西部、西尾久。
全盛期の勢いを失いつつある商店街に5軒の店舗をまとめてオープンさせ、街の人たちと一緒に楽しいことをつくっていこう、というプロジェクトだ。
個性あふれる物件を扱う不動産メディア「東京R不動産」が手がける、ということで注目を集めている。

取材に伺ったのは、新たにオープンする店舗のお披露目イベント当日。
プロジェクトを手がける中心人物のひとり千葉敬介さんとは、カフェ兼コミュニティスペース「おぐセンター」で待ち合わせた。
ここは今回オープンする5軒のうちの1軒で、東京R不動産が自身で運営しながら商店街の核として育てていこうとしているスペースだ。
「今日までに完成させたかったのですが、工事が間に合わなくて(笑)。街の人たちにも“自分たちの場所だ”って感じてほしいから、これから一緒に壁を塗ったりしようと思っているんです」

【最初の写真】
おぐセンターの前に立つ東京R不動産の千葉敬介さん。おぐセンターはかつて青果店として賑わっていた場所。

【写真2】
おぐセンターの完成予想図。「“銭湯のリビングバージョン”っていうのかな、家の外にあるみんなのリビングのような場所になるといいですね」と千葉さん。

大きなポテンシャルを秘める西尾久

歴史ある商店街が“シャッター通り”と化す一方で、「街を楽しくしたい」、「街にコミュニティがほしい」と思う人たちが増えているいまの日本。ならば、寂れてしまった商店街をわくわくするような場に変えていければいいのではないか? そう考えた千葉さんたちは、プロジェクトにふさわしい商店街を求めて東京中を歩きまわった。
「西尾久に決めた一番の理由は、街を変えたいという思いで動いている人たちが商店街の中にいたこと。街の人の気風がオープンなのも良かったですね。ここに僕らが“楽しい要素”として入ることで、化学反応が起きるんじゃないかと思ったんです。大きなポテンシャルを感じましたね」
ゆるゆると動き出したプロジェクトの先には何が見えてくるのだろうか。

「たとえば、子どもたちがお年寄りに何か教えてもらったり、お店が手一杯なときはお客さんにちょっと手伝ってもらったり、お金を介さない価値の交換が生まれて、広がっていくといいなと思っています。それって、人間本来のハッピーな姿じゃないですか? そんな様子を見て、ここに住みたいと思う人が外から来たらいいですよね。うまくいけば、商店街から始まる、街の活性化のモデルケースになるかもしれません」

かつては通りの端から端まですべての店が開いていたという商店街。近隣には町工場も多く、食事どきには町工場の女将さんや職人さんで賑わったそう。

商店街のキーパーソンは銭湯の3代目

ニューオープンのお店、そして長年ここで頑張ってきたお店を千葉さんに案内していただくことになった。

まずは、1951年創業の銭湯「梅の湯」。いまでも15時のオープン前には行列ができる。「商店街がマックスにすごかった時代を覚えている」という3代目の栗田尚史さんは、これまで数々のイベントを仕掛けてきた商店街のキーパーソンだ。

「日頃は静かだけれど、この街にはここが好きで住んでいる人、面白いことを求めている人が実はたくさんいるんですよ。だから、なんとか盛り上げたくて、銭湯のロビーでヨガとか音楽会とか寄席とか、色々と企画しています」

千葉さんは、そんな栗田さんへの恩が忘れられない。

「僕らが初めてこの街に来たとき、今おぐセンターになっている建物に一目惚れしたんです。でも、持ち主の方から貸せないって断られちゃって。栗田さんに相談したら、そこのお嬢さんと幼なじみだって言うじゃないですか! お嬢さん経由でお父さんに伝えてもらったら即決でした(笑)」

 栗田さんはこれからも街のために動き続けるつもりだ。

「この街でお店を開きたい人がいたら、僕がまたどこかのシャッターをトントンって叩きに行きますよ(笑)。ゆくゆくは開いているシャッターの数が、閉まっているシャッターの数を上回るといいですよね」

梅の湯の栗田尚史さん(左)。1階にある人気の焼き鳥屋「梅京」は栗田さんのお母さんが営んでいる。

1から100よりも、0から1が面白い

梅の湯のそばにオープンしたのは、うつわの店「GEZELLIG(ヘゼリヒ)」。これまでオンラインショップを運営してきた店主・荷福千明さんにとって、初めての実店舗だ。

「おぐセンターを使って、みんなで季節の手仕事をできたらいいですね。いちごジャムを煮る匂いにつられて子どもたちが集まってくる、みたいな。商店街のお店とコラボして、うちのうつわも使ってもらって。みんなで食べると世代を超えてつながれるじゃないですか? そんな循環の中にいる “街の店”でありたいんです」

「ヘゼリヒ」の隣にオープンしたのは、お酒やコーヒーと本を愉しめる古書バー「BOOKS ON THE ROAD」。店主の吉田翔さんは、アラスカでリヤカーを引きながら3200kmの旅をした冒険家だが、いわゆる“シャッター通り”に店を開くのは初めてだ。

「1から100より、0から1を目指す方が面白いんですよ。最初から盛り上がってるところで何かやったって、しょうがないでしょ? ここは街の人がオープンだからいいですね。中華屋のおばちゃんなんて、何も頼んでないのにビール出してくれるんですよ(笑)」

古書バー「BOOKS ON THE ROAD」の内装は、すべて吉田さんがDIYで手がけた。

ここに来るたびにつながりが増えてくるんです

次は、代表の冨樫達彦さんをはじめ、3人のアーティストが立ち上げるギャラリー「ブランケット」。

「うちはオーナーが山形出身だから、いずれはここで山形料理も出したいんですよ」

まさにそんな話をしているところへ、犬を連れたお年寄りがふらりと入ってきた。

「僕、そこに住んでるんだけど山形出身なの。ここ、山形の人がやるんでしょ? がんばれよ、応援してるからな!」

次もニューフェイス、串カツ専門店「にしかわや」。軽く10本は食べられる、と評判の串カツとともに大阪からやって来たのは西川勝さんだ。

「初めて来たときは人通りもなくて、正直“マジか?”と(笑)。でも、商店街の方が自分のお客さんを紹介してくれたりして、来るたびにつながりが増えてくるんです。ここでやっていける自信ができてきましたね」

風格のある「にしかわや」の看板は、店主の西川さんが大阪のお店で10年以上使っていたもの。

相乗効果で、もっと血のつながりが感じられる街に

最後は、創業60年を迎える「天ぷら 天ふじ」。2代目・長沼理さんがその日の温度や湿度に合わせて丁寧に天ぷらを揚げる。

「今回オープンするお店の方は、みんな手作業とか対面販売を大切にしているしょう? これからはお客さんにもそういう方が増えるんじゃないかな。僕たちも、これまで以上に気持ちを込めてやっていきたいし、相乗効果でもっと血のつながりが感じられるような街になっていくといいですよね」

天ふじの名物は女将・長沼美香さん手書きの「天ふじだより」。今月号では、ニューオープンの5軒が愛情たっぷりに紹介されている。

梅の湯がオープンする15時をまわった。
一番風呂を目指す行列から賑やかな声が上がる。
今日の催しであるヨーヨーすくいやボードゲームが盛り上がりを見せ、子どもたちの輪の中でおばあちゃんが笑っている。
さっきまで取材に応じてくれていた千葉さんと梅の湯の栗田さんの姿も、その輪の中にあった。
ニューニュータウン西尾久。
“ニュー”のその先にあるのは、きっと誰の記憶の中にも眠っているなつかしい何かにちがいない。

一声かければたくさんの子どもたちが集まってくるのも、この商店街の特徴。プロジェクトのスタッフにもすっかり懐いている。


東京R不動産

ほかにはない一風変わった物件を独自の視点から紹介する不動産メディア。「不動産のセレクトショップ」とも呼ばれ、2003年11月の立ち上げ以来、感度の高い人々から圧倒的な支持を得ている。

https://www.realtokyoestate.co.jp

おぐセンター

所在地:東京都荒川区西尾久2丁目31−1