MELTedMEADOW(略称メルメ)
柳瀬 正義さん、吉野 真央さん

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2020年の暮れも押し迫っていた頃、JR山手線の西日暮里駅内に、たったの4日間だが不思議なスポットができた。そこにはごみ箱が置かれ、机に紙が用意されていた。そして通行人が自分の気持ちを紙に書いてくしゃっと丸め、ラインテープの手前からごみ箱に投げ入れる。
これは、駅を利用する人なら誰もが参加できるアートとして企画された。コロナ禍元年ともいうべき年の年末、鬱屈とした気持ちを投げ捨てたい!と惹きつけられた人は多く、〈気持ち〉は500ほども集まったそうだ。
仕掛けたのは、柳瀬正義さんと吉野真央さん。MELTedMEADOW(略称メルメ)というユニットで活動しており、当時はまだ学生だった。「駅は年齢問わず、属性問わず、好きとか嫌いとかも関係なく、多くの人が集まってくる場所。アートに興味のない人も当然多く行き交います。そんな人たちを巻き込んで、体感できることをしたいと思ったんです。この場所でやりたいと自分たちで企画を持ち込みました」と柳瀬さん。
この活動をきっかけに、メルメとJR東日本「東京感動線」との関わりが生まれた。二人がキュレーターとなり、アートプロジェクトの企画に参加するようになったのだ。
そんな二人のアトリエにお邪魔してみると、ちょっと懐かしい雰囲気のする古民家の中におおらかな空間が作られていた。自分たちで家の外も中も全体を真っ白に塗り、天井の一部は取り壊した。構造を現しにした場所もあり、そのうえ、階段は赤色だ。メルメの自由さを表現しているような場で、最近はここをギャラリーとしてアーティストの作品展を開催することもある。
自分自身も、敷居が高くて入りにくいギャラリーではなく、カフェのような、いろいろな人が出入りする場所で作品展をするのが好きだという吉野さんは、「日常により近い場所で作品と出会って欲しいという気持ち。同じように感じるアーティストたちがいて、私たちのアトリエのような場で展示をしたいという声があるんです」と話す。
【最初の画像】
吉野さんのアトリエは屋根裏部屋のような空間。メルメの活動とは別に自身の制作も進めている。最近では、世界的アパレルブランドにアートワークを採用されるなど活動を広げている。
【画像1】
柳瀬さんのアトリエスペース。描いた作品をデスクまわりの壁面に貼り出している。自分を型にはめ込まず、画材も表現方法も決め込まず、何にでもトライする。最近は詩も執筆。
【画像2】
天井の一部は取り壊し、吹き抜けに。座卓に座ったときに足が入るよう、掘りごたつのように床を下げ、タイルも自分たちで張った。畳職人が使っていたという台が、座卓になっている。
場所は変わって、山手線の高田馬場駅。改札の左手にあるカフェ内には、二人がキュレーションを手がけるギャラリーがある。
JR東日本の「東京感動線」が手がける「Yamanote Line Museum」の拠点のひとつだ。ギャラリーとはいってもカフェの壁なので、利用客の身近に作品が掲げられている。コーヒーを飲みながら、ふと顔を上げれば、そこにアートがあるのだ。
「どのプロジェクトでも、外に開かれたエネルギーを持つ作家に注目している」というメルメだが、この場ではさらに若手を中心に紹介。展示が替わるたびに、店のイメージは一新される。常連のお客さまと店舗スタッフの間で「絵が替わったね」という会話が自然と生まれているそう。
【画像3】
スピーディーにコーヒーが準備されるカウンター越しにもアートが目に入る。ふだん、アートに馴染みがないというアルバイトスタッフも、「展示が替わるごとに雰囲気がガラッと変わって、いい空間だと感じる」と話す。
【画像4】
撮影時は、伊藤瑞生さんの個展「できるだけながく息をはく」が開催(現在は終了)。作品はすべて販売されており、作品横の二次元コードから購入可能なウェブサイトへアクセスできる。
普段はあまりアートに馴染みがない、そんな人にも自然にアートに触れてほしい。メルメが関わるプロジェクトに共通する思いだ。だから二人はギャラリー内にとどまるのではなく、まちへ出ることを意識して活動している。
例えば、上野駅の商業施設内に期間限定で生み出された“ueno art park”しかり。そこでは人々が待ち合わせをしたり、ただコーヒーを飲んだり。そんな公園のように気軽に立ち寄れる場を作り、アートを配した。すると、駅を利用するためにそこにいる人が無意識下で作品を目にし、作品と時間を過ごすことになる(現在は終了)。
上野駅公園改札内にある「Yamanote Line Museum上野駅公園口」も同じ。
通常は広告用に使われるポスターフレームにアートが飾られ、駅構内の連絡通路に掲げられた。タイトル脇の二次元コードを読み込めば、そのまま購入ができる仕組みも構築。「ふと通りがかったお客さまが、仕事の昇進試験に合格した自分へのギフトとして買ってくれたと聞きました。見るだけでなく手元に置いておきたいと思っていただけたという話はうれしいですよね」
不特定多数の人が行き交う場所をアートで彩るメルメの試み、これからもまだまだ続いていくようだ。
▍「Yamanote Line Museum」オフィシャルサイト
https://yamanotelinemuseum.com
▍「Yamanote Line Museum高田馬場」
高田馬場駅早稲田口改札外
BECK'S COFFEE SHOP 高田馬場店内
営業時間:6:30~21:00(土・日曜、祝日は~20:00)
電話番号:090-9830-3732
▍「Yamanote Line Museum上野駅公園口」
上野駅公園改札内
営業時間:駅の営業時間に準じる
【画像5】
現在は株式会社NOMALがキュレーションを担当。2023年2月からは絵描き/ライブペインターのいくらまりえさんによるアートが駅構内を柔らかく彩る(2023年7月末まで)。