Community Nurse Company 代表取締役
矢田明子(やた・あきこ)さん

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地域の中で日常的に人々とつながり、暮らしと健康に寄り添う“おせっかい”焼きがいる。それは、コミュニティナーシング(地域看護)の考え方を基に生まれたコミュニティナースたち。
「コミュニティナースは職業や資格ではなく、地域コミュニティにおける看護の在り方。実践の中身や方法には、さまざまなかたちがあります」
看護師の資格をもち、コミュニティナースの提案者である矢田明子さんはそう教えてくれた。矢田さんが看護師を志したきっかけは、和菓子店を営む父の死だった。
「父のような自営業者の場合、健康診断を受ける機会や習慣がなかなかありません。自治体が行う健康診断はありますが、はがきが送られてくるだけで強制力はないですし、店の繁忙期と重なれば、商売を優先してしまいます。そんな中で父が体調を崩し、病院に行ったら、すい臓がんと告知されました。そして受診からたった3カ月で亡くなってしまったんです」
矢田さんは「もっと早く気づいていたら」、「専門知識をもった人ともっと早く出会っていたら」と悔やみ、自分にできることがないかと考えた。
「父をはじめ商店街の人たちも、健康に関心がないわけじゃないんです。ただ、暮らしに馴染む予防のかたちがなかった。だから私は、暮らしになじむかたちで地域に存在して、専門性が必要なときには、わかるかたちにして届けられる人になりたいと思いました」
そうして看護学科に入学した矢田さんが出合ったのがコミュニティナーシングという考え方。とはいえ、当時の日本でこの考え方を実践する活動はほとんどなかったという。そこで矢田さんは看護学科の仲間5人とともに、“コミュニティナース 見習い中”の名刺を持って活動をはじめた。
「喫茶店でアルバイトをしながら、店のスタッフとしてお客さんと会話をすることからはじめました。仲よくなるうちに、健康についての相談を受けることも増えて、いつしか、“コミュニティナース 見習い”がいることが店の付加価値になっていたんです」
矢田さんたちの活動は次第に地域で受け入れられ、全国に広がっていった。矢田さんは人材育成のための講座を提供し、これまでに580人以上のコミュニティナースを世に送り出した。また、コミュニティナースが活躍できるビジネスモデルの開発にも着手。2020年夏には、訪問型健康応援サービス「ナスくる」を開始した。
「離れて暮らす家族に代わり、看護師の資格をもつコミュニティナースが親御さんの家を訪ね、日常に寄り添うサービスです。バイタルチェックなどの健康管理はもちろんですが、会話の中から生きがいとなるような楽しみを見つけ、一緒に育てていきます」
並行して、家族には、親の健康状態や生活の様子をまとめたレポートが届く。そこから暮らしぶりや趣味などを知ることで、離れていても心の距離は近くなる。
「コミュニティナースの“おせっかい”で、楽しく幸せに暮らす人たちがつながれば、まちも元気になる。そう信じて活動していますが、“未来は3代先が決める”が我が家の家訓。だからこそ、自分の代ではやり切ることが大切。そうして世代を超えて知恵をつなぎ、積み重ねることが、よりよい未来につながるんだと思います」
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講座修了者の85%は看護師の有資格者だが、そのほかの職種の人たちもおり、それぞれの地域に馴染むかたちで活動している