東京感動線

廃棄素材を再生し、
潜在的な価値を引き出す
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The Ethical Spirits & Co.

The Ethical Spirits & Co. 蒸留技術責任者山口歩夢(やまぐち・あゆむ)さん
山口歩夢(やまぐち・あゆむ)さん
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原酒由来の爽やかな香りに、ラベンダーやハイビスカスの華やかさと、ピンクペッパーやカルダモン、花椒のスパイシーさが花を添える香り高いジン「LAST EPISODE 0 -ELEGANT-」。“飲む香水”とも称され、世界の名だたる品評会で高い評価を得ている。このジンのベースとなっているのは、日本酒造りの過程で生まれる酒粕。日本酒造りで使用される酒米のうち、日本酒として出荷されるのは6~7割で、残りの3~4割は酒粕になる。酒米の量から計算すると、生まれる酒粕は年間約2万t。大半は食品や飼料などとして利用されているが、酒蔵が費用をかけ、産業廃棄物として処理している量も少なくない。この問題を解決すべく立ち上がったのが蒸留ベンチャー「エシカル・スピリッツ」。酒粕を蒸留してジンを生産し、販売した利益で酒米を購入。酒粕を提供した酒蔵に納品し、酒蔵はその酒米から日本酒を生産するという、持続可能なものづくりと循環型経済の実現を目指す。
「エシカル・スピリッツ」は現在、鳥取県境港市の「千代むすび酒造」、佐賀県みやき町の「天吹酒造」、秋田県にかほ市の「飛良泉本舗」、福島県郡山市の「仁井田本家」の酒粕から造る粕取り焼酎をジンの原酒としている。レシピを決めているのは、蒸留技術責任者の山口歩夢さん。
「粕取り焼酎は味が多彩。酒蔵によって味がまったく違います。全国に1200の酒蔵がありますから、いずれは全部の酒蔵の酒粕からジンを造りたいですね」
また酒粕以外にも、コロナ禍で余剰となったビールや日本酒、チョコレートづくりの過程で残るカカオの皮、間引きされたスダチ、コーヒーの出し殻など、さまざまな廃棄素材をジンの原料としてよみがえらせている。
酒と料理を楽しみに旅をするのが好きだという山口さん。日本各地に足を運んで生産者とつながり、廃棄素材を含め、その地域ならではの素材や文化をレシピに落とし込む。東日本大震災で被災した福島県双葉町とのコラボレーションで、復興の一環として造ったジン「ふたば」では、「仁井田本家」の酒粕を使った粕取り焼酎をベースに、同県いわき市のトマト、宮城県仙台市のマリーゴールドなどを使った。そうして出来上がったジンを、それぞれの素材が生まれた土地の風景を思い描きながら味わえるのは、「エシカル・スピリッツ」ならではの魅力。
山口さんが大切にしているのは、本当は価値があるのに、人間の都合で価値がないように扱われているものを探す姿勢。
「梅干しの種やミョウガの茎だったり、ジュースを搾った後のミカンの皮だったり。全国の生産者さんとつながることで、いろいろな問題が見えてきます。僕の仕事は、いままで見落とされていた素材の価値を見えるようにすることだと思っています」
ただし「エシカルやサステイナブルを押し付けるつもりはない」という。
「あくまでも“美味しいから”という理由で飲んでほしい。そして“なんで美味しいんだろう”という想いから、日本酒に興味をもってもらえたらうれしいですし、廃棄される素材の可能性にも目を向けてもらいたいと思います」

【画像1】
「エシカル・スピリッツ」が開業した「東京リバーサイド蒸溜所」は、エシカル生産・消費に特化した世界初の再生型蒸留所

The Ethical Spirits & Co. 蒸留技術責任者 
山口歩夢(やまぐち・あゆむ)さん

山口歩夢(やまぐち・あゆむ)さん
東京農業大学醸造科学科を卒業し、同大学院で人間の味覚について研究。 在学中より酒関連のベンチャー企業の立ち上げや商品開発などに携わってきた。 昆虫食を主軸にしたベンチャー「Join Earth」の商品開発最高責任者も務める

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