東京感動線

里山発の“小さな地球”が
持続可能な社会につながる
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一般社団法人小さな地球

一般社団法人小さな地球 代表理事林 良樹(はやし・よしき)さん
林 良樹(はやし・よしき)さん
交流・体験
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千葉県鴨川市の山間にある釜沼集落。23世帯が暮らす小さな村には、雨水のみで米をつくる天水棚田が広がり、茅葺きの古民家やミカン畑、炭焼き小屋が点在する。
「この美しい景観は、1000年以上前の人々がつくったもの。森を開いて水田とし、一帯を人が生活する“村”、資源とエネルギーを確保するための“里山”、神と動物の領域である“奥山”の3つに分けて暮らす、持続可能な社会をつくりました」
いまから20年以上前、この地の美しさにひと目惚れし、1999年に移住した林良樹さんはそう教えてくれた。
「日本の原風景ともいうべき里山での暮らしは、無名の人たちがデザインし、生み出してきたものによって成り立っています。これを僕らは“いのちの彫刻”と呼んでいます」
そのお手本は、あらゆるものがつながり、生かし合い、支え合って成り立つ自然。そして、自然界のすべてのものに役割があるように、すべての人に役割があり、一人ひとりが“いのちの彫刻”を創造するアーティストだと林さんは考える。
「この視点だと、暮らしも、仕事も、学ぶことも楽しいですし、自分らしく楽しく生きていれば、創造力も発揮できます。そうして幸せに楽しく生きるという本当の豊かさがある里山は、だからこそ美しいのだと思います」
林さんはその想いを胸に、長老をはじめ村の人々と交流を深め、農家の暮らしを学びながら、都市と農村をつなげる活動を開始。立場や年代、ジェンダーや国境、地縁や血縁など、あらゆる壁を超えたコミュニティを目指し、都市で暮らす人々や企業、大学、NPOなどとともに、この里山を“みんなのふるさと”にしてきた。
そんな中、2019年に房総半島を直撃した台風15号により集落が被災。林さんが暮らす古民家「ゆうぎつか」も、茅葺き屋根にかけてあったトタンはすべて吹き飛び、窓ガラスを割って吹き込んだ暴風雨で室内はめちゃくちゃになった。水と電気も止まった集落では、同時期に空き家が3軒も出た。
「このまま、里山文化を消滅させてはいけない。その想いから立ち上げたのが『小さな地球』です。1000年続く里山の文化や資源と、現代の文明とを融合しつつ、地球がもっている生命の循環という仕組みをここで表現することで、持続可能な新しい社会のモデルを創造したいと思っています」
「小さな地球」では、古民家「ゆうぎつか」の茅葺き屋根の再生、古民家「したさん」のリノベーションを行ったほか、古民家「けいじ」の里山でのタイニーハウスビレッジとフードフォレスト(食べられる森)づくり、集落全体で展開する「森のようちえん」など、さまざまなプロジェクトを進めている。
「茅葺き屋根の再生はクラウドファンディングで修繕費を調達しましたし、古民家『したさん』は個人で所有するのではなく、賛同者とともに共同購入して、みんなのコモンズ(共有財産)とし、宿泊可能なコミュニティスペースとしました。そしてどのプロジェクトも、僕らの想いに賛同してくれるたくさんの人たちの協力によって成り立っています。“いのちの彫刻”は一人ではできません。それぞれがアーティストである僕ら一人ひとりがつながり、生かし合い、支え合ってこそ生まれるもの。いつしか地球規模の芸術となることを信じて、この小さな里山からその輪を広げていきたいと思います」

【画像1】
釜沼集落の天水棚田。棚田オーナー制度、無印良品「鴨川里山トラスト」などに参加する人々がここで米づくりに励む

一般社団法人小さな地球 代表理事 
林 良樹(はやし・よしき)さん

林 良樹(はやし・よしき)さん
里山の美しさに魅了され、1999年に千葉県鴨川市の釜沼集落に移住。“美しい村が美しい地球を創る”をテーマに企業や大学などと協業しながら人と人、人と自然、都市と農村をつなぐ活動を行う
https://small-earth.org

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