東京感動線

種を継がれてきた在来野菜に
懐かしくて新しい未来を見る
074

この記事をシェア

お気に入りに追加する

warmerwarmer(ウォーマーウォーマー)

warmerwarmer代表高橋 一也さん
高橋 一也さん
Scroll

人生を変えた「平家大根」との出合い

「はじめて在来野菜を食べたのは、自然食品の小売店で働いていた頃。変わった大根を見かけたので聞いてみたら、800年前から種を継がれてきた平家大根で、後継者がいないから途絶えそうだ、と。食べた瞬間、体に染みわたりましたね。まさに、いのちそのものの味。ぞくぞくしました」
高橋一也さんは熱を帯びた目でそう語る。在来野菜の魅力を伝えるべく独立し、「warmerwarmer」を立ち上げて丸9年。美術館での販売やアーティストとのコラボレーションなど、その活動は多彩でユニークだ。
「いま流通している野菜の99%はF1種。病気になりにくいもの、一定のサイズに育つもの……など、人間の都合で改良されてきた野菜です。これらは、開発者の権利を守るために種が採れないようになっているので、農家さんは毎回種を買わねばなりません。それに対して、改良されず、種を継がれてきたのが在来野菜です」

【画像1】
高橋さんが扱う在来野菜は、warmerwarmerのHPまたは伊勢丹新宿店にて購入可能。

果てしない時間軸と自ら育んできた多様性

とはいえ、F1種が体に悪いわけでも、味が劣るわけでもない。高橋さんは、なぜ在来野菜にこだわり続けるのだろうか?
「たとえば、鹿児島の桜島大根はみずみずしいけれど、東北の大根は固いんですよ。水分が多すぎると凍ってしまうから、水分をもたないように歴史のなかで変化してきたんです。こうして、環境に適応してきた結果、もとは1種類しかなかった在来種の大根は110種類に増えました。この数こそが、日本の風土の豊かさであり、多様性の表れ。在来野菜を知ることは、この多様性を体で感じて、守ることにつながるんです」
代々にわたって種を継がれてきた時間軸にも思いを馳せる。
「いまは、モノが壊れたらすぐに買い替えますよね。でも、在来野菜がもつ時間軸からは、一昔前には当たり前だった、ひとつのモノと丁寧につきあい続ける暮らしの豊かさが伝わってきます。この豊かさは、次世代に残していきたいものですね」

【画像2】
店頭での目印は、パッケージに貼られた「LOVE SEED」のステッカー

“むかしむかし”は子どもたちにとって新しい世界

テクノロジーが支え、F1種を生み出すのが「農業」、いっぽうで“祈り”や“祭り”に支えられ在来野菜を生むのは「農」だと高橋さんはいう。両者は二極化し、「農業」の発展ばかりが注目を集めてきたが、昨今、人はより自然なものを求めるようになりつつある。
「いまは、あらゆることが機械化、AI化へ向かう過渡期。そこで、自然やいのちの本質をとらえ直そうとする“揺り戻し”がきています。多くの人が、在来野菜が象徴する「農」の豊かさに気づき始めていると思うんですよ」
もちろん、高橋さんは「農業」を否定しているわけではない。
「自然なものと人工的なもの、片方を否定するのではなく、両方を重ねたところに未来を描くことが大切。F1種に混じって在来野菜が一皿並ぶような食卓が、未来につながると思うんです」
果てしない時間軸、多様な風土、祈りや祭り。在来野菜の向こうに広がる懐かしき世界は、子どもたちがまだ触れたことのない世界だ。
「子どもたちにとってはテクノロジーも新しいけれど、 “むかしむかし”も新しい。時を遡ってその新しさにアクセスするために失ってはいけないのが、在来野菜の種。すべての原点であるその種を、僕は子どもたちに残してやりたいんです」。

【画像3】
高橋さんの思いが詰まった2冊の著書。『古来種野菜を食べてください。』(2016年、晶文社)、『八百屋とかんがえるオーガニック』(2019年、アノニマ・スタジオ)


warmerwarmer(ウォーマーウォーマー)
http://warmerwarmer.net
*上記HP内にて在来野菜のオンライン販売あり

warmerwarmer代表 
高橋 一也さん

高橋 一也さん

warmerwarmer代表。
(株)キハチアンドエス青山本店の料理人、(株)ナチュラルハウスの取締役を経て、2011年の東日本大震災を機に同社を退職。在来野菜の普及を目指しwarmerwarmerとして独立。バイヤーとしての仕事の合間に、イベントやメディア出演も多数。
著書は『古来種野菜を食べてください。』(2016年、晶文社)、『八百屋とかんがえるオーガニック』(2019年、アノニマ・スタジオ)

この記事をシェア

お気に入りに追加する