東京感動線

風土が地域をつなぎ、新たな文化が芽生える
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DANDELION CHOCOLATE
ファクトリー&カフェ蔵前

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公園の目の前のチョコレート工場

4丁目までしかない比較的小さな町、蔵前。
その南北を走る国際通りの西側ほぼ中央の精華公園は、春はサクラ、夏はツツジ、秋はイチョウが美しいという。そんな公園の目の前にチョコレート工場があると知れば、否が応もなくとびきり甘い期待を抱いてしまうはずだ。

カカオ豆から板チョコに至る全工程を1カ所で行うBean to Barというスタイルを展開する「ダンデライオン・チョコレート」。
二人のチョコ好きIT起業家が2010年にサンフランシスコで創業し、赤道付近に点在するカカオ豆生産者から直に買い付けるシステム(というより労力をいとわないこだわり)まで構築した。
彼らの目的は、大量生産では味わえないカカオ本来の風味に満ちた“本物のチョコレート”を世界に紹介するためだ。

そのダンデライオン・チョコレートの海外初進出拠点となったのが、蔵前4丁目の精華公園の前。
戦後に建てられた倉庫を一棟丸ごとリノベーションして、2016年2月にオープンを果たした。ではなぜ蔵前だったのか。取材に応じてくれた芹沢茉澄さんにたずねた。

「日本好きだった創業者の一人によれば、創業地と蔵前はよく似ているというのです。ダンデライオン・チョコレートはサンフランシスコのミッション地区で生まれましたが、ここは元々ヒスパニック系の方々が住んでいた街でした。そこに10年ほど前から若いアーティストやクラフトマンが入り、街全体が活性化したのです。蔵前もまた伝統的な職人文化が残る場所ですから、クラフト文化を育てたかった創業者は大変気に入ったそうです。そもそも創業者に蔵前を紹介したのは、代表取締役の堀淵清治でした」

実はこの堀淵氏、これまた海外初出店で話題になったブルーボトルコーヒーの日本進出を仕掛け、1号店を清澄白河という東京の東側に置くことを決めた方なのである。

「いずれにしても私たちにとっては、この大きなファクトリーが入る場所が重要でした。その希望が叶う建物が蔵前に残っていたのが大きかったと思います」

蔵前ならではのクラフト文化が芽生えはじめている

ダンデライオン・チョコレートの1階は文字通りのチョコレート工場。
ここでは、シングルオリジン(単一品種)のカカオ豆にオーガニックのキビ砂糖だけを合わせたチョコと、それを使ったスイーツをつくる工程のすべてを眺めることができる。2階は、ワークショップも行われるカフェスペース。ここからも公園の様子が窓越しで望める。

2019年2月、ダンデライオン・チョコレートの脇のビルが空いたのをきっかけにラボを開設。一般向けのワークショップだけでなく、企業との新製品開発にも積極的に取り組めるようになったそうだ。

「ダンデライオンのもうひとつの特徴は、情報の開示と共有です」。ここで再び芹沢さんが、「ちょっと自慢になりますが」と前置きしてこんな話をしてくれた。

「ダンデライオン・チョコレートでは1年に1回、誰でも読めるレポートを提出するのですが、そこにはダンデライオン・チョコレートのこだわりのソーシングについて、生産地の紹介はもちろん、買い付けの量や価格まで表記しているんです。普通なら明かしませんよね。ワークショップも同じように、可能な限りチョコレートづくりに関する情報を公開し、共有しています。なぜなら、Bean to Barをムーブメントに留めるのではなくカルチャーとして広めたいからです。実際にダンデライオン・チョコレートのワークショップを経てお店を出した方も少なくないんですよ」

いかに面積が狭かろうと、風土というものはあるようだ。
蔵前の場合、彼の地流にいえばクラフトマンシップ。此の地なら職人気質。それを踏まえた人々によって、ここからここだけの新しい文化が芽生えはじめている。何より公園の気のよさに支えられながら。

「3年が過ぎ、地元の方にもだいぶ親しんでいただけるようになりました。家族連れも多いんですよ。この前、ちょっと驚いたことがありました。私が小学生の頃、バレンタインの手づくりチョコといえば市販品を湯煎するものでした。けれど夏休みにワークショップに参加してくれたお子さんたちは、チョコはカカオという植物が原料でつくられているというのをすでに知っていて、ここ数年でBean to Barチョコレートがずいぶん浸透してきたんだと、とてもうれしい気持ちになりました」。

アクセス

所在地:東京都台東区蔵前4-14-6
Tel:03-5833-7270
営業時間:10:00~19:30(L.O.)
定休日:不定休

https://dandelionchocolate.jp