詩人
ノミヤユウキさん

「TABICA」を通して福島県西会津町の人々や自然とつながる、東京感動線と西会津のコラボレーションを紹介する全3回の連載。vol.03では、2021年5月にワークショップを開くノミヤユウキさんにお話を聞きました。詩人であり、演劇作品の作家や演出家としても活動するノミヤさんは、2020年から西会津と東京を往来するようになったといいます。ライフスタイルの変化が創作活動に与えたものや、“言葉”をテーマにしたワークショップの内容とは?
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上/「銀河鉄道の夜」(2020年、西会津国際芸術村)
下/「注文の多い料理店」(2020年、西会津国際芸術村)
──幅広い活動をされているノミヤさんですが、軸はやはり“言葉”なのでしょうか。
ノミヤ:そうですね。10年前くらいから「シックスペース」という企画団体の主宰を務めているほか、現在は劇団「青年団」の演出部に所属していたりするのですが、私は自分のことを曖昧にカテゴライズしたくて。ただ、自己紹介するときはそのなかで一番嘘のない「詩人」と表現しています。どのようなジャンルであっても、言葉にできないなにかを表現することや、自分が思う詩人としての視点で向き合うことは共通していて、その活動の一環のなかに演劇があるというイメージが近いと思います。
──西会津で活動を始めたのは、どのようなきっかけだったのですか?
ノミヤ:まったく別の場で知り合った俳優さんが西会津ご出身で、2年ほど前にその方から西会津芸術村の話を聞いたのが始まりでした。Webサイトを見せていただいたりして、すごくおもしろそうな場所だなと感じ、そのときに「ぜひ行ってみたいです!」みたいなことを言ったんですね。あんまり本気にされなかったんですが(笑)、後日連絡したらアテンドしていただけることになり、初めて西会津に足を運びました。その後、西会津国際芸術村で、その俳優さんが主催された演劇の企画で作・演出をさせていただき、それを皮切りに現在は西会津と東京を数カ月ごとに行き来しながら作品をつくっています。
──西会津での暮らしはいかがですか?
ノミヤ:まず星が綺麗! それからお米がおいしいのですぐに太ります(笑)。内的なことだと、新しいコミュニティに旅人として入っていっている感覚なので、すごく素直な状態で活動できるところがあって。所属や東京での人間関係からいったん離れて活動するのも、心地よくていいなと感じています。
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ノミヤユウキさん。
──西会津芸術村で本格的に手がけた最初の作品は、「注文の多い料理店」だと聞きました。どのような内容だったのでしょうか?
ノミヤ:流れとしては、まず2020年の初めに、芸術村の方たちと一緒に西会津で演劇やパフォーミングアーツをやりたいねという話をしていたんです。でも、コロナでそれらが全部流れてしまって。あらゆる仕事が止まってしまい、東京の自宅に引きこもっていたら、芸術村の方が「引きこもるくらいなら西会津に来れば?」と言ってくれたので、すぐに行きました。
こうして西会津に滞在することになり、みなさんとコロナ禍でもできることを必死に考えて生まれたのが「注文の多い料理店」です。1回目の緊急事態宣言が5月に明け、開催は6月。感染症対策のガイドラインを守ることに、世の中がまだ慣れてない時期でした。そこで、「マスクをつけてください」とか「距離をとって歩いてください」というのを、料理店が出す“注文”として演出に取り入れることに。最終的には、各回6名に絞った参加者の方たちと芸術村の施設全体を巡り、最後に会津料理を食べるという“体験型シアター&レストラン”となりました。館内を巡ることで生まれる一種の胎内巡りのような体験を、宮沢賢治の原作のストーリーと重ねてつくりあげました。
──コロナ禍だからこそ生まれた作品ですね。
ノミヤ:そうなんです。その後11月に、第2章として「銀河鉄道の夜」も開催しました。このときにはもう感染症対策が日常化していたので、ガイドラインを演出に生かすことを前面に出すようにはしませんでした。それよりも、西会津という土地に初めて来た人は懐かしいと感じ、反対に慣れ親しんだ人には新しい発見があるような、土地との対話みたいなものを「銀河鉄道の夜」の物語を通して体験できるようにしたんです。参加者の方と西会津を歩いて、要所要所でインスタレーションやパフォーマンスを観ていただくという構成でした。
「注文の多い料理店」も「銀河鉄道の夜」も、基盤となるコンセプトは同じ。“生まれ直し体験”ではないですが、価値観の転換が起こるような体験を、演劇や土地、食と掛け合わせることで生み出すことに重きを置きました。
──まさに西会津でしかできない体験ですね。
ノミヤ:街の建物がおもしろかったり、なにげない風景が美しかったりと、西会津は土地のパワーがすごく強いんです。物語をエンターテイメントとして鑑賞しなくても、豊かな体験が生み出せるんじゃないかと思いました。ただ、もう少し深いところを言うと、同じ体験はたしかに西会津でしかできないけれど、その土地だけのためのものではない作品にしたいというか……私はやっぱり旅人なので、「西会津じゃないといけない」という視点はあんまり持っていなくて。偶然出会ったその場所が好きだからっていう、偶然性も大切にしたいなと思っていました。
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「注文の多い料理店」の公演時の様子。
──東京と西会津を往来することで、ご自身に生まれた変化はありますか?
ノミヤ:今、たくさんの人の日常がガラリと変わって、これまでの感覚を守るための暮らし方や時間の過ごし方を模索しているところだと思います。私は、東京だけで活動しているときっとそれが守れなかった。ほかのストレスが多すぎて、自分が信じる表現をつくり続けることが苦しくなってしまっていたと思うんです。でも、西会津というもうひとつの居場所ができたことで、前向きなモチベーションでつくり続けることができた。それはすごく大きいと思います。
それから、私は東京出身なのですが、東京が持つ“ふるさと性”みたいなものを考えるようになりました。東京に帰ってくるといつも、人が多すぎるな……と感じます。でも嫌いじゃないんですよ。いいところもあると思っていて、だからこそ自分は具体的に東京のどんな部分に魅力を感じてるんだろうということを、言語化してみる機会が増えたように思います。
──創作活動への影響もあるのでしょうか。
ノミヤ:ひとつは、もともと「注文の多い料理店」や「銀河鉄道の夜」のような、空間や街を体感する形態の作品にはすごく憧れがあり、やりたかったことなので、できるんだ!と単純にうれしく感じました。それから、もう少しいろんなことを考えず、素直に作品を追求していくことをがんばろうと思えたことも、プラスの影響ですね。
もうひとつわかったのは、西会津にいると全然物語が書けないことです。
東京にいると、虚構の世界をつくりあげることの必要性をすごく感じるんですね。日常生活のなかで、そこにたしかに生命が生きているということを実感できる瞬間がそんなに多くないので、演劇などの創作物を通してそれが生き生きと表れる瞬間をつくることに意義を感じるんです。
でも西会津には、花もあって、星もあって、山もあってイノシシもいる。いたるところに生命力があふれています。それを鑑賞者に感じてもらうには、物語を味わってもらうことよりも、視点を変換させるほうが大切なんです。だから、少なくとも昨年の段階では、物語を書くことが最優先ではなくなったのだと思います。
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自然と触れ合う西会津での日常。「西会津の人たちは、みんな超絶あったかくていい人です」とノミヤさん。
──5月に行うTABICAのワークショップでは、どのようなことを企画していますか?
ノミヤ:今回は、東京と西会津のふたつの会場に数名ずつ、参加者に集まっていただき、2会場をオンラインでつなぐ形で開催したいと考えています。
テーマは「俳句」。芸術村で何度かやらせていただいたワークショップをもとにしています。私は大学生のとき俳句や連句を学んだのですが、それらの“世界との向き合い方”みたいな視点がおもしろいなと思っていて。ワークショップでは、まず私がその視点についてどう考えているかを共有します。そのうえで街に出てもらい、周辺を散歩して見つけた“キュンとくる風景”を写真に撮ってもらおうと考えています。
それで会場に戻り、自分が撮った写真を見て、いくつかの情報を箇条書きで挙げてもらいます。ぱっと見てわかる情報と、よく見ないと気づけない情報。そして、写真には写っていない、自分しか知らない情報。たとえば、撮ったときに風が吹いて心地がよかったとか、お腹いっぱいだったとか、そういうことです。
芸術村で以前同じことをやったときに、この工程がまたすごくおもしろくて。参加者の許可を得て、それらの言葉をもとにして二人芝居の作品をつくったことがありました。
──作品にしたくなるほどエモーショナルだったんですね。ワークショップの流れとしては、それをヒントにして俳句をつくるのでしょうか?
ノミヤ:そうですね。ただ、俳句といっても、五・七・五でなくてもいいし、季語が入っていなくてもいい。いわゆる「無季自由律」というスタイルです。ワークショップの目的は上手な俳句を詠むことではなく、そのとき、その場所と自分が向き合ってみて感じたときめきや気づきを言葉にしてみることなんです。
立ち止まってゆっくり景色を眺める時間って、普段はなかなか持てないですよね。それから、言葉で感覚をシェアし、自分以外の人の視点に触れることで、素敵な発見が生まれるのではないかと思っています。東京と西会津という離れた場所で、異なる風景から言葉を紡ぐ。気候の違いも表れそうです。まったく違う視点もあれば、もしかしたら共通する視点もあるかもしれません。
同じ会場の参加者同士でも、たとえば「あの人と私は似た風景に共感したんだな」という発見もあるでしょうし、「だけど言葉にすると違う表現になるんだな」という発見もある。プライベートな話をしなくてもお互いの世界観への興味が生まれるような、交流の場にもなったらいいなと思います。
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「銀河鉄道の夜」の公演時の様子。