野草と暮らしの冒険家
清野静香さん

「TABICA」を通して福島県西会津町の人々や自然とつながる、東京感動線と西会津のコラボレーションを紹介する全3回の連載。vol.02は、2020年12月に続いて2021年5月にも「野草茶」のワークショップを行う清野静香さんへのインタビューです。新潟と西会津の2拠点生活を送っている清野さん。地域を往来することで得た気づきや、ワークショップについて伺いました。
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──普段の活動について教えてください。
清野:ふるさとである福島県西会津町と、移住先の新潟県長岡市での2拠点ワークを始めてから3年目を迎えます。長岡では、キャンプ場などがある森林公園で、公園の企画や手仕事のワークショップを開くのがメイン。西会津では西会津国際芸術村の運営に携わり、西会津の暮らしや風土を発信するワークショップの企画、イベントの動画の配信などを担当しています。
2拠点での活動に共通しているのは、地域に伝わる風土や自然とつながれるようなテーマを扱っていることです。たとえば、その土地の在来種の大豆を使った味噌を作るワークショップだったり、山を散歩しながら草を刈り、それを使って草木染めをするワークショップだったり。土地とつながることや、地域の味わい方を提案することを生業としています。
──2020年12月に開催したTABICAのワークショップ「自然と繋がる暮らし からだに寄りそう野草茶レッスン」では、どのようなことを行ったのでしょうか。
清野:日本の旧暦では、1年を24の季節に分けた「二十四節気」というものがあります。ワークショップではまず、その季節ごとに身体の状態は変わることと、野草茶が変化する身体の助けになることをお話ししました。そのうえで、西会津の野草を使ったお茶をブレンドして、実際に味わってもらいました。自然のリズムを知り、季節ごとに自然の力を借りて心地よく過ごすことができるきっかけになればと思って。ただ好きな香りや味のお茶を混ぜるのではなく、「この季節には身体はこんなふうに変化します」というようなお話もしながら野草を選んでいただきました。
──参加者のみなさんの反応で、印象に残っていることはありますか?
清野:ティーバッグで5つぐらいお茶をつくって持ち帰ってもらったんですが、後日、ワークショップに参加してくださった人から「身体の調子がいまいちだったときにそのお茶を飲んでみたら、すごく元気になった」という話をお聞きしました。その方の調子が悪いときの対処法として、薬やエナジードリンクだけじゃなく、自然の葉っぱで、しかも自分でブレンドしたお茶っていう選択肢がひとつ増えたのはうれしかったですね。
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上/清野静香さん。
下/西会津国際芸術村で行った、会津に伝わる保存食「打ち豆」づくりのワークショップ。
──清野さんご自身が、季節との関わりや、自分の身体と向き合うようになったきっかけはあったのですか?
清野:生後5カ月からアトピーがあり、皮膚科に通いながらずいぶん長く薬を使っていました。でも15年ぐらい前、自分で自然な方法でケアをしたいと思って、薬を使うのをやめたんです。とはいえ、自分を癒すものだったり、症状と折り合いをつけるためのなにかはやっぱり必要で。自然療法やアロマなど、すごくいろいろ試して、いろんな自然の力を借りながらケアをしてきたという経緯があります。
その延長で、自然にはリズムがあることや、それが日本に古くから伝わる暦と結びついていることを知りました。そのなかで「そろそろ立春を迎えるから、身体はこういう感じに変わるかな、じゃあこれを摂ってみよう」とか、そういうふうにして自分の身体と対話しながら自然のものを取り入れたりするライフスタイルに徐々に変化していきました。
今は、すごく無理がないんです。今までだと、なにか痛みがあったりしたときには痛み止めを飲んで無理やり仕事をしていましたが、まずは身体の調子を聞こうという考え方に変わった。それに合わせて仕事の組み方も変化し、結果的に私自身が心地よく、自然に感謝しながら暮らしていけるようになりました。自然のものは、そのまま薬の代替になるわけではありません。それよりも大きいのは、暮らしや命に対する考え方がちょっとずつ変わってきたことだと感じています。
──自然の力を借りること。そこに行き着いたのは、西会津で生まれ育ったことも影響しているのでしょうか。
清野:学びを深めたら、自分のなかに西会津で培ったものが蓄積されていることを思い出した、みたいな感覚はありますね。一度地元を離れて都会に住み、バリバリ働く世界に飛び込んで。そのあとまたシフトチェンジして、自然な暮らしを見つめ直したときに、「そういえば私のなかにそういう感受性があったな」と気づきました。
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前回のTABICAのワークショップ「自然と繋がる暮らし からだに寄りそう野草茶レッスン」。
──清野さんから見て、西会津はどんな場所ですか?
清野:離れた場所で暮らしているときも年に数回帰ってきてはいたのですが、西会津国際芸術村で働き始めてしょっちゅう来るようになってから、一段と西会津がおもしろいなと感じるようになったんです。なんていうのかな、ただ帰省をするという関わり方をしていた頃は、実家に帰って、いつものごはん屋さんに行って……と、行動パターンがだいたい一緒だったんですよね。新しい人に出会うきっかけもなくて。でも今は、“外”の目線も持った状態でここに立っているし、西会津国際芸術村にいらっしゃった外部の方と関わる機会もたくさんあります。そんなふうに、内と外、両方の視点から地元を見ると、すごくおもしろい場所だなと。
西会津町は新潟と福島の県境で、昔は新潟からの物流の道の途中にある宿場町だったりもしたんです。いろんな人がとどまって、いろんな物を交換したりする場所の一つだったので、“境目感”というか、文化がミックスされている魅力もあります。
それから、自然がすごく豊かなので、暮らし方の感性の半分ぐらいを自然に明け渡しているところがあるんですよ。たとえば空を見て、「午後から雨が降りそうだから午前のうちにやっておこう」とか、「冷え込みが厳しい日は(道路の凍結が心配だから)出かける時間を変えよう」とか。自分でどうにかできる範疇を超えているものとして自然を受け入れ、無理に自分の思い通りにしようとしない。西会津の人は、ナチュラルにそういうことができているなと感じますね。逆らえないものが自分のなかに存在すること自体が、価値観の多様性も生むと思います。
──2拠点を往来する生活は、異なる土地の文化を代わる代わる感じていくことでもありますよね。そこから影響を受けることはありますか?
清野:西会津と長岡、それぞれの拠点で仕事に対する向き合い方がまったく違うので、いい意味でミックスできていると思います。自分の中で文化交流が起きている感じがすごくある。双方の“違い”をうまく活かして生まれる、私自身の変化を楽しんでいます。
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上/西会津国際芸術村で行ったイベント「草木をまとって山のかみさま」。
下/西会津の山で草木を積む清野さん。
──2021年5月に再び開催する、TABICAのワークショップではどのようなことを行う予定ですか?
清野:5月は植物が芽吹いていくタイミングなので、そういう季節感を伝えたいなと思っています。前回は乾燥させた野草を持っていったので、今回は生の葉っぱを使えたらいいなって。生だとすごくフレッシュ感があって摘みたての香りがするので、西会津の草むらに立っているような雰囲気が味わえるはずです。もしも東京で対面の形で開催できたら、東京の街なかにある野草を使うことも考えています。
──東京で自然と触れ合うには公園に行く以外の手段を知らなかったりするので、野草茶という方法で自然とつながれたらすごくいいですね。
清野:公園とかに生えている草でも、名前や、お茶にして飲んだときの味や効果を知ると、自分にとってただの雑草ではなくなるわけですよね。そんなふうに世界の見え方が変わるのも、すごく大事なことだと思います。
どうやったらこの自然を届けられるか、自然に対するワクワクする気持ちをみなさんにも体感してもらえるかなと、ワークショップの企画を考えるのはすごく楽しいんです。春に、雪と地面との間に緑の葉が少し出てるのを見たときの喜びなど、なかなか西会津に住んでいないと感じられないことも、野草茶やお話と一緒に届けたい。私にとっても、いい勉強の機会になると思っています。
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前回のTABICAのワークショップ「自然と繋がる暮らし からだに寄りそう野草茶レッスン」。