赤武酒造、復活の軌跡

22歳という若さで赤武酒造の杜氏(製造責任者)を担うことになった古舘龍之介さんは、笑顔が印象的な人だ。東京農業大学で醸造学を学んで1年目の3月、故郷の岩手県大槌町を津波が襲い、歴史ある蔵は流された。父・秀峰さんは迷った末、盛岡市に移って蔵を再建した。龍之介さんは、卒業後に跡を継ぐ決意を固めた。

利き酒のセンスがあった龍之介さんが造った酒を飲み、可能性を感じた秀峰さんは、22歳だった息子を杜氏に抜擢した。龍之介さんは、夜も昼も蔵に棲みつき、寝る間も惜しんで酒造りに没頭する。試行錯誤の末、ついに造り上げた。狙ったのは、バランスがよく飲みやすく、驚きと感動のある酒。名前は社名を冠した「AKABU」に決めた。

秀峰さんは「酒造りは人創り。いい酒を造るためには、いい人間が育たなければならない」が口癖だ。20~30代が中心のスタッフは鮮やかな赤い作業ジャケットを身に着け、きびきびと働いている。AKABUのボトルはスタイリッシュなデザインと武骨なネーミングの取り合わせが新鮮だ。そこに、若き杜氏が目指す日本酒の「柔らかさと凛々しさ」が表れているようにも見える。