トランヴェール Train Vert
トランヴェール 2020年7月 東日本

2020年 7月号 特集
いつか旅に出よう、
冒険者たちのように。

困難を乗り越え、未知との出会いを喜びに変えてきた冒険者たちの旅をたどる。江戸時代に来日し、徳川家康や伊達政宗にも会ったスペイン人ビスカイノや、明治時代に日本の山間を自らの足で歩いたイザベラ・バード、お雇い外国人のナウマンらが旅で感じた興奮を追体験し、彼らのまなざしを通じて東日本の魅力と旅の素晴らしさを再発見する。

江戸時代、
世界を一周した日本人がいた!

気球を覗いている見開きの文書

江戸時代後期、世界一周をした日本人がいた。寛政5(1793)年11月、仙台藩の船頭・津太夫は、現在の宮城県石巻港から15人の仲間とともに出航。江戸へ御用米や御用木などを送り届ける予定だったが、航海途中に暴風に遭い、ロシア帝国領の小島に漂着してしまう。その後、仲間を失う苦難もあったが、異国の文化に触れながら、約11年をかけて長崎に着いた。この壮大な世界一周の行程を、仙台藩の藩医だった蘭学者の大槻玄沢が津太夫にインタビューしてまとめたのが、文化4(1807)年に編さんされた『環海異聞』である。
一行はロシア帝国の首都・サンクトペテルブルクで要人級の待遇を受けた。享和3(1803)年には、皇帝アレクサンドル1世に謁見したのち、気球の有人飛行を見学している。(一関市博物館蔵)

観覧車の写真

この観覧車はイルクーツクで見たもの。「この町では2月中旬くらいに祭礼があり、見世物もあったそうです。祭礼の間は罪人たちも許され、牢から出ることができるそうですが、彼らが観覧車を回していました」と一関市博物館の学芸員・相馬美貴子さんが解説する。海外旅行が原則として許されなかった当時の日本人は、遠い異国の文化へ憧れを抱いていたに違いない。それもあってか『環海異聞』は、江戸時代末期にかけて多くの人に書き写され、広く読まれたという。