トランヴェール Train Vert
トランヴェール 2020年5月 伊豆

2020年 5月号 特集
伊豆の街で昭和レトロ浪漫

昭和30年代、団体旅行客や新婚旅行の人々で賑わった熱海や伊東。その喧噪も、ひっそりと静まる時代を迎えたこともあった。しかし今再び、“昭和”の雰囲気を求めて、若者やその親世代まで多くの人が訪れている。活気を取り戻した伊豆の街へ、昭和レトロを味わう旅に出た。

レトロな町、熱海
喫茶店とスナックはしご旅

ボンネット

古き良き昭和を感じさせる店があちこちに残る熱海。昭和レトロな空間をこよなく愛する難波里奈さんと熱海の喫茶店探訪へ。まず訪れたのは、昭和27年創業の熱海きっての老舗「ボンネット」。今も店を切り回す店主の増田博さんは、昭和4年生まれ。看板メニューのハンバーガーは、戦後間もない銀座の将校クラブで出合い、日本人好みの味にアレンジしたものだという。これが昭和の中頃、地元の芸妓さんたちのほか、三島由紀夫や越路吹雪などにも愛された。今も変わらぬ味を守っている。

熱海銀座商店街

喫茶店を出て通りを歩けば、昭和の風情そのままの干物店や和菓子店など古い町並みが残る一方で、若者が行列をなす新しいスイーツ店もあり、目移りするほどの楽しさだ。しばらく散策するうちに、熱海の街は灯ともし頃に。熱海銀座商店街のネオンはどこか温かみがあり、カモメのオーナメントも愛らしい。お酒も大好きだという難波さんとともに、昭和の時代から熱海の夜を見守り続けてきたスナックへと足を運んだ。

スナック亜

風情ある糸川遊歩道から少し入ったところにある、古びたモルタル造りの店が「スナック亜」だ。少し怪しげな雰囲気にためらいつつも扉を開くと、ママの公己枝さんが笑顔で出迎えてくれた。40年以上前に公己枝さんの母が居抜きで商売を始めてから、ほとんど変わっていないという店内は、潔いミニマムさで「大人っぽくて茶室みたい」と難波さん。カウンターの程よい距離感と、飾らない語り口に癒やされながらワイングラスを傾けた。