草野心平の福島と
仙台の文学

旅は福島県いわき駅へと至る。ここで訪ねたいのは、いわき出身の詩人・草野心平の足跡だ。蛙をうたった詩作が多く、「蛙の詩人」と呼ばれる。『春殖』は「る」が紙面の幅いっぱいに並び、蛙の卵が連なっているようにも、蛙がたくさん並んでいる姿にもとれる作品。駅から車で約20分の「草野心平記念文学館」では心平の詩にさまざまな形で触れられる。館内に入るとロビーから阿武隈山系の山並みが見え、一幅の絵画のようだ。

草野心平記念文学館から車で約1時間30分、福島県川内村に足を延ばす。ここには、草野心平が63歳のときに設立され、第二の故郷として愛した天山文庫と呼ばれる古民家が残されており、公開されている。茅葺屋根の民家風でありながら、開口部の大きいモダンな室内の民藝風建物は建築家・山本勝巳の作品。村民たちが一木一草を持ち寄り建物と庭を造り、草野心平は庭の大きな石の上で作業の指揮をしたというエピソードもある。

再び常磐線に乗り、終着の仙台を目指す。車窓の両側にはずっと、水田の風景が続く。名取川を渡ると、東北一の大都会が姿を見せてくる。仙台には、ベストセラー作家の伊坂幸太郎、東北大学医学部に進んだ作家・北杜夫(きたもりお)、東北学院の教師として赴任した島崎藤村など、この街にゆかりの深い作家が多い。仙台駅から車で15分ほどのところにある「仙台文学館」では、そんな作家たちと仙台の街の関わりが詳しく解説されている。