トランヴェール Train Vert
トランヴェール 2019年12月 岩手/秋田/宮城/福島/山形/青森

2019年 12月号 特集
東北の手仕事めぐりで
冬じたく

昔の東北の人々は、雪が降り積もる長い冬の農閑期には手仕事をして過ごしてきた。その文化が残り、今でも東北では郷土玩具や織物などの優れた作り手たちが活躍している。深まる冬を前に、人の手で作られたほっこりあたたかみのある“手仕事”を探しに東北6県へ旅に出た。

甲斐みのりさんがめぐる
東北の「めでたい」郷土玩具

甲斐みのりさん

地域らしさが詰まったものを発掘する名人、文筆家の甲斐みのりさん。中でも目がないのは、各地で縁起物として愛される郷土玩具だ。「風土と密接に結びつき、暮らす人の心根が佇まいに浮かぶのが魅力」と語る甲斐さん。新しい年を迎えるのにぴったりの、かわいらしくて“めでたい”郷土玩具を探しに、福島・山形・青森の工房をめぐる旅に出た。

ピンク色でリボンを背負ったオリジナルべこ

福島県会津地方の郷土玩具・赤べこは、ゆらゆらと首を動かす姿でおなじみ。赤べこを擁する会津張り子の老舗工房「野沢民芸」を訪れた。野沢民芸のルーツは、なんとこけし作り。木の加工に熟練していた元こけし職人たちが最初に張り子作りの中心となり、型を手作業で仕上げていたのだそう。工房の見学のあとは、作業場で赤べこの絵付け体験。甲斐さんは、ピンク色でリボンを背負ったオリジナルべこを完成させた。

猫に蛸

郷土玩具を蒐集する中で、甲斐さんがとくに心奪われたというのが、山形県米沢市に約230年続く土人形・相良(さがら)人形の「猫に蛸」だ。ユニークな佇まいと「猫に多幸」をかけた縁起の良さで人気を呼んでいる。相良人形の8代目・相良隆馬さんが絵付けする様子を、特別に見学させてもらった。器用に絵筆を動かす様子に甲斐さんが見入っていると、「相良家の男は代々手が小さい。そのほうが人形が作りやすい」と隆馬さんが教えてくれた。

八幡馬

古くから馬の産地として知られる青森県八戸市では、700年以上前から八幡馬という木彫りの人形が作られ続けている。鉈彫りの伝統的な手法をただ一人受け継ぐ八幡馬の職人、大久保直次郎さんのもとを訪ね、制作の様子を見学した。のこぎりで木材を切り出し、鉈一本で馬の形に仕上げていく。「熟練の手業に見惚れる」と甲斐さん。最近では、長野県に暮らす次女・優子さんも小さなサイズの八幡馬を彫り始めたというから、今後が楽しみだ。