トランヴェール Train Vert
トランヴェール 2019年5月東京

2019年 5月号 特集
時を駆ける、東京時間旅行

2019年5月に改元が行われ、時代は「平成」から「令和」へと代わった。新しい時代が始まったそのとき、明治、大正、昭和、平成を振り返り、そして次の令和を覗き見る “時間旅行” へと出発。世相を色濃く反映しながら変貌を遂げてきた都市・東京を舞台に、時代ごとに異なる文化を感じる旅に出た。

近代建築でめぐる明治の旅

三菱一号美術館

急速な近代化・西欧化が進められ、和洋折衷の文化が花開いた明治時代。その時代の空気を感じられるのが近代建築だ。明治初頭、近代国家の建設を目指し、政府はヨーロッパの技術を取り入れようと “お雇い外国人” を招いた。明治10(1877)年に来日したイギリス人建築家のジョサイア・コンドルもその一人。写真は、コンドルの設計で “丸の内初のオフィスビル” とされる「三菱一号館」を可能な限り忠実に復元した建物。現在は「三菱一号館美術館」として公開されている。

旧古河邸

西洋建築を伝えるために来日したコンドルだったが、彼は日本建築のデザインに興味を引かれる。その一端をうかがえるのが「旧古河邸」だ。一見、絵画の世界に迷い込んだかのような洋館だが、2階の扉の奥には畳敷きの和室が広がっている。コンドルの興味は、日本画や華道、日本庭園など多岐に及んでいた。日本人を妻とし、日本で没するなど、生涯にわたって日本を愛した建築家であった。

東京駅丸の内駅舎

コンドルに課せられたもう一つの使命、それは自身の後に続く日本人建築家の育成だった。温厚な性格で、講師と学生という垣根を越えて議論をすることもあったといわれているコンドル。彼の門下からは、「東京駅丸の内駅舎」を手掛けた辰野金吾や、「迎賓館赤坂離宮」を手掛けた片山東熊など、日本建築史に名を残す建築家が巣立っていった。コンドルと教え子たちの建築は、近代化を目指し、成し遂げた明治時代の精神を見事に表現している。