株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長
秋元 里奈さん

農業や水産業など、いわゆる一次産業の生産者は、残念ながら減少の一途といわれる。
未来の食を考えたときに、決して無視できる問題ではないはずだ。
後継者の不足なども、生産者が減っている理由ではあるものの販路の確保・拡張が難しいという側面も……。
そうした状況を受けて、ここ数年で生産者と消費者を直接つなげる動きがみられるようになってきた。
とはいっても利益を上げながら、生産者と消費者の両方にメリットが感じられるような仕組みを作るのは決して簡単ではない。
そんな中でも、成功を収めているのが「食べチョク」だ。
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「ビビッドガーデン」の社名には、“色鮮やかな農地をもう一度”という想いが込められている
商品にこだわりをもつ生産者から、直接商品を購入できるオンラインマルシェ「食べチョク」は、約2400件以上の生産者が参加するいわばウェブ上のファーマーズマーケット。運営会社の株式会社ビビッドガーデンを率いるのは、2016年に25歳で起業した若きリーダー・代表取締役社長の秋元里奈さんだ。
実家が神奈川県相模原市の農家だった秋元さんは「後継者不足や高齢化、耕作放棄地など農業が抱える課題はたくさんありますが、農家の大きな課題の一つに、販路の選択肢が少ないことが挙げられます。こだわりの生産物をつくる生産者ほど、“儲からない”のが現実です。そこで、生産者が直接、消費者とつながることで、農家の所得向上を目指したいと思いました」と起業のきっかけを振り返る。
産直の生産物を扱うネットスーパー型のサイトは他にもあるが、食べチョクは生産者自らが値付けをして、出品、出荷までを行うのがポイントだ。生産者の粗利が確保できるだけでなく、消費者と直接つながることで、顧客の声を聞くこともメリットとなる。
「生産者はモチベーションがあがり、マーケットのニーズに対応する発想が生まれます。また、生産物の売り買いだけでなく、生身の人間同士がやりとりすることも魅力です。消費者から“商品と一緒に農家さんからの手紙が入っていて、まるで実家からの仕送りみたいでうれしかった”との声も聞かれました」と秋元さん。
立ち上げ当初は、「こだわり」をわかりやすくするために、オーガニック野菜の農家に限って参加者を募り、1年で160軒の農家と契約した。2年目には農家数は数百件にふくれ上がり、オープンから3年目の2019年には、肉や魚などの生鮮食品全般に対象を拡大。さらに現在は、コロナ禍によって出店を予定していたイベントの中止や、飲食店の仕入れがなくなった生産者からのSOSを受けるかたちで、オーガニックである条件を外して運営している。
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生産者の顔や生産地の空気まで一緒に自宅に届くのが「食べチョク」の魅力の一つだ
「コロナ禍では、何トン、何千個とかつて聞いたことがない単位で、生産物の出口がなくなったという生産者からの悲鳴が数多く寄せられました」と秋元さんは話す。
食べチョクでは、公立小中高の臨時休校がはじまった3月にいち早く、全商品の送料500円や、野菜セット定期便「食べチョクコンシェルジュ」の初回お届け1000円分を、独自にビビッドガーデンが負担する「コロナ応援プログラム」を打ち出し、生産者と自宅での「巣ごもり」需要にこたえた。さらに、休業を余儀なくされた飲食店の支援も兼ねた、シェフのレシピ付き食材の販売も手がけ、生産者・消費者・飲食店の支援に取り組んでいる。
秋元さんは「新型コロナウイルスの罹患者の動向にもよりますが、夏から秋にかけてフルーツ類が収穫期を迎えます。しかし、果物狩りなど観光ベースの需要が例年よりも少なくなることが予想され、生産者が困っているという話も聞きます。食べチョクでできる支援には迅速に取り組んでいきます」と真剣な顔で話す。
コロナ禍への対応だけではない。現在、オンラインの操作が苦手な人や高齢の生産者も食べチョクに出店できるよう、自治体との連携事業や、生産アイテムが少ない生産者が近隣の生産者とグループを組んで出品できるシステムの整備にも取り組んでいる。
このように矢継ぎ早に新規事業を繰り出す秋元さんに、これからのヴィジョンを聞くと、輝く笑顔とともにこんな答えが返ってきた。
「食べチョクに限らず、これからも生産者の経営に役立つ企業でありたいです。生産者にとっても、消費者にとっても、選択肢がたくさんあることが、未来に続く豊かな食卓をつくると信じています」。
株式会社ビビッドガーデン
所在地:東京都港区白金台2-16-8
https://www.tabechoku.com/