トップメッセージ

2024年4月

東日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長 喜㔟 陽一

JR東日本グループは、1987年4月の国鉄分割民営化により発足して以来、常に安全を経営のトッププライオリティに掲げ、「鉄道の再生と復権」という国鉄改革の目的の達成に社員が一丸となって取り組むとともに、新たな事業フロンティアである生活サービスやIT・Suicaに果敢にチャレンジしてきました。この37年間は、決して平たんな道のりではなく、東日本大震災や直近のコロナ禍など、厳しい経営環境下での事業運営を課されることはありましたが、お客さまや地域の皆さま、株主や投資家の皆さまからのご支援、そしてグループ社員一人ひとりの努力と結束により多くの困難を乗り越え、今日までの成長と発展を見ることができました。

2024年度は、2つの意味で当社グループにとって大きな節目の年となります。まず社会的には、日本銀行のゼロ金利政策の転換に象徴されるように、ポストコロナの経済が本格始動する年となります。そしてグループ内にあっては、2024年3月末に国鉄採用世代の大半の社員が60歳の定年を超え、名実ともにJR採用世代が事業を担う時代となりました。また、グループ経営ビジョン「変革2027」策定時に想定していた人口減少や少子高齢化、人手不足、人材の流動化などは、想定を超えるスピードで進展しています。さらには、コロナ禍で社会の価値観や人々のライフスタイルが大きく変容しました。生成AIの登場により技術革新は日を追って加速し、脱炭素社会に向けた取組みは地球規模の課題となっています。こうした世の中の大きな変容を、これまで事業全般にわたって取り組んできた構造改革をさらに加速させる好機と捉え、新たな成長戦略を描き、新しいJR東日本グループを変革の「主役」である社員とともに構築していきます。「変革2027」を発表した2018年から、それぞれの職場で業務改革、働き方改革、職場改革を3本柱とする構造改革を進めてきました。そして、その成果は、会社の体質を強くし、不安や気兼ねなく新たなチャレンジができる職場をつくり、社員が自らの成長を実感するという形で会社を着実に変えてきました。この構造改革で示された力を新しい時代に結集させ、お客さまや地域の皆さま、株主や投資家の皆さまからのご期待に応えられるよう努めてまいります。

私たちJR東日本グループは、何のために存在するのか。それは、世の中をより良くするために他なりません。「変革2027」の基本理念に立ち返れば、それは、「ヒト起点」で新たな価値を創造することで、すべての人の笑顔あふれる心豊かな生活を実現すること、そして、私たちの事業活動を通じて、社会が抱える様々な課題の解決に貢献していくことです。大きな時代の変革期にあることから、変えなければならない課題はますます増加していきますが、一方で決して変えてはならないこともあります。

決して変えてはいけないもの、その第一は「『究極の安全』の追求」です。安全がJR東日本グループの経営のトッププライオリティに位置づけられることは、決して変えてはいけないものです。「究極の安全」とは、常にゼロをめざす取組みの中で、不断に安全レベルを向上させていくという私たちの安全哲学の大基本です。新しい安全5カ年計画を2024年度よりスタートさせました。日々の仕事の中で、基本動作やルールがしっかり守られているか、作業の遂行にあたって盲点となっているところはないか、新たな課題はないかなど、改めてグループを挙げて点検し、確認いたします。そして、お客さまの死傷事故を絶対に起こさないことはもちろんのこと、私たちと一緒に作業に従事する協力会社の皆さまを含め社員の死亡事故という悲しい事象もなくさなければならない、という決意をグループ全体のものとしてさらに固めていきます。

次に変えていくものは、当社グループは新しい時代に向かって、鉄道を中心としたモビリティと生活ソリューションの二軸で経営を支えていく、ということです。新しい時代に向かって、当社グループは、いかなる経営環境の変化にあってもサステナブルに成長を続ける強靭な経営体質の構築に取り組んでいきます。

まずモビリティの中心である鉄道については、お客さまの日々の生活と日本の経済活動を支える重要な社会インフラであるとともに、地域を元気にするという役割は、今後とも変わるものではありません。当社グループの成長の基盤である「信頼」は、鉄道の安全・安定輸送が支えています。鉄道にこれからも様々な先進的な技術や知見を積極的に導入することで、時代の先端を行く技術サービス事業に成長させていきます。また鉄道におけるこれまでの技術的蓄積から、新たなビジネスを創出していきたいと考えています。急速に過疎化が進む地方において、もはや鉄道としての特性を発揮することができなくなった線区のあり方については、何がサステナブルな交通モードか、地域の皆さまとしっかり議論をしていきます。もちろん、鉄道に限らず、私たちの幅広い事業活動により地域に向き合っていくという姿勢に変わりはありません。

一方の生活ソリューションについては、「TAKANAWA GATEWAY CITY」に象徴されるように、当社グループには大きな成長の基盤と潜在力があります。激しい競争環境の中で、当社グループのポテンシャルをビジネス化していくためには、当社グループに集まる膨大なデータや情報を駆使したマーケティング戦略により、駅空間などリアルなアセットを持つ当社グループの強みをさらなる強みとして再構築します。そして、戦略的提携などを通じて新たな事業フロンティアを拡大していきます。失敗を恐れず、果断なチャレンジにより、当社グループの「成長のエンジン」を創出していきます。

「変革」はJR東日本グループがめざす価値創造ストーリーです。この価値創造は、社員一人ひとりの成長がベースとなります。インド高速鉄道プロジェクトをはじめ、グローバルなビジネス展開は、グループ社員の幅広い挑戦機会にもなります。もちろん、国内においても、モビリティと生活ソリューションの両分野において、グループ社員の活躍のステージを拡大していきます。そして、トップダウンの発信とともに、社員からの様々な発信やチャレンジが、経営というステージで融合することで、一人ひとりが経営への参画意識をもって活躍できる、新しい経営と社員との関係を創造していきます。それによって、グループ社員の成長期待にしっかりと応え、確固たるエンゲージメントを構築していきます。

最後に、JR東日本グループは、より良い世の中を創るための事業活動を通じて利益成長をし、創出された利益を、お客さまや地域の皆さま、株主や投資家の皆さま、そして社員や家族の幸福の実現に還元するとともに、グループの成長にも振り分け、こうした成長と創造のサイクルを回していくことによりサステナブルに発展する、「四方良し」の志の高い企業グループでありたいと考えています。

お客さまや地域の皆さま、株主や投資家の皆さまにおかれましては、当社グループの未来への飛躍に向けて、今後ともご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長
喜㔟 陽一