東京感動線

色とりどりの葉に書かれたメッセージ。
たくさんの人の願いが集まって完成した
駅の参加型インスタレーション
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HAND!in Yamanote Line
‐山手線でアートと音楽を楽しむ15日間‐
「STATION EDEN」

交流・体験
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2020年11月に開催(※)した「HAND!in Yamanote Line‐山手線でアートと音楽を楽しむ15日間‐」では、山手線の全30駅を中心にさまざまなアートと音楽のイベントを行いました。
そのひとつとして高田馬場駅の早稲田口に登場したのが、参加型インスタレーション「STATION EDEN」です。紙の葉の装飾と映像で彩られた壁面。そこに、駅を訪れた人がメッセージを書いた葉が日々加わり、完成していくという作品です。会期終了間近、本作の装飾を手がけたフラワークリエーターの篠崎恵美さん(edenworks)にお話を伺いました。インタビューには、企画およびクリエイティブのディレクションを担当した力丸聡さん(GFA・known unknown)と、東日本旅客鉄道株式会社の星野宏侑も同席しました。
※2020年11月16日(月)~12月25日(金)の期間実施しました。

【最初の画像】
左から、星野宏侑、篠崎恵美さん、力丸聡さん。

駅に自分たちなりの楽園を表現する

──普段の活動について教えてください。

篠崎 ウインドウディスプレイや、広告でのセットや小道具の制作といったクライアント業務と、ふたつのフラワーショップの運営、それからアーティスト活動も行っています。

──お仕事で大切にしていることはなんですか?

篠崎 特にクライアント業務では、自分がつくりたいものをつくるのではなく、依頼してくださった人と話し合って作品をつくり上げていくことを常に意識していますね。相手がなにを求めているのか、そのためになにが必要になるのかなどを、まずはしっかりとヒアリングするようにしています。
アーティスト活動もしていますが、あまり“アーティスト”とは謳っていなくて。どちらかといえば“クリエイター”とか“職人”というイメージでしょうか。特に、手作業で和紙から立体物の草花をつくる「PAPER EDEN」では、その意識が強くなります。「STATION EDEN」もPAPER EDENを使った作品なので、職人然としていたと思います。

──「STATION EDEN」の企画はどのようにして練っていったのですか?

星野 駅でアートや音楽を楽しむ「HAND!」の一環としてなにをやるかと考えたときに、すぐに篠崎さんが思い浮かびました。高田馬場駅の改札外にあるカフェ「STAND by bookandbedtokyo」に篠崎さんのインスタレーション作品が常設展示されているのですが、その世界観が駅の中にまで拡がったらとても素敵だなと。それで、「高田馬場駅で篠崎さんと作品をつくれないか」と力丸さんに相談したんです。

力丸 相談を受けて、まずは東京感動線のコンセプトを踏まえながらJRさんと企画の大枠を練りました。それから、僕がクリエイティブディレクターとして篠崎さんに依頼をして。

篠崎 星野さんからSTATION EDENのご提案を聞いたとき、名前がすごくいいなと感じたんです。“EDEN”という言葉が表すのはひとつの意味ではなくて、それぞれが思う楽園の形があると思っているんですね。たくさんの人が集まる場所であり、別の街に向かうスタート地点、帰ってくるゴール地点でもある駅に、私たちが思う楽園を表現する。そこに誰かのメッセージが息づいて、想いが伝わっていき、また別の街につながっていく。そんなイメージを持ちました。

わずかに余白を残した、未完成な作品

──STATION EDENは、参加型というのも大きな特徴ですね。

力丸 こういうのって、ただかっこいいだけではあんまり意味がないんですよね。今回大事にしたのは、一般の方がつくる側として参加し、どれだけ楽しんでもらえるかということです。そう考えたときに、PAPER EDENはすごくはまるんじゃないかと。紙だからメッセージを書けるし、なにかに貼ったりしても面白い。幅広い世代が楽しめる作品になると思いました。

篠崎 紙って、慣れ親しんだものですしね。紙を切ってお花をつくるようなことは、きっとみなさん、幼稚園ぐらいからしていると思います。昔からある素材を、ちょっと斬新な色合いにしたり、星型やハート型のようなわかりやすい形状にしたりして、小さい頃に体験した遊びを大人になった今楽しんでもらいたいという気持ちも込めました。

──装飾をするうえで意識したことはありますか?

篠崎 やっぱり、参加してくれたり、作品を見た人の想いをつなげていくことを一番意識しましたね。いろんな年代の人が利用する場所なので、たとえば色合いは“わかりやすいけど、ちょっとオシャレにかっこよく”というイメージで考えました。

力丸 葉っぱは全部手づくりで、すごくかっこいいんですよ。

篠崎 2000枚ぐらいつくったので、切った紙を成形する作業にけっこう時間がかかりました……。1枚1枚、体温をかけながら曲げていくんですが、やりすぎると折れてしまうし、やらなさすぎると立体感が出ない。PAPER EDENのもともとのコンセプトには、日本人の手仕事の“いい塩梅”を表現するというのがあるんです。やりすぎずやらなさすぎず、完成一歩手前で終わらせて、見る人や使う人が完成させるのがPAPER EDENの醍醐味。そういう視点からも、参加者によって完成したSTATION EDENを見るのがとても楽しみです。
ちなみに、設営のときはすごく寒かったんですけど、すごく楽しかったんですよ。学祭みたいにみんなで張り切って、「力丸さん早く貼ってください!」なんて言いながら(笑)。

力丸 「篠崎さんもうバテてるよ」とかね。

星野 サボる男子とそれを怒る女子みたいでした(笑)。

篠崎 (笑)。ああいうのって、なんだかいいですよね。チームで同じ目線に立って、一緒にものづくりができた実感がありました。

今だからこその願いが書かれたメッセージ

──メッセージを書いていただいた数はどれぐらいあったのですか?

星野 120枚近く書いていただきまして、予想を大きく上回りました。

篠崎 コロナ禍で外出するのが難しい時期だったので、最初は「30枚くらい書いてくれたらうれしいね」と話していたんです。

力丸 本当に、こんなに書いてくれると思わなかった。

星野 中国語や韓国語で書かれたものや、駅の近くにある日本点字図書館さんが、利用者の方のメッセージを点字で打ってくださったものもあります。
メッセージを書いてもらった葉っぱの貼付けをしているときに、お子さんが可愛らしく声に出して読んでくれていたり、おじいちゃんが「僕は世界中を旅して回っているんだけど、こんなに素敵なアートを駅でみたことがないよ」と声をかけてくれたりして。コミュニケーションが生まれたことも、すごくうれしかったですね。

篠崎 自分の願いごとではなく、まわりを気遣うメッセージが多かったのも印象的です。「早くコロナがおさまりますように」とか、「世界がよくなりますように」とか。こういう状況だからこそ、結束してみんなで乗り越えようという想いが映し出されているように感じました。STATION EDENは、1枚の葉っぱでは到底できあがらない作品です。数千枚が集まったから、美しい色のグラデーションも生まれて、作品を完成することができた。それってすごいな、奇跡だなって思います。私のなかでも、すごく意味深い作品になりました。


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