東京感動線

世界規模のタンパク質不足から
解決策として注目される「人工肉」
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「肉 Meat」
インテグリカルチャー

代表取締役CEO羽生雄毅さん
羽生雄毅さん
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世界的なタンパク質不足
その原因は新興国の……

焼き肉や牛丼、ハンバーガーなどの肉類は、戦後の経済成長や食生活の欧米化に伴って、いまや私たちの食生活になくてはならないものだ。今年7月に農林水産省が発表した統計によると、2018年度の日本国民1人当たりの牛肉・豚肉・鶏肉の合計消費量は33.2kg/年と、過去最高を更新している。
一方で、世界的な人口増加による食料不足の問題は深刻さを増している。特に新興国の経済発展により、今までパンやコメなどの「炭水化物」からエネルギーを摂取していた人たちが、嗜好品として肉や魚介類などの「タンパク質」を消費する傾向が出てきたことから、地球規模でのタンパク質の供給不足が懸念されている。2050年には、世界の肉の全体消費量が現在の2倍になるといわれ、タンパク質の供給不足問題は待ったなしの状況だ。
こうした中、アメリカでは「インポッシブルフーズ」や「ビヨンドミート」などのベンチャー企業が、植物から人工的に肉を作りハンバーガー用のパテなどとして利用している。日本発の“人工肉”も注目されつつあり、その白眉が、インテグリカルチャー株式会社が大量生産を目指す「細胞培養肉」だ。

【画像1】
汎用性の高い低コスト細胞培養プラットフォーム技術である「CulNet System(カルネット・システム)」を使うと、大規模化すれば肉1kgを200円で作ることができる

SFの世界が現実に
細胞を増やす「培養肉」

「“培養肉”を作ろうと思ったきっかけは、幼いころから好きだったSFの世界に定番のクールなガジェット(小道具)としてあったからです。『ドラえもん』にも似たものが出てきますよね」と笑顔で話すのは、代表取締役の羽生雄毅さん。「培養肉は、技術的に実現できそうだったのと、自分の専門分野の化学が活かせそうだったからです」と開発の動機を話す。
そこで、羽生さんは2014年に研究者や学生などで構成する細胞培養肉の研究開発のための有志団体「Shojinmeat(ショージンミート)Project」を立ち上げ、純粋に細胞を増やして作る「純肉」の開発に着手。プロジェクトには10代~70代の人々が参加し、一般の人も使えるバイオ技術の開発・公開に取り組むと同時に、産業規模での「純肉」の製造と事業化を目指すインテグリカルチャーを起業した。
「細胞培養は動物の体内で起こっていることを人工的に行うものです。従来の食肉とは異なり、細胞の提供元の動物をと畜する必要がなく、環境への負荷も大幅に削減できます。また、細胞の培養液を見直すことで、先行する培養肉の製作にかかる費用とは比べられないほどのコスト減を実現しました」と羽生さんは説明する。
まさに近未来「SF」の世界に思えるが、実際にこの技術を使った「培養フォアグラ」は、2021年に一部のレストランで提供をスタートする予定だ。さらに将来的には、各家庭でウシ、トリ、エビなど複数の動物の細胞を合わせて新たな味わいの「肉」を作り出したり、カルシウムやDHAなどの栄養素を自由に増強したりと、さまざまな可能性が広がっているという。羽生さんたちはこれらの肉を「デザイナーミート」と呼び、新たな食文化の創生も目指している。
 テクノロジーで「食」が抱えるあらゆる課題を解決する「フードテック」。現在、生産から流通まで多くの領域でフードテックの取り組みが進められている。しかし、インテグリカルチャーが取り組む「大量培養細胞技術」は、フードテックによる食料問題の解決だけでなく、新しい食文化の未来をも切り拓くものなのだ。

【画像2】
2021年に一般の人たちも食べられるようになる予定の「培養フォアグラ」(2019年8月撮影)。
「Shojinmeat Project」では、すでに2017年に試食会を行っている

アクセス

インテグリカルチャー株式会社
所在地:【新宿オフィス(東京女子医科大学内】東京都新宿区河田町8-1 TWIns3階N101

https://integriculture.jp/

代表取締役CEO 
羽生雄毅さん

羽生雄毅さん
1985年生まれ。2006年オックスフォード大学化学科卒業、2010年同学博士課程修了。東北大学PD研究員、東芝研究開発センターシステム技術ラボラトリーを経て、2014年、細胞農業の実現に向けて、細胞培養肉の研究開発のための有志団体“Shojinmeat Project”を立ち上げた。さらに2015年10月、インテグリカルチャー株式会社を共同設立し、代表取締役CEOに就任

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