「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.602022/10/26

フレンチレストラン「climat(クリマ)」シェフ
関川 裕哉の想い

道南の豊かな「風土」を生かした一皿を。

「TRAIN SUITE 四季島」3泊4日/春~秋コースの2日目、函館~伊達紋別駅・登別駅間での昼食を担当するのは、北海道北斗市のフレンチレストラン「climat(クリマ)」のシェフ、関川裕哉だ。道南の豊かな自然が育んだ素材から生み出された、「あたりまえだけど、あたりまえでない」一皿に想いを込める。

※料理写真はイメージです。
季節によってご提供するメニューは変わります。



道南の豊かな「風土の味」を伝えたい

私は北海道の道南エリア、七飯(ななえ)町で生まれました。ここは農業、酪農、畜産がとても盛んな地域です。東京の料理専門学校やフランスでの修業を経て、札幌や函館など道内のレストランで働いてきました。20代後半に自分自身のこれからの生き方や暮らし方を考え、生まれ育った道南に移り住むことになり、2017年に北斗市にレストランをオープンしました。店名の「climat」とは、フランス語で「風土」を意味します。フレンチをベースにしながら、道南の旬の食材を通じてこの地ならではの風土を感じていただきたいという想いを込めました。
道南は、札幌などの道央と比べて緯度が低いため、年間を通じて寒暖の差が小さく、温暖な気候で積雪が少ないのが特徴です。野菜や肉、お米、そして魚まで美味しい食材が揃っています。また、この地にしかない食材が豊富にあることも自慢です。例えば、七飯町・福田農園さんで栽培されている「王様しいたけ」。笠(かさ)の直径が10センチ、厚さが3センチという手のひらほどもある規格外のしいたけです。ソテーしても、煮ても、天ぷらにしても美味しい。噛むほどに口の中に広がる旨味に魅了され、その名のとおり王様級の存在感があります。また、道南のシンボル、駒ヶ岳の麓で育った森町・道南アグロ農場さんの「ひこま豚」。徹底した衛生管理と自然飼育にこだわった肉質は、クセがなくあっさりとしていて、どんな調理法にも合います。その他、ワインやチーズも丁寧につくられたものが多く、可能なかぎり食材を用意して、「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまにも召し上がっていただいております。


意外性が新鮮。「大根が主役」の料理

また「TRAIN SUITE 四季島」では、珍しい食材だけではなく、家庭料理でお馴染みの普段使いの食材を使った料理もあえてお出ししています。2022年には、新たに「越冬大根とホッケ」という料理をメニューに加えました。越冬大根は秋に収穫した大根に土をかぶせて冬を越させ、真冬に雪の下から掘り起こしたもので、甘みが強いのが特徴です。この越冬大根のポタージュに、細かく角切りにした越冬大根、函館産のワカメ、江差町沖で獲れる檜山(ひやま)産の紅ズワイガニ、そしてスパイスで風味をつけたホッケのフリットを合わせました。「毎日家で食べているような大根やホッケを主役にしたい」という想いから生まれたレシピでした。お客さまは「これ、本当に大根なの?」「ホッケも焼くだけではなくて、こんな調理の仕方もあるんですね」と大変驚かれます。また「どこかホッとする味ですね」という感想もよくいただきます。家庭料理で馴染みのある食材をこんなふうにお客さまに喜んで受け入れてもらえたのは、とても嬉しい体験でした。

※料理写真はイメージです。
季節によってご提供するメニューは変わります。



「あたりまえだけど、あたりまえでない」料理を

この約5年間、「TRAIN SUITE 四季島」を通じて新たな気づきや多くの出会いにも恵まれました。「TRAIN SUITE 四季島」にはさまざまな役割を担ったスタッフが関わっていますが、「お客さまの心に残る素敵な旅を届けたい」という想いは全員同じだと強く感じています。私は普段、ひとりでお店を切り盛りしているので、シェフやスタッフ、クルーの方々と料理の話をするのは楽しいですし、勉強にもなります。また、お客さまやスタッフの方からいただいた言葉を、生産者の方々にも伝えると、「今度は私たちにも食べさせてよ」と皆さんとても喜んでくれます。時々、車内でつくった料理をふるまうことがあり、「こんな食べ方があったんだね」と驚きの声をいただくと私も手応えを感じます。
以前、お客さまが私の料理に順位をつけ、感想を寄せてくださったことがありました。一つひとつの料理に丁寧に感想を頂けただけでもすごく嬉しかったのですが、そのなかに「ごく普通に食べていた食材がこんなに変わるのですね」という言葉があり、ハッとしました。「あたりまえだけど、あたりまえでない」。これこそ、私が料理人として目指してきたことだとお客さまに教えられた思いです。これからも「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまのご期待に応える、そんな料理を、心をこめてつくっていきたいと思います。
フレンチレストラン「climat(クリマ)」シェフ 関川 裕哉 [ 文=鈴木伸子 撮影=小山一成 ]