「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.592022/7/28

鉄道博物館館長 大場 喜幸 / JR東日本パーソネルサービス 濱口 純一の想い

「いってらっしゃい」「いってきます」
“お手振り”を通じて生まれたつながり

さいたま市大宮区にある鉄道博物館では、「TRAIN SUITE 四季島」が博物館前の線路を通過する際、来館者の方々と一緒に列車をお見送りする“お手振り”を行っている。運行開始当初、同館スタッフの発案で始まったこの“お手振り”は、現在、多くの来館者が参加する同館人気のイベントになっている。


反響が大きかった「TRAIN SUITE 四季島」運行5周年記念展とイベント

大場 喜幸:
鉄道博物館は、JR東日本創立20周年記念事業のメインプロジェクトとして2007年にさいたま市大宮区に開館しました。2018年の南館オープンを経て、鉄道や車両の変遷、運行の仕組みや鉄道に関する業務などについて実物や写真、模型などを用いて紹介しています。また、ミニ運転列車や運転シミュレータなどの体験型展示も数多くあり、子どもから大人まで楽しんでいただける博物館です。
2022年は日本で鉄道が走り始めて150年という節目の年で、当館でもさまざまな関連イベントを行っていますが、5月には「TRAIN SUITE 四季島」が運行5周年を迎えるということで、当館にてJR東日本主催の「TRAIN SUITE 四季島」運行5周年記念展やイベントを開催しました。車両や旅の行程のご紹介から車内に設えられている東日本各地の工芸品、旅の途中で提供される料理の写真や実際に使われている食器、クルーの制服などの展示を行いました。とりわけ人気だったのが、車掌やトレインクルーとの記念撮影会と「TRAIN SUITE 四季島」の実物車両の展示でした。来館者の方々にも大いに旅の魅力が伝わったようで、「すばらしい列車ですね」「いつか乗ってみたい」などのお言葉をいただきました。


“お手振り”から始まった交流

当館と「TRAIN SUITE 四季島」の交流は、2017年の運行開始の際に当館スタッフが自分達で始めた“お手振り”がきっかけですが、現在、この“お手振り”は鉄道博物館の正式のイベントになっています。列車通過の30分前になると、「『TRAIN SUITE 四季島』が当館前を走行しますので、一緒に“お手振り”をしましょう」と館内アナウンスを流し、参加されるお客さまには紙製の小旗をお配りしています。私も「とっても素敵な列車が来るので一緒に見にいってみませんか」と周りの方にお声掛けして、一緒に参加しています。また、館内掲示にも「“お手振り”イベント」を掲載するようにしました。
ありがたいことに、「TRAIN SUITE 四季島」の列車が博物館前を走行する際、かなりゆっくりとした速度で通過してくれます。車内のお客さまやクルー、車掌も私たちに手を振り返してくれて、運転士がミュージックホーン(汽笛)を鳴らすと、大いに盛り上がります。まさに一瞬のふれあいですが、これからも「TRAIN SUITE 四季島」という列車を通じて心が通い合う、そんな感動のひとときを共有できればと、願っています。


スタッフの間で話題になった「謎のヴェールに包まれた列車」

濱口 純一:
私は主に来館されたお客さまの案内業務を担当しています。2016年のことですが、館内から見える線路に見慣れない、しかしものすごく素敵なデザインの列車が時々やって来ることに気がつきました。スタッフの間でも「あの列車はいったい何だろう」と話題になり、調べた結果、翌年(2017年)から営業運行を開始する予定のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」だとわかりました。運行開始後もその列車は謎のヴェールに包まれたままだったのですが、私たちなりに情報を収集し、当館の前を通過する時間帯を見計らってスタッフ有志で列車に向かって手を振り始めました。
やがて来館者の方々も一緒に手を振ったらきっと楽しいのではと思いつき、列車の写真を載せたボードを自分で作って「一緒にお見送りしませんか? 車体の色もとても素敵ですよ」などとお声掛けして、お客さまと一緒に“お手振り”をするようになりました。


クルーから届いた感謝の手紙

ある日、「TRAIN SUITE 四季島」のクルーの方から博物館宛てに、「いつも手を振っていただいてありがとうございます」というお手紙が届きました。驚くと同時にクルーの皆さんが私たちの“お手振り”のことを気にかけてくださっていたと知り、大変感動しました。その後、お見送り用の紙製の小旗や、車内で提供されているキャンディなどもお送りいただくようになり、現在、小旗は“お手振り”に参加された方々に記念品として差し上げています。
以前、手を振っているときに列車に向かって「いってらっしゃい」と思わず大声で叫んだら、車掌の方が「いってきます」と返してくださったことがありました。車掌やクルー、プロジェクトのみなさんによるイベントも当館で何度も行われました。最初は有志で始めた“お手振り”から、「TRAIN SUITE 四季島」に関わるさまざまな方々との交流が生まれるようになり、鉄道博物館の正式イベントにもなって、始めてよかったと改めて実感しています。来館者の方々には、特別な思い出をたくさん作っていっていただきたい。“お手振り”がそんな体験の一つになればと、願っています。
鉄道博物館館長 大場 喜幸 / JR東日本パーソネルサービス 濱口 純一 [ 文=鈴木伸子 撮影=小山一成 ]