「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い
Vol.572022/3/31
稲富 慶雲の想い
松島の地で、400年余の時を経て受け継がれてきた
伊達家の精神と美の浄土

この世の浄土のような華麗な襖絵や欄間

当寺は2020年の冬より、「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまをお迎えしております。皆さまには本堂の室中(孔雀の間)、鷹の間、文王の間などを中心にご案内しています。法要が営まれている室中では、仙台藩の御用絵師・狩野左京による襖絵「松孔雀図」や欄間の精緻な彫刻などを間近でご覧いただきます。本堂の外観は禅宗様式の質素な造りですが、内部は桃山様式の華やかな絵画や彫刻で彩られています。金箔をふんだんに用いた襖絵が放つ金色の輝きや、天女を施した絢爛豪華な欄間彫刻を目の前にされ、お客さまからは「本当にこの世の浄土のようですね」と驚きのお声もいただきます。
また、「この絵にはどのような意味が込められているのですか」とのご質問も多くいただきます。例えば、伊達家重臣の控室として使用されていた「鷹の間」の襖絵には、穴に隠れるうさぎや鷹に狙われている雉(きじ)、鷺を捕まえる鷲などが描かれているのですが、それぞれ「用心深くあれ」「口を慎むべし」「詐欺(サギ)を働いてはいけない」など、武士のたしなみや訓示が表現されていることをお話しています。熱心に見入るお客さまも多く、伊達家が大切に受け継いできた精神を感じ取ってくださっていると嬉しく思います。
伊達政宗公の情熱
創建の普請にあたっては、「履物をきちんと履き替えてから中に入るように」「一度地面に落ちてしまった釘や鎹(かすがい)は使わないこと」などと大工たちに命じたというエピソードも伝わっています。一流の文化人でもあった政宗公は、天下人の織田信長や豊臣秀吉を単に真似るのではなく、当代随一の狩野派や長谷川派の絵師を呼び寄せ、このみちのくの地に、唯一無二の“伊達な文化”を育んだのです。政宗公の建立に向けた並々ならぬ情熱が伝わってきます。
神仏のご加護をお客さまにあらんと願って
日本三景の一つである松島は風光明媚であるだけではなく、霊場として古くから多くの信仰を集めてきた土地です。2011年の東日本大震災では、比較的被害は少なかったのですが、もちろん松島全体の活気が失われてしまいました。そこでまず瑞巌寺が復興の狼煙(のろし)をあげなければと、震災1ヵ月後には拝観の再開に踏み切りました。
「観光」という言葉は、「光を観(み)る」と書きます。「神仏の光を仰ぎ観(み)る」、つまり、神仏に手を合わせてお参りをすることで、そのご加護をいただくという意味があります。「TRAIN SUITE 四季島」2泊3日コース/冬のコースに参加なさるお客さまをご案内するようになってから約1年あまりが経ちました。これからも瑞巌寺にいらしてくださるお客さまにもご加護を、という気持ちを込めてお迎えしたいと思います。そして松島という土地の歴史や伊達家の精神や文化にも触れていただければ幸です。皆さまの旅の思い出に、瑞巌寺と松島での体験が深く刻まれることを切に願っています。

稲富 慶雲 [ 文=鈴木伸子 撮影=小山一成 ]