「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.552021/3/31

地域史研究者 佐原ツアー案内役 酒井 右二の想い

水郷の町・佐原に息づく“江戸優り”の文化と誇り

「TRAIN SUITE 四季島」の1泊2日/冬のコースでは、江戸の頃から利根川舟運の中継地として栄えた、千葉県香取市の佐原を訪れる。「お江戸みたけりゃ佐原へござれ 佐原本町 江戸優り」と唄われた佐原の町。この町を案内する地域史研究者の酒井右二は、「町を歩いて、今も息づく“江戸優(まさ)り”の文化を感じて欲しい」と語る。


佐原ならではの街歩きのガイドとして

私は「TRAIN SUITE 四季島」の1泊2日コース/冬の旅で訪れる佐原で、街歩きのガイドを務めています。佐原は千葉県北部に位置し、江戸時代には舟運・商業の地として繁栄しました。現在も小野川や香取街道沿いの街並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、当時の面影を伝える、重厚な蔵造りの商家も健在です。またここは、日本で初めて実測による地図を完成させた伊能忠敬を輩出した町でもあります。
私は生まれも育ちも佐原で、長年、歴史教育や千葉県史の編さんにも当たってきました。現在は地元の文化財の保存や古文書の学習会を行なうなど、この町の歴史・文化を県内外に広める活動をしております。街歩きのガイドをすることが決まってからは、どのように「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまに、佐原の魅力をお伝えするか、ということを考えました。たとえば、国指定史跡伊能忠敬旧宅や記念館の見学、樋橋(とよはし)から小野川沿いを歩いて、川沿いの商家の特徴が現れる街並みをご覧いただき、そして忠敬橋付近の香取街道沿いにある県指定文化財の蔵造り店舗へ立ち入り、佐原の商家建築の特徴を対照的にみていただくなど、佐原の歴史と文化を堪能していただく内容にしています。また、町の見どころをまとめた独自の地図を作成して配布するなど、工夫を重ねながら準備を進めました。


関東屈指の商都として栄えた“江戸優り”の町

江戸時代、佐原は利根川の水運をいかして、江戸へ年貢米などを運搬し、商人の町として大いに栄えました。そして江戸や上方との交流を重ねる上で、醸成されたのが“江戸優り”という独自の文化です。「江戸に影響されながら、江戸を超えていく町」を意味する、この言葉は、たとえば関東三大山車祭りのひとつ、「佐原の大祭」の豪勢な山車を見ても、江戸の山王祭や神田祭とつながる、剛毅で粋な気質が佐原には息づいていることがわかります。またご案内させていただく、小野川沿いは、江戸から続く酒屋や醸造店、油屋、蕎麦屋、荒物店や呉服店などの歴史的建造物が立ち並び、当時の風情を伝えています。注目していただきたいのは、それらの商家の多くが、いまも現役で営業していることです。かつて商人の町として栄えた町のたたずまいが、建物だけでなく、生活文化として今も生きているのです。
「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまを、街歩きの立ち寄りで、実際に営業している造酒屋さんなどにご案内することもあります。それらの老舗のお店では、店の方が誇りをもって、佐原の歴史を話されるなど、お客さまと町の人たちとの交流が生まれることもあります。


町全体で、佐原の魅力を精一杯お伝えしていきたい

「TRAIN SUITE 四季島」の旅のコンセプトは「深遊 探訪」です。訪れる町の歴史や文化を一層深い視点で探求し、楽しむ旅だと理解していますが、私はこのコンセプトを大切にしたいと思っています。佐原の後には、神奈川県の小田原に向かわれますが、そこを繋いで、武士の町である小田原と商人の町である佐原を比較してお話させていただくなど、この旅でしか体験できないご案内をしていきたいと考えております。
現在は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、バスの中での説明の際は、マスクの上にフェイスシールドを着けてお話しする、ご案内中もマスクを着用するなど、感染防止を徹底しております。大変だと感じるときもありますが、「安全・安心」があってこそ心から楽しめる旅ができる、と思っています。 佐原の町では、「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまがいらしてくださるとのことで、店先をライトアップしたり、営業時間を延長したりするなど、町全体でお客さまを心待ちにしています。これからもこの町の魅力を精一杯お伝えしていきたいと思います。
地域史研究者 佐原ツアー案内役
酒井 右二
[ 文=鈴木伸子 撮影=小山一成 ]