「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.542021/1/26

「小田原文化財団 江之浦測候所」 館長 ホイル 治子の想い

アートの始原に触れる、唯一無二の体験を

「TRAIN SUITE 四季島」1泊2日/冬のコースでは、世界的な現代美術作家・杉本博司が設立し、設計を手掛けた芸術文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」(神奈川県小田原市)を訪ねる。館長を務めるホイル治子が、壮大な自然とアートの融合という理念のもと創造されたこの場所を案内する。


ここだけの稀有なアートの体験

江之浦測候所で「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまをお迎えする準備を進める際、常に念頭にあったのは、この江之浦測候所でしか得られないアートの体験をしていただきたいということでした。急峻な箱根外輪山を背にして相模湾に臨む約1万平方メートルにおよぶ自然豊かな敷地は、ギャラリー棟や石舞台、茶室などで構成されています。さらに屋外には、「法隆寺 若草伽藍礎石」や「京都五条大橋礎石」、12〜13世紀のベニスの商館の「生命の樹 石彫大理石レリーフ」など、貴重な文化財が点在し、アートの空間が広がっています。
2020年12月より「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまをお迎えして約1ヵ月が経過したところです。お客さまには、海抜100メートル地点に建つ長さ100メートルの「夏至光遥拝100メートルギャラリー」の展望スペース、そして「光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席」が大変ご好評です。「自然と一体化したような気分になりますね」とのお声をいただき、この江之浦測候所の世界観を感じ取っていただけたことをとても嬉しく思っております。


人間と自然、そして宇宙を感じて

江之浦測候所は2017年10月に開館しました。構想から竣工まで約20年をかけて完成したこの場所は、現代美術作家・杉本博司の原点を象徴する場でもあります。杉本が幼い頃、小田原に向かう列車の車窓から目にした相模湾の景色が杉本自身の「人としての最初の記憶」になりました。その記憶をもとに、自然のうつろいを感じながらアートと触れ合う場所を創り出したいと、「測候所」というコンセプトのもとに生み出した施設なのです。たとえば、長さ70メートルの鉄製のトンネル「冬至光遥拝隧道」からは冬至の日の出を、「夏至光遥拝100メートルギャラリー」からは夏至の日の出を望むといった具合に、人間と自然、そして宇宙との距離を感じられる場になっています。
約3年間、多くのお客さまをお迎えし、この間大切にしてきたのは、壮大なランドスケープを介して人と人とのつながりを生み出したいという想いです。アートや自然の光景は人によって捉え方が異なります。「私はこういう風に見えたけれど、あなたは?」「私はこういう見方をした」と訪れた方同士で、新しいコミュニケーションが生まれる場となればと思います。これから「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまをご案内するなかで、皆さまからさまざまな視点やお声をいただき、たくさんのお話ができることをとても楽しみにしています。


お客さまそれぞれの楽しみ方を

お客さまがここを訪れる冬の時期は、空気がよく澄んでいて、江之浦測候所からは小田原の市街地はもとより、はるか千葉の房総半島まで一望することができます。またみかんなどの柑橘類の収穫の季節ですので、隣接したみかん畑には、木々の緑色とみかんのオレンジ色、そして空の青い色というアートのような光景が目の前に広がります。そういう自然の光景もみどころの一つです。「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまには、そっと目を閉じて、冬のやわらかな光を身体いっぱいに感じ取っていただきたいと思います。相模湾から流れてくる冬風の気配、鳥のさえずり、四季折々の花木など、普段の生活では気がつかない音や香りを体感していただけると思います。そしてお客さま自身の視点や感覚でアートを存分に楽しんでいただけたら嬉しいですね。
「小田原文化財団 江之浦測候所」
館長 ホイル 治子
[ 文=鈴木伸子 撮影=小山一成 ]