「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.532020/12/23

「オリエンタルカーペット」代表取締役社長 渡辺 博明の想い

お客さまの足もとをやさしく包み込む。
手づくりじゅうたんで、おもてなしの心を

「TRAIN SUITE 四季島」ではダイニングを除いた9車両すべてにじゅうたんが敷かれている。これらは山形・山辺町の地で長年にわたり、じゅうたんづくり一筋で歩んできたオリエンタルカーペットが手掛けたもの。日本の豊かな自然が紡ぎ出すさまざまな表情を表現したじゅうたんは、足もとからくつろぎのひとときを演出する。


初めて挑んだ列車向けのじゅうたんづくり

私どもの会社は山形県山辺町にあります。県中央の内陸部に位置する小さな町で、昭和10年からじゅうたんの製作を手掛けています。現在は機械でじゅうたんを生産する会社が多くなりましたが、弊社では創業以来、糸づくりから染め、織り、そしてアフターケアまで一貫管理で行っています。
「TRAIN SUITE 四季島」向けのじゅうたんを製作するまで、われわれの会社では列車向けのじゅうたんを作った経験がなく、職人の中には「サイズや形が特殊なので対応できるのか」と不安そうにしている者もいました。しかし、この旅の“深遊探訪”というコンセプトなどを伺ううちに、「よし、挑戦してみるか!」と、職人魂に火がつきました。こうして「TRAIN SUITE 四季島」向けに「UMI」「KOMOREBI」「KOKE」という3種類のじゅうたんを製作させていただくことになりました。「UMI」は7色の毛糸を12種類に組み合わせて躍動する海の波を、「KOMOREBI」はグレー系の6色の糸を使って森の枝葉からこぼれてくる光のゆらめきを表現しました。そして「KOKE」はシルクとウール素材26色の糸を使って苔の繊細な凸凹の表情を表現しています。窓から射し込んでくる光や見る角度によって多彩な表情が生まれるようにと、職人たちの工夫と技がたくさん詰まっています。


一流クリエイターとの協働

「UMI」と「KOMOREBI」は、「TRAIN SUITE 四季島」の車両デザインを手掛けている奥山清行さん、そして「KOKE」は建築家の隈研吾さんによるデザインです。奥山さんは山形県のご出身で、実は亡き兄の親友でした。20年ほど前、兄に誘われて一緒に食事をしたのが最初の出会いでした。その後、イタリアから帰国された奥山さんは、山形の“ものづくり”を元気にしようと、県内のいくつかのメーカーと研究会を立ち上げ、そこにわが社も参加し、パリの国際見本市にも出品するようになりました。そのようななかで製作されたのが現在、「TRAIN SUITE 四季島」のデラックススイートやスイートで使用されている「UMI」でした。「KOMOREBI」は「TRAIN SUITE 四季島」のラウンジのためにデザインされたものですが、現在は一般のお客さま向けにも販売しております。
隈研吾さんとは、銀座の歌舞伎座の設計を隈さんが手掛けられた際に、わが社がメインロビーのじゅうたんを作らせていただいたご縁がありました。それをきっかけに家庭向けのじゅうたんとしてデザインしていただいたのが「KOKE」です。
「TRAIN SUITE 四季島」の仕事を通じ、社外の人たちと一緒にプロジェクトに取り組むことで刺激が生まれ、社内に好循環が生まれると実感しています。地元の人たちからも「山形の誇りですね」と声をかけられることがあります。すると、社員や職人たちが本当に嬉しそうな表情をします。この仕事に携わらせていただけてよかったと改めて思います。
  • 「UMI」
  • 「KOMOREBI」
  • 「KOKE」


思う存分、踏んでいただきたい

「TRAIN SUITE 四季島」は「おもてなしの列車」で、車両デザインから家具、カトラリー、料理、サービスに至るまですべてのお客さまにご満足いただきたい、という想いがぎっしり詰まっています。われわれもまた、列車に一歩足を踏み入れたときのじゅうたんの足触りで、おもてなしの心をお伝えしたいと思っています。展望車では、「KOKE」のふかふかした感触と、大きなガラス窓に包まれた空間を楽しまれているお客さまも多いと伺っています。そして「UMI」「KOMOREBI」は、「絵画のようで踏んでしまうのがもったいない」とのお声もいただきます。大変嬉しいのですが、すべてのじゅうたんは踏まれるためにあるものです。ぜひ思い切って踏んでいただきたい。足の裏から伝わる感動の瞬間のために、私たちはじゅうたんづくり一筋で歩んでまいりました。これ以上に嬉しいことはないのです。
「オリエンタルカーペット」
代表取締役社長 渡辺 博明
[ 文=鈴木伸子 撮影=小山一成 ]