「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.412020/1/28

JR東日本 本社運輸車両部 副課長 三浦 智志
JR東日本 盛岡支社運輸部 主席 小笠原 則雄
JR北海道 本社運輸部 グループリーダー 木下 護
の想い

「TRAIN SUITE 四季島」の旅を最高のものにするために、安全で最適な「運行ダイヤ」を計画する。旅を背後でしっかりと支える、腕利きの“スジ屋”たちの仕事には、プロフェッショナルの熱い想いが込められている。

「TRAIN SUITE 四季島」は、各地の通勤列車や貨物列車など、日々運転されている定期列車の合間を縫って走る。互いにスムーズで最適なダイヤを設定するのは、至難の技だ。これらを調整して計画を立てるのが、通称“スジ屋”こと、輸送計画の仕事だ。
JR東日本本社と盛岡支社、JR北海道の輸送計画のプロフェッショナルたちが、「TRAIN SUITE 四季島」のダイヤ作りへの苦心と想いを語る――。

通勤列車、貨物列車、新幹線の合間を縫ってダイヤを設定する難しさ

  • 三浦 智志(以下、三浦):私が本社の運輸車両部で担当しているのは、「TRAIN SUITE 四季島」の運行に関する全体プランニングです。新しいコースを設定する際は、まずお客さまが、何時にどの駅で下車し、どのくらいの時間を掛けて観光をされて、次にはどの駅から乗車してどこを巡るかなど、旅程プランを営業担当者と共有したうえで、それを実際のダイヤに組み込むことが可能か、どのように組み込むべきかを検証・検討し、全体的な運行概要案を作成していくことから始めます。
  • 小笠原 則雄(以下、小笠原):私は盛岡支社が管轄する岩手県全域と青森県の一部が担当エリアになります。まず三浦から第一段階の案をもらったところで、走行を予定する線区のダイヤに「TRAIN SUITE 四季島」が最適な時刻で設定できるよう、具体的な調整をしていきます。駅の状況確認のため、現地に足を運び、停車するホームや停車位置を決めることもあります。岩手・青森県内の一部では「TRAIN SUITE 四季島」はIGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道の線路も走りますので、他社との調整も担当します。
  • 木下 護(以下、木下):私はJR北海道が管轄する青函トンネル部分を含む北海道全域が担当エリアになります。3泊4日コースでは、函館、洞爺、登別などの駅に停車します。列車が青函トンネルを通って北海道に入って来るのは2日目の早朝。この時間帯は貨物列車の本数が多く、単線の道南いさりび鉄道の線路も通ります。また、3日目に本州にむけて青函トンネルを通る場面は、同じ線路を新幹線も走行している時間帯ですので、ここの調整も大切になります。

知識と経験の積み重ねの上に成り立つ「TRAIN SUITE 四季島」の輸送計画

三浦:なにより私たちは、まず「TRAIN SUITE 四季島」にとって最高のダイヤ、ルートを作り上げたい。その思いの一方で、定期列車の利便性を損なうことはできません。その両立が苦心のしどころです。ただこれこそが各地域の“地べた”を知り尽くすエリア毎の担当者にとっては腕の見せどころ、輸送計画の醍醐味だと思っています。
木下:ダイヤを作成する際、ダイヤグラムと言われるグラフに斜めに線(スジ)を引いていく作業を行なうことから、私たちのような輸送課でダイヤを作成している人間は、通称“スジ屋”と呼ばれます。
三浦:ここにいる3人とも、駅員や乗務員を経た後、輸送指令の仕事を経験し、現在に至っています。
小笠原:輸送指令というのは、列車の運行を管理する部門です。線路や駅、現在の列車走行位置が表示されたディスプレイを見ながら運行状態を管理し、ダイヤが乱れた場合などは早急に復旧させるべく適切な対策を講じていきます。
木下:指令の仕事は、どの列車がどの駅で折り返せるか、どの番線に入っていくことができるかなど、担当する路線の運行に関わる情報すべてが頭に入っていなければ務まりません。
三浦:輸送計画には指令で培った経験や知識が生きてくる。指令の仕事は、輸送計画への登竜門と言えるかもしれませんね。

「TRAIN SUITE 四季島」のダイヤの背後に隠された「想い」

木下:通常の特急列車は、車両の性能を活かし、速達性を重視してダイヤに盛り込みますが「TRAIN SUITE 四季島」の場合は、必ずしもそうではありません。まずお客さまにとって、“最適な旅とは”をイメージします。例えば、お客さまが車内で眠りにつかれる深夜やお食事の時間帯は、車両の揺れを最小限に抑えるべく、できるだけゆっくりと列車を走らせたい。あえて通常の2割増しくらいの時間をかけて走行させています。また、とりわけ北海道の雄大な景色を楽しんでいただきたいポイントでも速度を落として運転できるように設定しています。速度調整が必要な区間について細かく考えながら、ダイヤに盛り込んでいきます。
三浦:それから、お客さまが乗降される駅では、バスへお乗換えの際などに、なるべく階段の昇り降りを必要とせず、フラットな動線が確保できるホームに到着させることや、海沿いの路線などを走行する場合には、絶景が通路側ではなく客室側となるよう、列車の向きを考慮し走行ルートを組むといったことも「TRAIN SUITE 四季島」ならではの工夫です。
小笠原:2020年冬にスタートする2泊3日の新コースでは、岩手県遠野市を訪れるため、列車は釜石線を走行することになりました。通常、釜石線に「TRAIN SUITE 四季島」のような長い編成の列車が入ってくることはありません。これは新たな挑戦でした。ダイヤ調整前に、各駅の図面を確認し、列車が問題なく走行できるか、指令や線路設備担当者との緻密な打ち合わせを行いました。
三浦:新コースに関しては、今後、お客さまが実際に乗車される前に試験運転を何度も行ない、さらにダイヤに磨きをかけて完璧なものにしていきます。観光やお食事時間の配分や、車両の揺れへの配慮など、これからも調整を続けてまいります。
輸送計画の仕事は、終わりがありません。何よりお客さまに安全で快適な旅を楽しんでいただきたい。そのため、輸送計画とは日々更新される、私たちなりの「おもてなし」だと思っております。そんな想いを込めて、今後も懸命に取り組んでまいります。
JR東日本 本社運輸車両部 副課長 三浦 智志
JR東日本 盛岡支社運輸部 主席 小笠原 則雄
JR北海道 本社運輸部 グループリーダー 木下 護
[ 文=鈴木伸子 撮影=的野弘路 ]