「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.382019/10/24

木工工房「わにもっこ」代表 山内 将才の想い

白神の山を育て、森をつくる。森を活かして木工に取り組む。
私たちの工房で北国の森の情景に触れていただきたい。

「TRAIN SUITE 四季島」3泊4日コースでは秋も深まる10月、11月には旅の3日目の夕刻、青森県・大鰐温泉近くの木工工房「わにもっこ」を訪ねる旅程が用意されている。
南津軽の美しい森に囲まれた“ものづくりの場”では、森の恵みと生きる、豊かな自然の循環を感じることができるだろう。

ヒバ、スギ、ブナなど、豊富な森の恵みに囲まれて

「わにもっこ」の工房がある青森県・南津軽郡大鰐町は、青森県から秋田県にかけて広がる白神の森の入口にあります。この一帯は、日本三大美林の秋田スギの北限と青森ヒバの南限にあたり、ほかにもブナ、オオヤマザクラ、イタヤカエデなど、樹木の種類も豊富な地域です。
私たちは、それら地元の木材から、さまざまな家具や木工品などのものづくりに取り組んでいます。「わにもっこ」という名前は、大鰐の「わに」と木工の「もっこ」から名づけられました。
「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまには、まずショールームで周辺の森の環境や工房のお話をさせていただき、実際に家具や木工品を見ていただきます。その後、別棟のログハウスで、額縁のなかに木の実や木の葉をアレンジする「森の標本」という標本箱の手作り体験をしていただいております。

父たちが始めた工房を引き継いで

「わにもっこ」は平成元年に創立されました。昔からこの地域の人々は、春・夏には農業、雪に覆われる冬には、林業を営んできました。
しかし昭和50年代に、海外の安い木材が輸入されるようになると、国産木材の価格が値崩れし、危機的な状況に追い込まれてしまいます。
そこでもっと自分たちの所有する森の木材の魅力を知っていただけないかと、私の父を含む地元の人たちで立ち上げたのが、この工房でした。
私も20歳そこそこで入社し、仲間たちと一緒に工房をもり立ててきました。

森を循環させ、生態系を壊さない

「わにもっこ」の基本的な考え方は、「なるべく地元の木材を使う」、「できる限りサイクルしやすい材を使う」ということ。
樹齢100年、200年の目の詰まった木材には確かに価値がありますが、オオヤマザクラ、ホオ、イタヤカエデ、オニグルミなどの、厳しい環境でも繁茂でき、〝森づくり″の第一歩となるパイオニアツリーは、30~40年で家具材として使えるようになるので、需要に見合った用材として、循環していくことができます。
その一方で、創立当時から続けているのがブナの植樹、育成、活用です。白神山地が世界自然遺産に登録されたのは平成5年ですが、それ以前は林道建設などで、ブナの原生林がどんどん伐採されて、森の生態系が壊されていくという状況にありました。そこで、木が切られた場所に新たにブナの苗木を植えて育成し、間引きしたものを用材として活用するように考えています。

白神の森の世界と木工芸のぬくもり

工房は、すぐ近くには森の渓流が流れる、本物の自然あふれる環境にあります。
私も子どもの頃から、山や野で遊び、魚や山菜、キノコを採り、冬は材木を山から下ろす馬ぞりに乗ったり、山の上からスキーで降りてきたりと、この白神の自然の真ん中で育ちました。
「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまがいらっしゃる時期は、10月ならばリンゴの収穫の季節なので、その様子をご覧いただくことができますし、この時期、空気が澄んでくる夕暮れの岩木山はとても感動的です。10月も末になると、宵の空にペガスス座やみずがめ座などの星座が輝き始めます。
ここにあるのは森だけです。私たちは、森に囲まれて暮らし、その森の恵みと共に生きています。はるばる来ていただくお客さまには、そんな津軽、そして白神の森の情景をぜひ感じていただきたい。そして森が育んだ、私たちの木工芸のぬくもりにも触れていただければと願っています。
木工工房「わにもっこ」代表 山内 将才 [ 文=鈴木伸子 撮影=的野弘路 ]