「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い
Vol.162017/12/27
木々の声を聞き、和の心を形にする。
- 「TRAIN SUITE 四季島」の1泊2日(春~秋)コースでは途中の長野県・姨捨(おばすて)駅のステーションラウンジ「更級の月」で、信州の酒と肴とともに月の名所として知られる姨捨の夜景を楽しんでいただく。地元の食材を使った料理を詰め込んだオードブルボックス、そして存在感のあるハイチェアーやローテーブルなどの家具を手がけたのは、飯綱町に工房を構える松木啓直(ひろなお)さんだ。森林資源に恵まれ、木工芸の制作が盛んな長野県。静かな森の中での制作に幸せを感じるという松木さんは、ひとつひとつ手作業で作品を仕上げている。
日本文化のエッセンスを感じてもらえるものを
- 木工は森林に恵まれた日本らしい文化の一つだと思っています。そして和のデザインには、シンプルな中に美しさが立ちあらわれてくるような、独特の魅力があります。
「TRAIN SUITE 四季島」のプロジェクトへの参加が決まったときは、本当に心が躍りました。と同時に思ったのは、お客さまもきっと、素晴らしい旅を思い描いて、胸が高まっておられるだろうということ。なかには海外からのお客さまもいらっしゃるでしょう。お客さまの旅への期待を思い描きながら、日本文化のエッセンスを感じてもらえるようなものを、と制作にとりかかりました。
空間と作品が調和したときの歓び
- 手つかずの自然の中で育った木は乾燥させた後も割れたり、捻(ねじ)れたりといった変化がつきもので、そのことを僕らは「木が動く」と言います。ですから、ひとつひとつよく観察し、木肌に触れ、その木の個性を確かめながら作ります。それでもケヤキの巨木をくりぬいたローテーブルなどは途中、予想していた以上に木が動いてしまい、調整が大変でした。しかしその苦労の甲斐あって、ラウンジの空間と家具がぴったり「合った」と感じた瞬間は本当に感無量でした。
「動き」続ける作品を見守りたい
完成後も割れたり歪んだり、と木は「動き」続けます。それを直すのも仕事の一つです。僕が作るものはどれも、出来上がってそれでおしまいではありません。「TRAIN SUITE 四季島」のプロジェクトをお受けしたのも、長野県内を走る列車であり、近い距離にいることができるから、ということもありました。
今回、僕が表現した、自然の木が持つ力強さや存在感、和の美しさを「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまにも感じていただけたら本当に嬉しいです。
そしてこれからも、どこか一本、筋の通った家具を作っていきたいと思っています。
松木 啓直 [ 文=野村麻里、撮影=白井亮 ]