グループ経営ビジョン
「勇翔2034」
「当たり前」を
超えていく。
2025年7月、JR東日本グループの新たな経営ビジョン「勇翔(ゆうしょう)2034」が発表された。その中で、鉄道を中心としたモビリティに加え、生活ソリューションをもう一つの軸とし、新たな価値を創造することを打ち出した。果たして、今後、JR東日本グループはどのように変わっていくのか。また、どのような価値を利用者にもたらすのか。モデル、報道番組などで活躍するトラウデン直美さんが、経営ビジョンを取りまとめたJR東日本の松本雄一経営企画部門長に、生活者視点で話を聞いた。
モデル・俳優・タレント
1999年京都府生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。ドイツ人の父と日本人の母を持ち、高校卒業までを京都で過ごす。「2013 ミス・ティーン・ジャパン」でグランプリを受賞。13歳で小学館「CanCam」の史上最年少専属モデルとしてデビュー。報道番組や経済番組、ドラマなど活躍の場を広げている。
JR東日本 執行役員
グループ経営戦略本部 経営企画部門長
トラウデンさん とはいえ、JR東日本というと、まず「旅」をイメージする方も多いと思います。私も旅好きで、山形や長野によく行きますし、24年の夏はお仕事でしたが秋田県大仙市の「大曲の花火」にも行きました。
松本部門長 最高でしたでしょう。
トラウデンさん 本当に言葉にならないくらい感動する花火でした。旅行で一度訪れるだけで、その土地が一気に身近になりますよね。でも、地方では少子高齢化や過疎化が進み、元気が失われつつあります。訪れたことをきっかけに、「私も何かできないかな?」と思ったりするのですが……。
松本部門長 過疎化でよく話題になるのが、地方のローカル線です。人口が少なくなる一方で、道路が充実したので移動はクルマという方が増え、鉄道を利用するお客さまが急激に減りました。この30〜40年で4分の1以下にまで減ってしまった路線もあります。
トラウデンさん 乗ってもらえないと、列車の本数も減らすしかない。
松本部門長 はい。逆に本数を実験的に増やしたこともありますが、それでもお客さま増加にはつながりませんでした。鉄道は大勢のお客さまを、安全に時刻通りに目的地までお届けするのが得意です。でも、地方線区においては、その特性が発揮できていないのが正直なところです。
トラウデンさん 悪循環に入っていますね。
松本部門長 そこで私たちは、持続可能な交通体系について、地域の皆さまと議論しています。例えば気仙沼線や大船渡線では、線路をアスファルトのバス専用道にして、バス高速輸送システム(BRT)に切り換えています。また地元のバスやタクシー事業者さまと一緒に、お客さまの予約に応じて運行経路やスケジュールを決めるデマンド交通の形も試みており、津軽線の一部では自動車交通への転換に関係自治体と合意しました。持続可能な形を、地元の皆さまとつくります。
トラウデンさん 必要なことですね。最近は、高齢者の運転免許証返納が話題になりますが、デマンド交通のような形ができれば、例えば駅から家などのラストワンマイルをどうするか、といった問題の解決にもつながります。そうした点でも、地元の方との協力は絶対に不可欠になりますね。
松本部門長 私どもができることとしては、移動手段を持っていますので、東京など大都市から多くのお客さまをお運びし、そこで旅行をはじめ、いろいろと楽しんでいただく。これを重ねていくことで、地域に新しい仕事が生まれるはずです。
トラウデンさん それは地域が元気を取り戻すことにもつながりますね。
松本部門長 また旅以外にも、地域のいろいろなおいしいもの、名産品などを列車に乗せて運ぶ「はこビュン」というサービスも始めました。青森や秋田から3時間台で東京まで運べますので、朝、漁港で水揚げされた新鮮な魚介類などを、首都圏のお客さまにその日のうちにお届けできます。
トラウデンさん 買われた方が興味を持って、今度はその土地に行ってみようと思うきっかけにもなりますよね。
松本部門長 そのようなアクションにつながることを期待しています。コロナ禍で新幹線が空席ばかりになってしまったことから始めた、地域の活性化につながるサービスです。
トラウデンさん 今も、やっているんですか?
松本部門長 はい。定期的に東京や品川、大宮などの各駅で販売もしており、多くのお客さまが来てくださいます。逆に地方へ、東京の名菓や精密機械部品なども運んでいるんですよ。
トラウデンさん 今まで伺った内容も含むと思うのですが、「勇翔2034」で創造する価値は「ライフスタイル・トランスフォーメーション」とされています。どのようなことなのでしょうか。
松本部門長 これは造語で「LX」と略しています。毎日延べ3500万人のお客さまが、当社グループの何らかのサービスをご利用くださっています。それだけ生活に密着したビジネスですので、皆さまの生活様式そのものを革新できないか、という挑戦です。
トラウデンさん 具体的にはどのような「革新」が起きるのでしょうか。
松本部門長 私どものイメージするLXを図にしてみました(上図参照)。例えば、先ほどの地元の産品を東京に運ぶことで地域に活力をもたらすことであったり、トラウデンさんがおっしゃった交通の課題。ご自宅から駅まで、もしくは駅からお出かけ先までのラストワンマイルをどうするか。そうしたチャレンジの一つに「エアモビリティ」の取り組みがあります。
トラウデンさん エアモビリティですか?
松本部門長 例えば、観光のため最寄駅に到着しても、目的地まで距離がある。でも、バスもタクシーも少ない。ならば空を飛んで行こう、という発想です。「空飛ぶクルマ」の開発を行う株式会社SkyDriveと資本業務提携を結び、動き始めています。
トラウデンさん 大阪・関西万博でもデモ飛行していましたよね。実は近くで見る機会があって、興奮しました(笑)。
松本部門長 その通りです。26年春には、岩手県の小岩井農場に高付加価値型ホテル「AZUMA FARM KOIWAI」を開業予定です。そこでの新たな体験価値創造の一つとして、空飛ぶクルマを活用したモビリティ体験を計画しています。26年中に国による安全および環境基準の合格証明の取得を目指し、その後の準備を経て、実現するべく動いています。
トラウデンさん 空飛ぶクルマなんて、まだ未来の話かと思っていましたけど、意外と近くまで来ているんですね。
松本部門長 ほかにも、クルマの自動運転技術にも注目しています。日本の技術レベルは高いものの、まだ法整備などのハードルがあります。そこを何とか後押しして、鉄道も含めたシームレスな移動手段を実現していく。これもLXの一つです。今お話したのはごく一部に過ぎません。このように皆さまの生活様式に革新をもたらすことがLXの目指すところです。
トラウデンさん ワクワクしますね。人口減少や環境問題など、将来を考えるとき、どうしても暗い面ばかりに目が行きがちです。だけど、やっぱりワクワクがないと前に進めないと思うので、そういう意味で今のお話には希望を持たせてもらえますね。