グループ経営ビジョン
「勇翔2034」 「当たり前」を
超えていく。

トラウデンさん　JR東日本は、7月に新たなグループ経営ビジョン「勇翔2034」を発表されました。そのキャッチコピーが「『当たり前』を超えていく。」。鉄道は存在しないと日常が成り立たないくらい、生活に根差しているものだと思います。それだけに、JR東日本の変化は、私たちの生活に大きく関わってくるものだと思うんですね。特にコロナ禍以降、社会が大きく変化しています。その中で、これからどのようなことに挑戦されていくのか、お話を伺うのが楽しみです。

松本部門長　ありがとうございます。JR東日本は、関東地方や東北地方、甲信越地方を主な事業エリアにしており、鉄道だけで毎日約1600万人の方々にご利用いただいています。一方で、お話のあったコロナ禍で大きな影響を受けたのも否めません。

トラウデンさん　多くの人が、ステイホームを余儀なくされました。

松本部門長　鉄道を利用される方も激減し、大変厳しい時期でした。もちろん、感染しないことが最優先ですから、「どんどん出かけてください」とは申し上げられない。一方で、鉄道は公共性があるので、コロナ禍でお客さまのご利用がないという理由で止めてしまうわけにもいきません。

トラウデンさん　止まったら、困っちゃいます。しかし、コロナ禍を経験したことで、世の中の変化がよりスピードアップした気がします。

松本部門長　おっしゃる通りです。もともと変化していくことは予想していましたが、そのスピードが想定より圧倒的に早かった。そのため、今の時代に合わせて新しい経営ビジョンをつくらないとならない。ということで、新たなグループ経営ビジョンとして「勇翔2034」を発表しました。

トラウデンさん　具体的にどんなビジョンなのでしょうか？

松本部門長　私たちは、「すべての人の心豊かな生活の実現」をグループ理念として掲げています。この理念を実現するには鉄道を中心とした「モビリティ」はもちろんのこと、駅やホテル、ショッピングセンター、Suicaなど、私たちの持つアセットを活かした「生活ソリューション」の両者を充実させていく必要があります。この二軸をバランス良く展開することで、理念を実現していこうと打ち出したのが「勇翔2034」です。

トラウデンさん　私自身、「豊かさって何だろう？」と改めて考えるきっかけになったのが、コロナ禍でした。仕事にしても、遊びにしても、何かしらで移動は必要となります。JR東日本として、二軸の相互関係をどのように捉えているのでしょうか。

松本部門長　2025年3月にまちびらきした「TAKANAWA GATEWAY CITY」が分かりやすいですね。田町駅と品川駅の間にあった広い車両基地を移転・縮小し、約13haの土地を生み出しました。20年3月に高輪ゲートウェイ駅を開業することでエリアの利便性を高め、そこにオフィスビルやショッピングセンター、ホテルをオープンさせました。26年3月には文化施設やレジデンスも含めグランドオープンします。

トラウデンさん　TAKANAWA GATEWAY CITYについては最近、印象的なことがあったんです。1歳のお子さんがいるお友達が、駅周辺だけで子どもを楽しませられるのは、本当に親としてありがたい、とSNSにアップしていたんです。

松本部門長　お友達によろしくお伝えください（笑）。こうしたまちづくりを、JR東日本型の公共交通指向型都市開発「J-TOD」と名付けました。要は鉄道ネットワーク型のまちづくりです。鉄道とまちづくりを一体で行うことでまちの価値が高まりますし、まちがにぎわえば鉄道を利用される方も増える。そういう相乗効果を生み出せる候補地はまだまだあります。

トラウデンさん　これは首都圏での取り組みとして考えているのですか？

松本部門長　必ずしもそうではありません。秋田駅周辺の例があります。県や市、あるいは地元企業の皆さまと一緒に開発し、エリアの土地の価値が上がったという成果も出ています。「地方を豊かに」という当社グループの目標の実現には、単に私たちが駅周辺に商業施設をつくるだけでは十分ではありません。地元の皆さまとワンチームでやるからこそ、成果が出るのです。TAKANAWA GATEWAY CITYでも地域の方々とさまざまな取り組みを行っています。

トラウデンさん　駅といえば、駅構内にクリニックを開設されたりもしていますね。

松本部門長　「Beyond Stations構想」の一環です。従来の「交通の拠点」という役割を超え、生活拠点となる機能を駅に付加し、皆さまの生活を複合的に支えるプラットフォームへと転換していこうという構想です。既に「スマート健康ステーション」を駅の改札内や駅ビルの中に開設しており、例えばお出かけの途中でちょっとインフルエンザの予防接種を受ける、なんてこともできます。

トラウデンさん　わざわざ予防接種だけで出かけるのも、面倒ですよね。

松本部門長　この取り組みは社会課題の解決にもつながると考えています。今、進めているのがオンライン診療です。スマート健康ステーションを開設しても、その全てに各診療科の医師が常駐するのは現実的ではありません。そこで、なるべくオンライン診療を利用できるようにする。これが実現して、どこかの大学病院、かつ複数の診療科の医師などとつなげることができれば、医療過疎の解決の一助にもなると思います。

トラウデンさん　これまでの「医療の当たり前」を変える試みですね。鉄道だけでなく、私たちの生活の質も高めようとされているのが分かりました。