「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い
Vol.622023/5/23
池内 英治の想い
「つながり」が織りなす、新たな食のストーリーを。
そこで池内が大切にしたのは「つながり」だった。東日本各地の生産者や提携レストランの料理人、乗車するクルーたち、そしてなにより乗車されるお客さま――。
さまざまな「つながり」が織りなす、「TRAIN SUITE 四季島」の新たな食のストーリーが、いま華やかな開花の時を迎えている。
東日本各地を訪ね歩いて出会った、驚きの食材の宝庫
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就任が決まってから、東日本各地を訪ねて生産者の方々にお会いし、新たな食材の見直しを続けてきました。前職の「ホテルメトロポリタン 丸の内」の時代にも、東日本の豊かな食材に刺激を受けてきましたが、まさに海山の食材の宝庫だとつくづく感じました。その土地固有の気候と土壌の力、そして多彩な食材と生産者の方々との出会い。それは驚きと感動の経験でした。
たとえばその味わいに感動したのは、栃木・下野市の海老原ファームの野菜です。とにかく味が濃厚で、野菜の力が溢れています。旬のとれたてを直送していただき、サラダなどにして、あえてドレッシングなどは控えめにしています。
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魚介では、青森産の蝦夷アワビとメバルがインパクトがあります。このアワビは火入れしても縮みにくく、身も柔らかい。またメバルは通常の2倍以上の大きさがあって、プリプリした触感は絶品です。
メバルが美味しい季節だと、山ではタケノコが旬なので、栃木のワカヤマファームのタケノコの塩釜焼きを付け合わせにしています。塩で包んでじっくりと火入れすることで野菜の甘みをひき出します。これはスペシャリテの一皿にもなりそうです。塩包みの料理では、ほかにも果肉が桃のような長野の“もものすけかぶ”なども魅力的です。塩は佐渡の粗塩のほか、東日本各地のものも試していこうと思っています。
とにかく東日本は素晴らしい食材の宝庫だと思います。料理のアイディアがどんどん湧いてきます。
フランス料理シェフが作る、母直伝のお赤飯、
福島天栄米の絶品おにぎり
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長野・山梨方面への旅となる1泊2日コースでは、メインディッシュの牛フィレ肉には、信州の“おやき”をイメージした野菜の一品と、そこにお赤飯を付け合わせています。お赤飯は、私の母から教えてもらったレシピで炊いています。「TRAIN SUITE 四季島」は、お誕生日、結婚記念日などのお祝いの日に乗車される方も多く、また海外からのお客さまにも、日本の伝統食の文化を知っていただければと考えました。「まさか、ここでお赤飯とは!」という感じで、おかげさまで好評です。
3泊4日コースでは、鳴子温泉に着く4日目の朝食も担当しています。早朝、温泉に入られるお客さまが手軽に召し上がれるようにと、白インゲン豆とひっつみのスープ、素揚げした仙台麩を入れたラタトゥイユ、福島県天栄村産のとびきりのお米「天栄米」(ゆうだい21)をおにぎりにしてお出ししています。炊きたて熱々も良いですが、少し冷めた時に旨味が増すお米です。旅の終わりの朝食には、シンプルで美味しいエッセンスを、少しだけ召し上がっていただければと考えたものです。
「つながり」が織りなす、新しい食のストーリーを
一方、「総料理長」としては、コース全体の食事のバランスにも気を配らなければと考えるようになりました。とりわけ旅程の長い3泊4日コースでは、料理人全員がパワー全開で料理をお出ししてしまうと、さすがにお客さまも少し疲れてしまうかもしれません。
私の使命は、全体の調理スタッフとつながりを持ち、食事の分量と味付けの濃淡を塩梅し、この旅全体の食のストーリーとして、楽しんでいただけるようにしていくことだと考えています。朝から昼、そして夜へのつながりも大事です。
また総料理長という任務を拝命するなかで、先輩料理長の岩崎均や佐藤滋、そして生産者の方々との「つながり」を深く感じました。そして準備中は、とにかくクルーやキッチンクルーのスタッフとのコミュニケーションを深めることに時間を割いてきました。
「つながり」がないと本当に美味しいものは作れないのではないでしょうか。「つながり」こそ、「TRAIN SUITE 四季島」の料理で私が最も大切にしたいことです。私が母から受け継いだ、お赤飯の味も、家族との、そして日本の食文化との「つながり」でした。常にそのことを実感し、実践していくことで、なによりお客さまとの「つながり」をより深めてゆくことができればと思います。
そうした日々のなかで、「TRAIN SUITE 四季島」のテーマである「記憶に残る料理」をお客さまにご提供したいと願っています。
※料理写真はイメージです。
季節によってご提供するメニューは変わります。