「技術革新中長期ビジョン」
〜IoT、ビッグデータ、AI等により「モビリティ革命」の実現をめざします〜
1 背景
本格的な人口減少時代を迎える中、IoTやビッグデータ、AI等の進展は目覚しく、サービス、モノづくりなどあらゆる業界において「第四次産業革命」と呼ばれる大きな変化が起きようとしています。モビリティにおいても、鉄道が持つ多くのデータと、二次交通や気象情報等のさまざまなデータを連携させるなど、最新の技術革新成果を取り込み新しい価値を生み出していく必要があります。このような技術進展を見据え、時代を先取りした技術革新の実現に向け、概ね2035年をターゲットに「技術革新中長期ビジョン」を策定しています。
JR東日本グループは、お客さまに継続的に当社グループをご利用いただき、鉄道を中心としたモビリティを進化させ続けることが重要と考えています。そのために、これまでの鉄道技術の蓄積をベースに、当社グループが提供するサービスをお客さま視点で徹底的に見直し、従来の発想の枠を超えて「モビリティ革命」の実現をめざします。
2 技術革新中長期ビジョンの概要
(1) 安全・安心 “危険を予測しリスクを最小化する”
現在当社グループは、鉄道のシステムチェンジ、「水平分業」の深度化、社員の急速な世代交代など、社内外で新たな「変化点」に直面しています。「安全・安定輸送のレベルアップ」を最重点に据えこれらの変化点における課題を克服するため、関係設備の強化や安全教育・訓練の見直し、またそれに必要な研究開発を進めています。
一方、今後世の中が期待する安全レベルの変化に追従するため、IoTやビッグデータ、AI等を活用して、事故などの予兆を捉え、また経験知では導けないリスクを掘り起こし、先取りした対策を進める必要があります。
そのための研究開発を進めるとともに、ITSやロボット、ヒューマンファクターなどの技術を組み合わせ、「究極の安全」をめざします。
(2) サービス&マーケティング “お客さまへ“Now, Here, Me”の価値を提供する”
お客さまの流動や車両・設備のデータはもちろんのこと、バス・タクシーなどの他交通機関、自動運転技術やシェアリングの進展が著しい自動車、気象情報等のさまざまなデータを、リアルタイムで連携することが可能になると考えています。これらのデータ連携から、トータルトリップタイムの短縮やニーズを先取りした情報の提供、お客さま一人ひとりに対応したサポートなど、お客さまにとって“Now(今だけ), Here(ここだけ), Me(私だけ)”の価値の提供をめざします。
まずは、当社グループだけでなく二次交通も含めたリアルタイムな情報を、ストレスなくお客さま一人ひとりへ提供することから進めていきます。将来的には、お客さまの状況に応じた臨機応変な列車運行や、二次交通との高度な連携など、MaaSを実現しスムーズにDoor to Doorの移動ができるモビリティサービスの提供をめざします。
そして、人にしかできない上質なサービスの提供に人的リソースをシフトし、ワンランク上のホスピタリティをめざします。
(3) オペレーション&メンテナンス “生産年齢人口20%減を見据えた仕事の仕組みをつくる”
車両や設備のデータを高頻度に収集・分析し、その安全性を確認しながら最適なタイミングで修繕を行うなど、効率的なメンテナンスが可能になります。現在、山手線の新型車両E235系等により、その実用化に向けた取組みを着々と進めています。また、自動運転技術やロボット化、AIによる業務支援なども進めています。
生産年齢人口の減少を見据え、これらの技術革新によりコスト構造を変革し、「人」と「システム」のベストミックスによる働き方を実現していきます。
(4) エネルギー・環境 “エネルギーの3E(環境性、経済性、安定性)を向上させ、C(地域社会の発展)につなげる”
JR東日本グループは、発電、送配電から利用まで、一貫したエネルギーネットワークを保有しています。これらと再生可能エネルギー、省エネ・蓄エネ技術を組み合わせ、2030年度の鉄道事業におけるエネルギー使用量40%削減、CO2排出量50%削減(2013年度比)をめざし、鉄道エネルギーマネジメントを確立します。
3 「技術革新中長期ビジョン」を実現するための方策と具体的な取組み例
技術革新中長期ビジョンを実現するため、当社グループを中心にグループ内外企業等との“つながり”を創出・強化し、イノベーションを起こしていく仕組み「イノベーション・エコシステム」を構築します。当社グループと社外の連携のみならず社外同士の連携も含めた“つながり”が自律的に作用することによって、新たな価値を継続的に生み出していきます。
(1) クラウドシステムプラットフォームの構築によるデータ連携
社内外のデータを横断的に利用可能とするため、情報プラットフォームをクラウド上に構築します。これにより、IoT等で収集したさまざまなビッグデータをAI等を活用して組み合わせ、新たな情報やサービスを提供するなど、これまでにない価値の創出が飛躍的に進むと考えています。
(2) オープンイノベーションによりモビリティを変革する場の創出
他の交通事業者、国内外メーカー等と連携するため、当社グループ主導によるデータを活用したモビリティを変革する場を創出します。
また、あるテーマの解決方法について社内外の有志によるアイデア出しやプログラム開発を行うイベント(アイデアソン(※)、ハッカソン(※))の実施、実証実験施設の社外への提供などにより、新たな連携を生み出すとともに社外の知見を取り込み、社内外のアイデアを新たなサービス、顧客価値として実現します。
※ 「アイデア」+「マラソン」の造語。
※ 「ハック」+「マラソン」の造語。