「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.642023/10/19

フレンチレストラン「ヒカリヤ ニシ」シェフ
田邉 真宏の想い

清冽な水に育まれた信州の食材と奏でる、新しい「ナチュレフレンチ」

「TRAIN SUITE 四季島」1泊2日コース(長野/春~秋)、最終日のランチを担当するのは、長野県松本市の人気フレンチレストラン「ヒカリヤ ニシ」のシェフで、扉グループの統括総料理長を務める田邉真宏。
料理とは、人との語らいや居心地の良さがあってこそ、享受できるもの。「TRAIN SUITE 四季島」は最高の舞台です、と語る田邉が心を込めて作るのは、とれたての信州の食材を新しい発想で組み合わせる「ナチュレフレンチ」。信州の自然を映し出したような見事な一皿は、息を吞むほど美しく、瑞々しい。その味わいは、豊かな旅の締めくくりにふさわしい、清冽なフィナーレを奏でる。


信州の恵みを存分に生かした「ナチュレフレンチ」の草分け

「TRAIN SUITE 四季島」1泊2日の旅でランチを担当して、今年で2年目となりました。私の師匠である宇都宮「オトワレストラン」の音羽和紀シェフからご紹介いただいたのが、「TRAIN SUITE 四季島」に携わるきっかけでした。車内での調理は初めての経験で、最初はどうなることかと思いましたが、とても楽しく続けさせていただいています。
私の料理は「ナチュレフレンチ」という、地産地消をベースとしたマクロビオティックなフランス料理です。信州は食材の宝庫ですから、「ヒカリヤ ニシ」オープン当時から、その魅力を伝えたいという思いで続けてきました。現在、自社農場では野菜や米を栽培し、また併せて長野県内の約250軒もの生産者の皆さまから、さまざまな食材を提供していただいています。
今は野菜もネットで買える時代です。けれど、実際に現場に出向いて、いろいろな話をしながらコミュニケーションをしていかないと、本当に良い食材は手に入らない。そして一緒に頑張っていくんだという、地域との真のつながりも生まれてこないと思っています。


温かなサービスと雰囲気から、幸せな食事の時間は生まれる

「TRAIN SUITE 四季島」には、私と支配人、スタッフの3人が店から赴き、車内のクルーと一緒に料理をお出ししています。クルーの皆さんはとても気さくで、コミュニケーションが上手な方ばかり。良い雰囲気の中で仕事ができるのは、本当にありがたいことです。そして、お客さまには、なにより温かなおもてなしを心がけています。料理とは、かけがえのない時間と空間を一緒に楽しむためのもの。まず楽しい気分があってこそ、料理は美味しく感じられるものです。サービスと雰囲気は、料理に負けないくらい大切なことだと思います。


信州の野菜は「水の野菜」。季節の味を一皿に閉じこめて

私はフランス在住の祖母の料理に親しんだことがきっかけで、フランス料理を志しました。国内やヨーロッパ各地の名店での修業を経て、20年ほど前に、ここ松本に来ました。まず感じたのは、信州は水がとても豊かなこと。フランスの野菜は「土の野菜」といわれますが、信州の野菜は「水の野菜」です。瑞々しくて、甘みがある。そして収穫したものをすぐに調理してお出しできる。これは東京では、なかなかできないことだと自負しています。
定番デザートの「アカシアのアイスクリーム」は、松本市内にアカシアが自生している場所があって、この香りを料理で表現できたらと、作り始めました。温かい牛乳にアカシアの花をたくさん入れて作る、とてもシンプルなものですが、毎年、初夏になるとスタッフと花を摘みに行きます。店ではその時期だけですが、「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまには、この味を味わっていただきたいので、その分だけは冷凍保存しています。


信州の人と大地が育んだ味を届けたい

信州らしい食材のひとつに、下伊那郡天龍村の小さな集落で作っている柚餅子(ゆべし)があります。胡桃や胡麻、砂糖、味噌を練り、柚子の中に詰めて蒸し、乾燥、熟成させた伝統食で、年間300個ほどしか作られていません。現在は若い世代が引き継いで作り続けていることから、応援したい思いもあり、これを最上級の「信州プレミアムビーフ」に添えるソースに使っています。スタッフは実際に柚餅子を持って乗車し、お客さまにもご説明していますが、皆さま、とても興味をもってくださいます。
信州は今、農業を志す若い移住者が増えていて、未来へ続く良い流れが生まれてきています。ここは水がとびきりですから、野菜も肉も魚も一級品です。そして意欲的な生産者が丹精込めて作った多彩な食材がたくさんあります。私も「TRAIN SUITE 四季島」のお客さまに自分の料理を通して、生産者の想いをつなぎ、信州という土地の魅力をお伝えしたい、そんな気持ちを込めて日々、精進していきたいと思っています。
フレンチレストラン「ヒカリヤ ニシ」シェフ 田邉 真宏 [ 文=野村麻里 撮影=小山一成 ]