「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い
Vol.712025/9/11
池内 英治の想い
心をこめて築いた「つながり」を、次代へ
総料理長という仕事は、列車内でフランス料理の調理・提供するだけではない。一期一会の、この旅全体の食体験のプロデューサーという大切な役割を担っている。
「TRAIN SUITE 四季島」という、特別の食の体験のために、何ができるだろうか――。総料理長・池内英治が、心を込めて取り組んできたのは、「つながり」を通した「TRAIN SUITE 四季島」という食体験の真髄だった。

総料理長の大事な役目は、
次のお食事へとバトンをつなげること
しかし総料理長は、旅全体の“食のプロデューサー”です。旅程の中での毎回のお食事の量や味のバランス、食材を把握し、お客さまに旅全体の食体験を存分に楽しんでいただけるように配慮しなければなりません。
そのために、自分で調理を担当するコース料理の量や味つけを若干抑えめにして、次のお食事へのバトンを渡す役割も次第に意識するようになっていきました。
夕食の後には、オリジナルメニューのカレー、ラーメン、温麺といった軽食・夜食も用意されています。
お客さまには、「フランス料理と一緒に、おいしいパンが出ますが、夜食にもおいしいメニューがありますので、それを召し上がるようでしたらパンは控えめに」などと次のことも含めてご案内しています。
産地を訪ねたことで得た、生産者と食材とのつながり
この前は秋田の三種町に“じゅんさい”を摘みに行きました。沼に浮かべた桶舟に乗って一つ一つ摘んで行くのですが、実際に自分でやってみて、こんなに大変な作業だったのかと初めてわかりました。それからは、じゅんさいという食材への認識、料理での使い方が変わりましたね (笑)。
産地を訪ねる時は、車内で一緒に働いているキッチン・クルーたちと常に一緒です。彼らにも、現地の自然環境や生産現場を実際に知ったうえで、その食材を大切に扱ってもらいたいからです。
生産者の方々とのつながりで生まれた食材もあります。たとえば牛肉は茨城県産の常陸牛を使っていますが、この牛肉は、初代総料理長の岩崎均が「霜降り牛でも、特別なものがほしい」と要望して、生産者の方がこれに応えて、飼育方法や飼料を工夫して特別に作り出してくれたものです。
「TRAIN SUITE 四季島」には、この牛肉のほかにも、二代目総料理長・佐藤滋が用いるようになった比内鶏の卵など、代々の総料理長が開拓し、受け継いできた食材やノウハウが数多くあります。
私も各地で生産者の方々を訪ねるうちに、仙台の豆腐、栃木県産の柚子、椎茸、筍、梨、いちご、日光湯葉など、「これぞ」と思う素晴らしい食材に出会い、車内での料理に取り入れるようになりました。その中には今後、この列車でのメニューに受け継がれていくものがあるかもしれません。
お客さまとの深いコミュニケーションを
大切にしていきたい

「TRAIN SUITE 四季島」で、私が担当しているコース料理は、通常のレストランと比べて、お食事の時間も短いし、メニューの量も少なめです。そのような条件の中で、記憶に残る料理を出すには、やはり一つ一つの食材が重要になってきます。
そうした食材に関して、各地で生産者の方に直に伺ったお話をお客さまにお話ししたり、旅全体での食事の楽しみ方をご提案したりするうちに、以前にレストランのシェフを務めていた頃には考えられなかったほど、お客さまともコミュニケーションを取ることができるようになりました。
お客さまとのお話が弾んで、下車する駅に到着する直前まで会話が続くこともあります。自分のキャラクターが変わったと感じるほど、お客さまとの距離が縮まったことは、この職務での大きな収穫でした。
総料理長として本当にたくさんのお客さまに出会い、通常のレストランでは味わえないような数多くの感動体験の場に立ち会わせていただくことができました。
「TRAIN SUITE 四季島」では、食に携わるスタッフだけではなく、トレイン・クルーや、車掌などの乗務員、そしてお客さまの旅の途中のスナップ写真を撮影するカメラマンなど、全員がお客さまに喜んでいただこう、旅を楽しんでいただこうと一生懸命です。それはこの列車に乗っていた私が実際に体験して深く実感したことでした。
これまでの総料理長たちが築いてきた生産者の方々とのつながり、共に働くクルーとの信頼関係、そしてお客さまとの心の交流、これらすべてが、次代の総料理長へと受け継がれていくことでしょう。食材への理解と愛情、チーム一丸となったおもてなしの心、そして一人ひとりのお客さまとの真摯な対話――これこそが「TRAIN SUITE 四季島」の食の真髄だと思います。
この唯一無比の列車での体験が、必ずや皆さまの心に深く刻まれる旅の思い出となることを、心から願っています。