グループ経営ビジョン
「勇翔2034」 「当たり前」を
超えていく。

トラウデンさん　LXにより、新しい体験や生活様式をもたらそうとしていることは分かりました。これまでのお話も踏まえ、JR東日本にとっての「『当たり前』を超えていく。」とは、どのようなことなのでしょうか。

松本部門長　私たちが今までやってきたこと、そしてお客さまが「JR東日本グループってこうだよね」と思っていらっしゃることを超えていくことです。そうしないと、世の中の変化のスピードに取り残されてしまいます。そのためには、先ほどのエアモビリティのようなお客さま側の視点とともに、働く社員からの視点も大事です。例えば、従来、鉄道の点検やメンテナンスは大半を人手で行ってきましたが、技術が進歩するにつれ、少しずつ人手に頼らない方法に置き換わっています。将来の人口減で働き手が足りなくなるという課題もありますから、こうした「働き方の当たり前」も、どんどん変えていく必要があります。

トラウデンさん　一方で、例えば鉄道文化といったものに心くすぐられるファンもいるので、変わらないでいてほしい部分もあります。

松本部門長　培ってきた文化を大切にすることはもちろんですし、時代が移っても絶対に変わらない考え方もあります。安全が経営の最優先課題であることは全く変わりません。ご利用される方が安心してくださらなければ、そんな商品・サービスを使ってはいただけないですよね。ですから、安全は今も将来も重要で、それがお客さまの安心を生み出し、信頼感につながっていく。そう考えています。

トラウデンさん　変えられない部分もある、ということですね。ですが、お話をすればするほど、JR東日本＝鉄道のみ、というイメージが崩れてきました（笑）。

松本部門長　私どもはモビリティと生活ソリューションの二軸でやっていますから（笑）。そして、この二軸を結ぶのが「Suica」です。

トラウデンさん　鉄道以外にもタクシーで使ったり、ものすごく利用しています。新幹線でも使えるようになり、すごく便利になったと思います。

松本部門長　ありがとうございます。でも、そうは言っても「もうちょっと、こうだったらいいのにな」ということはありませんか？

トラウデンさん　そういえば、チャージの上限が2万円なので、使おうと思ったら足りなかった、なんてことがあります。

松本部門長　おっしゃる通りです。以前はコンビニなどでの少額決済が中心でしたが、今ではショッピングセンターなどで使えるところも増え、2万円では足りないとのお声もいただきます。そうした声にもお応えすべく、24年12月にSuica未来構想「Suica Renaissance」を発表しました。その際、このようなイメージ図をお示ししたんですね（下図参照）。

トラウデンさん　Suicaだけでも、こんなに変われる部分があるんですね。

松本部門長　はい。例えば、今はSuicaと改札機でデータをやりとりしていますが、これをセンターサーバー化して集中管理します。すると、お客さまにお届けできる価値が広がります。

トラウデンさん　例えば、どういうことですか？

松本部門長　個人情報の取り扱いに細心の注意を払いつつデータを活用することで、例えばお客さまのご利用に応じた割引やクーポンの発行など、これまでにない便利な移動・消費体験の提供ができるようになります。

トラウデンさん　パーソナライズできるようになるわけですね。Suicaは、どのくらいの方がお持ちなんですか？

松本部門長　枚数では1億1300万枚超、ただし複数枚をお持ちの方もいらっしゃいます。モバイルSuicaでは、3400万枚超になります。

トラウデンさん　私もモバイルSuicaユーザーです。

松本部門長　毎度ご利用、ありがとうございます（笑）。名称やデザインは違いますが、PASMOなど日本全国のさまざまな交通系ICは基本的にSuicaのシステムを利用しているので、かなり広域でお使いいただけます。そちらも含めると、もっと多くのユーザーがいらっしゃるわけです。

トラウデンさん　もうインフラみたいなものですよね。まだまだいろいろなことが、Suicaを通じてできそうです。コンサートや演劇のチケットをネットで予約すると、コンビニで紙のチケットを出さなくてはいけないじゃないですか。あれも、Suicaでピッとできるとすごく便利になって助かります（笑）。

松本部門長　ヒントをいただきました（笑）。十分にやりきれていないところがたくさんありますね。2001年にSuicaをリリースし、その後多くの鉄道会社との相互利用を拡大したことで乗り換え時にきっぷを買い直す手間がなくなったことなどもあり、驚きとともに受け入れていただきました。今後も、皆さまに「あっ!」と感動いただけるようなイノベーションを起こしたいですね。

松本部門長　Suicaを活用してウォークスルー改札の実現も目指しています。

トラウデンさん　海外には改札がない国も多いですが、日本に帰ってきて改札を通ると安心したりします（笑）。でも、確かにないほうが便利ですよね。

松本部門長　荷物で手がふさがっている方や、ベビーカーを押している方などにとって、改札は不便です。簡単ではありませんが、顔認証技術や人工衛星を介してGPSの位置情報を活用するなどしてウォークスルー実現の道を探っていきます。

トラウデンさん　そういえば、「勇翔2034」では、価値創造のフィールドに宇宙も入っていました。

松本部門長　「都市、地方、世界、宇宙」って、欲張り過ぎでしょうか（笑）。GPSは、列車制御にも利用できないかと考えています。現在は信号で行っていますが、基本的に有線なんですね。だからメンテナンスが大変ですし、万一故障するとお客さまにご迷惑がかかってしまいます。だから人工衛星を介してできないか、というチャレンジもしていきたい。

トラウデンさん　鉄道ってこんなに便利なんだと思っていましたが、まだ便利になることがあるんですね。今の便利さが当たり前で、ほぼ完成された形だと思い込んでいたので、驚きました。

松本部門長　鉄道にはもう伸び代がないと考える方もいます。ですがお話をしたように新しい技術を取り込むことで、新しいサービスや働き方を導入する余地が本当に大きく、まだまだ成長していけると考えています。

トラウデンさん　伺った内容を実現していくのが社員の皆さん、というわけですね。「勇翔2034」には、社員一人ひとりが主役とありました。

松本部門長　今までお話した内容は、ヒトが生活する上での「豊かさ」を起点とし、価値を創造していくものです。言うなれば「ヒト起点」。当然、それを実現していくのもヒトです。当社グループでは、約10万人の社員が働いています。社員一人ひとりが、「どんどん新しいことにチャレンジしよう」とアクションを起こすことが新たな価値を生み出します。それが自分自身の成長につながり、グループ全体の発展に結び付きます。決められたことを、決まった通りにやる。これは信頼のベースとして不可欠です。それに加えて新たなチャレンジで、どうすれば、より安全に、より快適に、より地域が元気になるのか。社員一人ひとりの挑戦が、安心と感動の価値を大きくしていきます。

トラウデンさん　JR東日本グループのような大きな組織は、社会を変えられるパワーを持っているわけで、世の中の変化にアジャストするのではなく、むしろ変化を起こしていく。「世界を変えてやるぞ!」という気持ちで、社員の皆さんには誇りに思ってほしいですね。すごいことをしているんだということを、改めて感謝の気持ちとともにお伝えしたいと思います。

松本部門長　ありがとうございます。これまではモビリティが大きな柱でした。そこに加え、生活ソリューションの軸を充実させることで、圧倒的にたくさんのシーンで、お客さまにワクワクしながらご利用いただけるようになるはずです。

トラウデンさん　きっと気付かない間にお世話になっていることが増えるのかな。あれ、これもSuicaでできる、と（笑）。

松本部門長　目指さなければいけませんね。それだけでなく、先ほどの医療やシームレスな交通ネットワークなども含め、さまざまな社会課題に皆さまと一緒に向き合い、少しでも良い未来を創り出していきたい。私どもは、そういう企業グループなんだと思うんですね。

トラウデンさん　私たちも、一生活者として便利な部分を享受するだけでなく、一緒に社会を動かしていく気持ちが必要かもしれません。「こういう社会課題の解決の仕方もあるんじゃないか？」というJR東日本からの提案を敏感にキャッチして、賛同できるものだったら、実現のスピードを早められるように積極的に協力する。一生活者として、そんなこともできるのかなと思いました。

松本部門長　かつては、全てを自前でやってしまおうという傾向がありました。でも、限界があるんですよね。世の中の皆さまと、いかに連携できるか。それぞれの得意分野を持ち寄ることができれば、スピーディーに、より大きな成果につなげることができます。

トラウデンさん　「1人の100歩よりも100人の1歩のほうが大きい。それが2歩になれば一気に200歩になるんだから」──大好きな言葉なんですけど、そういう気持ちで動いていたいな、と思います。

松本部門長　いい言葉ですね。そういうムーブメントをつくり出せるような存在を目指していきます。

トラウデンさん　今日は、未来に希望が持てるお話をたくさん伺えて、元気になりました。ありがとうございました。

松本部門長　ご期待に沿えるよう、グループ全体で挑戦していきたいと思います。ありがとうございました。