大腸がんの症状・治療について

大腸がんとは

大腸は盲腸から直腸まで伸びる1.5mほどの袋状の器官で、主に水分の吸収を行います。大腸を盲腸からS状結腸までの結腸と直腸に分ける場合もありますが、この部位にできたがんを総じて大腸がんといいます。現在の日本ではがんで亡くなった方のうち男性では3番目、女性では最も多いのがこの大腸がんです(2012年人口動態統計による)。
大腸がんの発生については、食生活の欧米化(高脂肪、低繊維質)や喫煙がリスクとされています。一方、運動や野菜・果物の摂取が大腸がん発生のリスクを下げるとも考えられています。
大腸がんは初期の段階で自覚症状が出ることは比較的少なく、症状を呈した大腸がんの7割以上は進行がんだったというデータがあります。代表的な症状に、血便、便通異常(便秘、下痢など)、腹痛、貧血などが挙げられますが、2008年から2013年までの5年間に当院で大腸がんと診断または治療した426例のうち、これらの症状を有したのは半分以下の179例でした。発見が最も多かったのは検診や人間ドックで行われた便潜血検査で、陽性は、199例でした。便潜血検査は大腸がんの早期発見に有効であるとされている有用な検査です。症状がなくても便潜血検査で陽性の場合は、大腸内視鏡などの精密検査を受けることが必要です。大腸がんは比較的ゆっくり進行していくことが多く、1cm程度の小さな大腸がんで他臓器の転移をきたすことはまれです。そのため、症状のない小さい段階で発見できれば治癒する可能性が高いともいえます。

大腸がんの進行度

大腸がんの進行度は原発巣と呼ばれる大腸がんそのものの深さと、リンパ節の転移の有無、他臓器への転移の有無で評価します。大腸がんはステージ0~Ⅳまでの5段階に分けられており、ステージ0はがんが粘膜内にとどまるものを指します。ステージⅠは粘膜の下にある固有筋層までにとどまるもの、ステージⅡは固有筋層を越えて周囲に広がるもの、ステージⅢは周囲のリンパ節に転移のあるもの、ステージⅣは遠方のリンパ節や他臓器への転移のあるものと続きます。原発巣の評価には大腸内視鏡が必要ですが、ステージを決定するためには超音波検査やCTなどで、周辺組織への浸潤の状態や他臓器への転移の状態を評価することが必要です。

大腸がんの治療

大腸がん治療のアルゴリズム

大腸がんの治療は大きく分けて、内視鏡治療、手術療法、化学療法があります。治療の選択は進行度により判断しますが、ステージにかかわらず切除可能なものは内視鏡あるいは手術で切除するのが原則です。ステージ0のうち比較的表層にとどまるもの(粘膜内がん)は内視鏡治療、ステージ0の中でも比較的深くまで浸潤しているものや進行がんは手術療法を選択します。また、他臓器に転移をきたしている場合でも、将来的に腫瘍が大きくなって腸閉塞(ちょうへいそく)や出血の原因になることもありますので、原発巣を可能な限り手術で取り除くのが原則です。他臓器の転移巣も肝臓や肺の場合、切除できる腫瘍であればすべて切除するほうが予後は良いとされ、当院では積極的に手術を行っています。進行がんで手術をしたものの転移が認められた場合、または手術不能の場合は、抗がん剤を用いた化学療法を行います。

内視鏡治療

内視鏡治療はステージ0のうち、がんが粘膜内にとどまると予想されるものが対象となります。内視鏡治療は病変とその周囲の組織だけを切除しますので、外来での治療が可能です。ただし、がんの大きさが1cmを超えるものや数が多い場合、抗凝固薬を内服している場合、ご高齢の場合など、ケースに応じて入院が必要なこともあります。

外科的治療

結腸がんや直腸がんに対する手術の基本は、腫瘍を含む腸管の切除と周囲のリンパ節の郭清です。リンパ節への転移の可能性がある腫瘍に関しては、外科的な切除が必要と考えられています。リンパ節は、大腸を栄養している血管の周囲に存在しているために、外科的な切除では、大腸を栄養する血管を含めてリンパ節を切除することになります。当院では、結腸直腸がんに対して、積極的に腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を導入してきました。腹腔鏡手術は、5~12mmの穴を4~5カ所開けて手術を行います。1カ所の穴から、二酸化炭素を注入してお腹を膨らませた後、ビデオカメラをお腹の中に入れて、ビデオカメラの映像を見ながら、残りの穴からさまざまな器具を入れて、大腸の剥離と切離、リンパ節郭清などを行います。お腹に開けた穴を4~5cmに広げて、郭清したリンパ節とともに大腸を取り出します。腸と腸をつなぎ合わせる吻合(ふんごう)は、体外で行ってお腹に戻す場合と、特別な器具を用いて、お腹の中で吻合操作を行う場合とがあります。
腹腔鏡手術の利点は、手術による傷が小さく手術後の痛みが少ないことです。さらに、手術後の回復が早く、入院期間の短縮にもつながります。また、腹腔鏡手術では、細かな血管まで拡大表示できるので細かな操作が可能です。直腸の剥離においても、従来の手術では直接見えなかった場所をビデオカメラで観察できるようになり、開腹手術と同等、またはそれ以上の手術も可能と考えています。
しかし、高度の進行がんにおいて、周囲の組織にまでがんが広がっている場合は、腹腔鏡手術では難しい場合もあります。そのため、症例に応じて適切な手術法を選択することが必要であると考えています。

化学療法

化学療法はステージⅢ以上の進行度で行います。外科手術で腫瘍を切除した後に行うもの(術後補助化学療法)と、外科手術で切除不能な場合に行うもの(全身化学療法)に分けられます。
術後補助化学療法は外科手術で腫瘍を切除したあとに再発を抑え、予後を改善する目的で行うものです。具体的には、5-FU®、UFT®、カペシタビン®、あるいはFOLFOX療法と呼ばれる、複数の薬剤を併用する方法で行います。
全身化学療法は手術により腫瘍が切除不能と判断された進行がんに対して行うものです。使用する薬剤には5-FU®、オキサリプラチン®、イリノテカン®、アバスチン®、セツキシマブ®、パニツムマブ®のうち、適切なものを組み合わせて最初の治療を行い、効果を見ながら適宜薬剤を変更していきます。前記の薬で効果が現れない場合は、スチバーガ®という比較的新しい薬剤を用いる場合もあります。これらの治療は全身状態が良ければ通院しながら行えます。当院では、日常生活を送りながら治療ができるよう外来化学療法室を備えています。

大腸がん遠隔転移に対する外科治療

大腸がんの発見時に、肝や肺などに転移、あるいは手術後に肝臓や肺への再発が認められることは、決してまれなケースではありません。肝転移や肺転移に対する切除の成績が蓄積された結果、転移を切除することで治癒する可能性が認められました。現在は、外科的に切除可能であれば転移巣を切除することが、ガイドラインで推奨されています。当院でも外科的に切除可能な肝転移に対して、積極的に転移巣の切除を進めています。転移巣の個数や大きさにかかわらず、肝切除によって残肝の容積が確保されることと、すべての転移巣を切除できることが、切除を行うための条件です。外科的に手術が難しい症例では、化学療法を先行して腫瘍を縮小させ切除可能となった症例で肝切除を行う、という治療が可能な場合もあります。
ただし、がんが肝転移した、すべての患者さまの手術が可能になるわけではありません。CTやMRIなどの検査を行い、その結果を分析して、手術の可能性を検討しています。手術による切除が難しい患者さまに対しては、分子標的薬を用いた化学療法を行うようにしています。

当院の治療成績

  • 2014年結腸直腸がん内視鏡治療…49例
  • 2014年大腸がん(結腸直腸がん)手術
    • 原発巣切除 腹腔鏡手術…49例
    • 原発巣切除 開腹手術…15例
    • 肝転移手術…7例

各診療科の対応

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