肺がんの症状・治療について

肺がんとは

2012年の統計によると肺がんは、わが国の悪性腫瘍(がん)の死亡者数において、男性で第1位、女性でも大腸がんに次いで第2位と、がんの中でも最も死亡者数の高い病気です。
近年は喫煙率の低下に伴い、アメリカやイギリスの肺がん死亡者数は減少傾向にあります。しかし、わが国の肺がん死亡者数はいまだに減少が見られません。各国の肺がんの動向を見ますと、喫煙率のピーク時から約20年後に、肺がんの発生数と死亡者数の減少を予想することができます。わが国の高齢社会を考えると、今後まだ喫煙の影響からしばらくは肺がんの発生数と死亡者数は増えると予想され、肺がん対策は大きな課題になっています。

肺がんの診断

予防と早期発見

肺がん対策で最も重要なのは予防です。喫煙ならびに受動喫煙、また石綿(アスベスト)を含めた職業被ばくは、肺がん発生の危険因子として認知されたことは周知の事実であり、社会全体での環境改善が進んでいます。肺がん治療の予後を改善するためには、早期発見が鍵です。肺がんの発見動機は、検診による場合、自覚症状による場合、そして他疾患観察中に発見される場合の大きく3つがあります。
検診には、職場で行われる職場検診、市町村が主体となって行う住民検診、老人保健法に基づく老人健診、自費負担で行う人間ドックなどがあります。肺がんにおける検診の意義について世界的に見ても否定的な見解が多いのですが、自覚症状発見例に比べると、明らかに検診発見例の方が早期の肺がんを多く発見できます。最近は人間ドックなどで胸部CT画像を使ったCT検診が始められており、通常の胸部X線写真では発見できない小さな早期肺がんが多く見つかっています。
咳(せき)や痰(たん)、血痰(けったん)、胸痛、息切れなどの自覚症状で発見される場合、検診での発見例に比べると進行例が多く、したがって手術可能な例も少なくなってしまいます。長引く咳などで不安を感じる際には、迷わず医療機関を受診することをお勧めします。
一方、他疾患の観察中に、たまたま撮った画像で肺の異常影が見つかることがあります。早期の状態で見つかればよいのですが、なかには進行した状態で発見されることもあります。
特に注意していただきたいのは、肺以外の病気で通院中の場合です。患者さまは医療者が全体を診てくれていると期待します。一方の医療者側は、診ている部分以外について患者さまご自身が健診などで管理されているであろうと考えがちです。そのため肺に関する検査が長い間なおざりにされ、発見が遅れてしまうケースは少なくないのです。自分の体を自分で守る、そんな姿勢が重要であることをご理解ください。

肺がんの治療

肺がんの治療方法には、外科的手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法があります。肺がんの種類(組織型)や進行の程度(病期)によって適切な治療法を選択できるかどうかが、その後の経過に大きく影響を与えます。
特に外科的手術が可能な症例では、早期診断・早期治療が望ましいため、当院では呼吸器内科と呼吸器外科との連携を密にして、診断後は速やかに手術を受けられる体制にしていますかつて肺がんは、手術をあきらめるしかない病だと思われていました。しかし近年、治療法の進歩に伴い、肺がん患者さまの生存期間の延長が実現しています。
1990年後半に抗がん剤の新薬が多数登場し、以来、肺がん領域における抗がん剤治療は大きく進歩しました。
また、患者さまを苦しめていた吐気・嘔吐(おうと)の副作用も制吐剤の進歩で、ほぼ克服できるところまできています。白血球数が著しく減少した際には病院での個室隔離が一般的でしたが、現在は白血球数を増やす薬が開発され、治療の制限や患者さまへの危険性もかなり減っています。今や抗がん剤治療は患者さまを病院へ閉じ込める治療ではなく、日常社会生活の中で行える治療法に変わってきています。当院でも外来化学療法を積極的に導入しています。ただし、初回治療導入時や長時間点滴使用の際には患者さまの安全を考えて、短期間の入院をお願いしています。進行肺がんの場合は、最適な抗がん剤を選択できるか(個別化治療)が、生存期間を大きく左右します。今ではどの種類の肺がんに、どの抗がん剤が最も効果的であるか解明されつつあり、今後さらに治療成績の向上が期待されています。

当院の治療成績

呼吸器内科における肺がん症例背景

  • 2013年…全190例(うち新規症例…80例)
  • 2014年 上半期…全183例(うち新規症例…31例)

施設によって症例背景は異なりますが、近年の全国的傾向として扁平(へんぺい)上皮がんより、腺がんが多く見られます。喫煙の関与が強い扁平上皮がんは、肺中枢部に近いところに発生しやすく、早期では画像で見つけにくいのが特徴です。咳(せき)や血痰(けったん)などで発見される時には、進行期になっているケースが少なくありません。そのため喫煙歴の多い人は喀痰(かくたん)検査などの検診が必要です。一方、腺がんは肺の末梢(まっしょう)に発生しやすいため、症状がでるまで時間を要します。近年の検診推進から早期に発見されるケースも増えてきましたが、進行期となった症状発見例もいまだに少なくありません。

【2014年度上半期の治療状況】

  • 手術…18例
  • 化学療法…71例(外来化学療法…39例)
  • 放射線療法(他臓器転移部は除く)…8例
  • best supportive careを含む経過観察(術後観察、化学療法後観察など)…86例

呼吸器内科は指導医すべてががん治療認定医であり、肺がん治療導入についてはカンファレンスを通じ、一人ひとりの患者さまにとって最適な治療法を決めることにしています。
高齢や既存の合併症などで手術や化学療法が耐えられないと判断された場合には、放射線療法も検討します。その際には非常勤の放射線専門医、日本放射線腫瘍学会認定医と合同協議してライナックによる放射線治療を行います。また定位照射療法が望ましい例や先進放射線療法を希望される場合には、専門施設を紹介しています。
症状を伴う患者さまに対しては治療初期から症状緩和のための治療を開始し、症状を取り除くことが難しい場合には緩和ケアチームと協力して、少しでも患者さまの苦痛が和らぐように心がけています。
また毎月、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科、病理科による合同カンファレンスにて、手術した肺がん・肺腫瘍・縦隔腫瘍症例を中心に診断・治療の評価を行い、さらに良い治療を提供できるよう意見交換を続けています。
呼吸器内科では一般外来の他、肺がんセカンドオピニオン外来、胸膜中皮腫を含めたアスベスト外来を毎週木曜日の午前中に呼吸器内科医 山田嘉仁が担当。少しでも多くの患者さまにより良い診断・治療を提供できるよう心がけています。

各診療科の対応

主な診療科名 治療の実施状況(○:実施可 / ×:実施不可) 当該疾患の治療に関する内容が掲載されているページ
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