2021年3月26日

AOMORI MONO

|青森県|

ブイヤベースで八戸の水産物に新しい価値を創造する。

青森県八戸市は、東日本大震災の津波によって多大な影響を受けた街のひとつ。この街の主要産業である水産業の落ち込みは、八戸の街の魅力が失われることになると危惧したメンバーが立ち上げたのが「八戸ハマリレーションプロジェクト」(HHRP)でした。HHRPがこれまでに行ってきた活動について、立ち上げメンバーの古川篤氏にJR東日本盛岡支社 高橋伸がお話を伺いました。

「自分ができることは何か」という思いを形にした「八戸ハマリレーションプロジェクト」

──「八戸ハマリレーションプロジェクト」について教えてもらえますか?
古川氏:私は八戸の水産加工会社で企画の仕事に携わっています。2011年3月に起きた東日本大震災で八戸も被災し、当時多くの社員は復旧作業に追われていました。もちろん社命として本社に詰めて復旧の状況をまとめるという業務も重要です。でも一方で、三陸地方の水産業全体が大きく落ち込んでいたなかで、会社の枠を超えてなにかアクションを起こすべきではないかと考えていました。そこで社長にその思いを伝え、認めていただきました。同業者である水産関係の企業や団体をまわり、賛同してくださる方を募りました。結果、30代の同世代を中心とした6人のメンバーで「八戸ハマリレーションプロジェクト(HHRP)」という活動母体を作ることになりました。設立は震災の3か月後、2011年の6月半ばのことでした。

高橋:すばらしいスピード感ですね。実際、八戸の水産業界を盛り上げるための、どういった活動を予定していたのでしょうか?

古川氏:当初は物販や催事といった企画を実施していましたが、活動を進めていく中で、より「八戸の水産物の価値を高める」活動の比重を高めていきました。そのためのブランディング活動を兼ねて、魚離れが進んでいるといわれる地元の20~40代の主婦層とその子どもたちをターゲットとした親子向けの料理教室なども開催しました。なぜ、魚離れしてしまうのかということを知るために生の声を集めようという目的だったのですが、意外なことに若い主婦たちも子どもたちも、8割は魚が好きだということがわかりました。週3で魚を食べていることもわかり、魚離れは起きていませんでした。その代わり、八戸で獲れる魚のことを知らない。特産のイカとサバはすぐに名前が挙がりますが、その他の名前は出なかった。食べている魚料理も、マグロやサーモン、ホッケなど。どれも八戸で獲れる魚ではありません。実は八戸ではそれぞれの漁獲量こそ多くありませんが、600種類もの魚介が水揚げされます。八戸の魚介類の豊富さをもっと八戸の人に知ってもらいたいと思うようになりました。

ブイヤベースで八戸の水産物に新しい価値を創造する。 写真1

八戸では約600種ほどの水産物が水揚げされるが、その事実は八戸市民にも浸透していなかった。

八戸の魚介類との新しい出会いを提案する。それが「八戸ブイヤベースフェスタ」の始まり。

ブイヤベースで八戸の水産物に新しい価値を創造する。 写真2

──2012年から始まった「八戸ブイヤベースフェスタ」について教えてください。
古川氏:八戸の水産物を、八戸の人たちに知ってもらいたい。そのためにはどうすればよいか。20~40代の主婦層にお話を聞いた結果、実は八戸のことを嫌いという気持ちを持っている人はほとんどいないことがわかりました。また、魚料理といえば和食のイメージが強いこともわかりました。一方で海外のものに対する嗜好も高く、イタリアンやフレンチに対しての関心度が高い。八戸の魚と縁遠いように感じるけど、実は食としてつながる可能性のあるものはなんだろうと考えた結果、出てきたアイデアのひとつがフランス・マルセイユが発祥のメニュー「ブイヤベース」でした。知名度があり、でも実際食べたことはないブイヤベースという料理に、八戸の魚介類を使う。それによって、違うアプローチから八戸を知ってもらうきっかけになるのではと思いました。結果として、ありがたいことにその試みが好評でした。

高橋:2012年から連続して毎年開催され、次第に八戸以外の青森県から、また他県からも人が集まるようになっていたと思います。八戸以外の集客を見込んでいたのでしょうか?

古川氏:いえ、当初はあくまでも「内向き」のイベントでした。参加をお願いしたお店は八戸市内のフレンチやイタリアン、ポルトガル料理やホテルのレストランなどです。フェスタの間、少しでも地元の方に食べてもらえたらうれしいなと思っていたら、1か月もせずにどこのお店も満席になりました。参加してくださった方たちの声は、八戸でこういったイベントを立ち上げてくれてありがとう、とか、こんなにオシャレな料理を八戸の魚で食べられると思っていなかった、といった意見でした。アンケートに熱い思いを書いてくださった方たちは、今もヘビーユーザーとして参加してくださっています。

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10年目を迎える今年は、残念ながらコロナの影響でフェスタの形では開催されていないが、2月半ばから約1か月間、各店舗でブイヤベースを食べることは可能だ。

高橋:その結果、今年でスタートから10年を迎えているんですね。今年はコロナの影響もあり、フェスタという形での実施は見送られたそうですが、ブイヤベースの提供は各店舗で行われているそうですね。

古川氏:そうです。コロナ禍のなかでの実施は見送りましたが、食べることはできます。八戸ブイヤベースのルールとして、4種類以上の魚介類を使用すること。そして「2度おいしい」という仕掛けを作っていただくことの2つがあります。「2度おいしい」というのはスープを利用したもう一皿を提供していただくこと。ブイヤベースのスープを使ったリゾットなどを提供したり、中にはライスコロッケをスープにひたして提供したり、せんべい汁にヒントを得た食べ方を提供しているところもあります。どのお店もとてもこだわっていて、各店舗で味が違う。それもブイヤベースの面白いところだと思います。

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「八戸ブイヤベースフェスタ2020」時の画像。八戸市内のフレンチやイタリアンなど洋食レストラン、ホテルのレストランなどのシェフが参加。

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ブイヤベースのスープを使った「2度美味しい」レシピを考案することもルールのひとつ。

JRと共同で行った商品開発について

──「八戸ブイヤベーススープ缶詰」の商品開発はどういったいきさつからでしたか?
高橋:当時の八戸駅長が八戸の食材や特産品を使った八戸らしい商品を開発して、交流人口を拡大するような取り組みができないか検討していました。盛岡支社にも地域活性化プロジェクトというものがあって、八戸駅長から盛岡支社の事業課に相談がありました。八戸市様のほうでも連携していたこともあり、その流れで古川さんたち、HHRPをご紹介いただいたというのが始まりでした。

古川氏:2018年でしたよね、たしか。その前から八戸駅長を始めとしたJRの方々との接点はありましたが、本格的な商品開発のお話はそのときが初めてでした。缶詰でブイヤベースを商品化するのは、率直に言って無理だろうと思っていました(笑)。私自身、缶詰の商品開発の担当をしていて、そもそも、シェフが作る料理と加工品というのは考え方が全く異なります。加工品は何万食も同じ味で作ることが必要です。一方、ブイヤベースフェスタには多くのシェフが参加してくれていますが、各店舗異なる味で、その時水揚げされる魚介類の特徴を活かしながら日々仕上げてくださっています。それらを、どうやってひとつのものにまとめたら良いのか、とても苦労しました。そして何よりも、私自身がこれまで「お店で食べること、その空間も含めて八戸ブイヤベースなんです」と声を大にして周知してきたのに、相反することになる。そこは大きなジレンマでした。

高橋:非常にご苦労されていましたよね。

古川氏:そうですね。でも、せっかくいただいたお話なので、なんとかやれることはないかを考えていました。加工品の開発自体には参加していませんが、フェスタへ参加しているシェフの方々にも相談したところむしろ彼らのほうが「加工品は別物」ということを理解してくれて、お店はお店のクオリティーが必要だけど、家庭でも楽しめるクオリティーを追求したらいいと言われて、とても楽になりましたね。とはいえ、色々と味には厳しい意見を頂きながら(笑)、一般の方からも「これならお家で食べてみたい」と思っていただける味を目指しました。

高橋:何度か試食に立ち会わせていただきましたが、思うような味に近づけるのはとても大変でしたよね。

古川さん:もちろん、今の製品に対しても色々な意見があると思います。ただ、もともとブイヤベースフェスタでもおこなっている「2度おいしい」というルールにもあるように缶詰のスープをそのままだけでなく、スープを使った楽しみ方を提案しています。家庭でも、スープとしてだけでなく、他のお料理に使ってもらえたらと思っています。リゾットやパスタなど、使える幅が広がればと。

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スープのみを缶詰化。具材は別に調理し、最後にスープと合わせるのがブイヤベースのスタイル。

缶詰の商品をきっかけに、八戸と八戸の海鮮物を知ってもらいたいし、
いつか来てもらいたい。

──八戸ブイヤベース缶ができたことで、今後はどんな展開を予定していますか?

古川氏:加工品は2020年1月に発売されましたが、御存知の通り日本でもコロナ感染者が出始めたころ。当初は地元で販売するのではなく、県外で販売することで八戸を知ってもらい、新幹線を使って八戸・青森にきてもらいたいと考えていました。それが面白いなと思って始めた取り組みでしたから。コロナの影響もあり、人を呼ぶことができなくなってしまったのでその動きは結局ストップしています。その一方で、コロナの影響があったからということではなく、地元の人にも知ってもらい、食べていただきたいという気持ちもあったので、JRさんを中心とした各関連施設、八戸駅や八食センター、お土産店を中心に販売しています。

高橋:ブイヤベースをフックにして、八戸に人を呼び込みたい。ただ、それは今できません。でもコロナが終息した暁には、首都圏のほうで力を入れてPRしていきたいと考えています。私たちは産直市を首都圏で行っていますし、ECサイトもうまく活用していきながら、八戸、ひいては東北に人を呼び込むひとつのツールにしていきたい。

古川氏:そうですね。今はブイヤベーススープ缶詰で八戸を知ってもらって、いつか行きたいという気持ちを持つ人を少しでも増やしていけたらと思っています。

ブイヤベースで八戸の水産物に新しい価値を創造する。 写真7

水産業界を盛り上げるための試みが、震災後10年で「人を呼び込むためのツール」へと成長しつつある。

八戸ハマリレーションプロジェクト