2021年3月26日

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|岩手県|

地域の未来を変える、ビールを旗印としたまちづくり。

柳田国男の「遠野物語」でも知られる遠野市は、ビールの主原料となるホップの一大生産地。半世紀以上にわたりホップの栽培に取り組んできましたが、震災以降から新たなプロジェクトが動き出しています。それは、ビールを旗印とした新たなまちづくり『ビールの里構想』。官民一体となって取り組むこのプロジェクトは、日本のビールの未来を変える起爆剤となるかもしれません。

プロジェクトの合言葉は、ホップの里からビールの里へ

地域の未来を変える、ビールを旗印としたまちづくり。 写真1

2019年8月。第5回目を迎えた「遠野ホップ収穫祭」の会場では、ホップの収穫を祝い、大勢の来場客が思い思いにビールを楽しむ光景が見られました。その数、約12,000人。収穫祭を始めて5年で来場者は5倍に増え、今では遠野の夏の風物詩として欠かせないイベントになっています。
遠野市でホップ栽培が始まったのは、1963年のこと。キリンビールと契約を結んで栽培を拡大、日本一の生産面積を誇る産地へと成長を遂げてきました。しかし、その一方で生産者の高齢化と後継者不足から、ピーク時の6分の1まで生産面積や生産量が減少しています。

地域の未来を変える、ビールを旗印としたまちづくり。 写真2

夏の風物詩となった「遠野ホップ収穫祭」。来場者は年々増加しており、半数以上が市外や県外からの観光客。ビールを楽しむだけでなく、遠野のファンづくりの場にもなっています。

地域の未来を変える、ビールを旗印としたまちづくり。 写真3

ホップ畑で収穫体験とビールを楽しむ、遠野ビアツーリズム。首都圏からの参加者も多く、リピーターになる人も。

「キリンビールとは栽培契約という形でお付き合いをしていたのですが、その流れが変わったのは2007年に発足した『TK(遠野×キリン)プロジェクト』。ホップを活用した地域づくりを目指し、遠野産ホップをはじめ、ビールに合う食材の開発やPRをするために、ビアツーリズムなどの活動を始めました」と話すのは、遠野市6次産業室・室長の菅原康氏。

地域の未来を変える、ビールを旗印としたまちづくり。 写真4

「震災以降は、農業者支援にも力を入れ、遠野市との交流がさらに深まりましたね。その中で、遠野ホップ収穫祭の開催が始まり、“ホップの里からビールの里へ”を合言葉に『ビールの里構想』の動きが具体化してきたんです」と、キリンビール株式会社の佐藤鉄氏は振り返ります。

地域の未来を変える、ビールを旗印としたまちづくり。 写真5

ビールの里構想とは、日本産ホップの持続可能な生産体制の確立を通じて、ホップの魅力を最大限に活かしながら、官民一体となって未来のまちづくりに取り組んでいくもの。「ホップ」から「ビール」へと範囲を広げることで、魅力ある地域資源との接点をつくり、地域全体の活性化につなげていくことが目的です。メンバーには、遠野市、キリンビール、JR東日本、上閉伊酒造、遠野ふるさと商社、ホップ農家、市民・ファンなど、多様な顔ぶれが集まり、全体のプロデュースをBrew Goodが務めています。

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「具体的には、若手ホップ農家の募集、持続可能な生産体制への転換、サポーターの輪を広げる活動などを行っています。毎年開催される遠野ホップ収穫祭は、ホップやまちの魅力を再認識してもらい、サポーターを増やしていく場。収穫祭を一つの目標として、多様なメンバーが力を合わせ、そこから様々な動きを派生させていくことで、ビールの里づくりへとつなげています」(株式会社Brew Goodの代表取締役・田村淳一氏)。

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プロジェクトはまだ始まったばかりですが、少しずつ効果も表れ始めています。例えば、遠野ホップ収穫祭の来場数は、年々増加しており、その半数が市外・県外からの観光客。ホップ栽培を担う若手農家が8名移住したほか、プロジェクトに参画するメンバーの中にも移住者が増えています。経済効果はもちろんですが、交流人口の拡大や移住・定住者の増加により、地域に新たな活気がもたらされているのです。

メンバーのコラボから派生したTONO BEER C58 239シリーズ

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右は、JR東日本と上閉伊酒造が開発したクラフトビール「TONO BEER C58 239」。左は、ビールの里プロジェクトが開発した「TONO HOP BOX」で手前のビジョンブックとともに発送しています。

ビールの里構想の取り組みが徐々に形になる中で、メンバー同士によるコラボレーションも生まれています。これまで遠野ホップ収穫祭に、来場者を運ぶ車両の増設や臨時列車の運行などで協力してきたJR東日本が、ズモナビールを製造する上閉伊酒造と連携し、新たなビールを開発しました。
「数年前から地域活性化を目的とし、地域の産業をサポートする取り組みを行っています。遠野駅のある釜石線はSL銀河を運行していますので、ビールづくりを通して沿線の活性化に貢献したいという思いがありました。そこで、遠野産ホップを基軸として釜石線沿線の副原料を組み合わせたクラフトビールつくりを上閉伊酒造株式会社にお願いすることとなりました。」JR東日本盛岡支社・企画地域共創グループの熊谷大朗は開発の経緯を語ります。
新たに手がけたのは、遠野産ホップIBUKIを基軸に、釜石線沿線、三陸沿線地域の副原料を使用したクラフトビール「TONO BEER C58 239」。第1弾として、「大槌復興米」を副原料に使った「GOLDEN ALE」を2019年3月に発売。第2弾は遠野産小麦を副原料に使った「HAZY IPA」を同年9月に、第3弾は住田町産のイチゴを副原料にした「STRAWBERRY STOUT」を2020年11月に発売しました。

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製造した上閉伊酒造株式会社の代表取締役・新里佳子氏は、「私の出身地である大槌町で奇跡的に残った稲から収穫したのが、『大槌復興米』。これを使った日本酒も造っているのですが、ビールにすることで新しいお客さまにも喜んでもらえるのではないかと思いました」と、話します。醸造士・坪井大亮氏は、「麦芽100%よりも米を使うことで軽やかさが生まれます。ストロベリースタウトも、イチゴの爽やかな酸味を楽しんでもらえるビールになりました」と、満足気です。
「TONO BEER C58 239」シリーズは、東京駅や大宮駅で定期的に開催している産直市などで販売。「どのビールも早い段階で売り切れになり、とても好評でした」と熊谷。もしかしたら、第4弾、第5弾のビールを開発する可能性もあるかもしれません。

まちづくりに賛同する仲間を増やし、遠野の未来を一緒につくっていく

コロナ禍に見舞われた2020年、ビールの里プロジェクトでは「TONO HOP BOX」という商品を開発しました。これは、ビールとおつまみになる地域食材や加工品を組み合わせたもの。ビールをきっかけに、様々な遠野の魅力に触れてもらい、地域全体の課題解決につなげていくことも、プロジェクトが見据える大切なテーマです。

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「ビールの里構想は、自分たちだけでできるものではありません。私たちの想いに賛同し、一緒にまちづくりや地域課題の解決に取り組んでくれる仲間が必要です。TONO HOP BOXも収穫祭も、そのための入り口づくり。どんどん人の輪を広げ、いろいろなアイディアを取り入れながら、プロジェクトを盛り上げていけていければと思っています」と、株式会社Brew Goodの田村氏。

ホップ栽培を守りながら、まちには新しい産業が生まれ、ビールを楽しむために遠野を訪れる人が世界中から集まってくる。そこではビールを通して交流が生まれ、新たなビアカルチャーが育っていく。そんなワクワクするような未来を描きながら、プロジェクトのメンバーたちはビールの里づくりという夢に向かって進んでいます。

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右から遠野市産業部6次産業室 室長 菅原康氏、キリンビール株式会社 主任 佐藤鉄氏、
株式会社BrewGood 代表取締役 田村淳一氏、上閉伊酒造株式会社 代表取締役 新里佳子氏、
上閉伊酒造株式会社 醸造士 坪井大亮氏、JR東日本盛岡支社 運輸部 事業課 企画地域共創グループ 熊谷大朗

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