2021年3月26日

FUKUSHIMA MONO

|福島県|

バイオプラスチックによって、
東北全体に新しい産業を。

新幹線や在来線など、鉄道が安全に走行するために必要とされる、鉄道林をご存知でしょうか? 鉄道林は、線路脇に防音や防風、防雪などを主な目的として敷設されています。実は、JR東日本の管轄ではその鉄道林が3,900ha、およそ東京ドーム900個分もあります。安全に鉄道を運行するには、健康的な鉄道林が必要不可欠で、その維持管理はJRグループとしてもとても大切なこと。しかし、手入れによって発生する間伐材は、あまり有効活用されていないのが現状です。今回お話を伺ったのは、そんな「鉄道林」の間伐材に着目し、バイオプラスチックという新しい分野の産業を生み出そうとしている、事業改革パートナーズの代表取締役である事業改革パートナーズの代表取締役である茄子川仁氏と、JRスタートアップ株式会社 営業推進部 取締役部長 竹内 淳に話を聞きました。

「鉄道林」という未利用の資源との出会い

茄子川氏:日本の技術力やノウハウは世界有数ですが、海外での工業設立や顧客獲得のきっかけがつかめない日本の「中堅・中小企業」の世界展開をサポートしたい。そういったインフラとなる会社を創りたいという思いで2009年に起業しました。なかでもものづくりのノウハウが凝縮している「金型製品」には潜在的な国際競争力があると考え、この業界に集中して活動をスタートさせました。現在、事業内容としては金型素形材業界支援、海外展開支援、企業コンサルティングのほか、今回お話させていただくバイオプラスチック新材料の研究開発・製造があります。

竹内:私は、あるイベントでプレゼンをされている茄子川社長のお話を伺って「植物からプラスチックが作れるなら、鉄道林を活用できないだろうか」とひらめきました。そこで、そのときに茄子川社長に直接、鉄道林のお話をさせていただきました。

バイオプラスチックによって、東北全体に新しい産業を。 写真1

JR東日本スタートアッププログラム2020での茄子川氏による発表の様子

茄子川氏:私も樹木をバイオプラスチックの原料とすることは考えていたのですが、木の種類はどれにしたら良いのかといったことまでしか考えていませんでした。具体的に「どこの木」を使うなどということまでは想定していなかった。そんなときに竹内さんとお話できたことで、未活用資源として「鉄道林」という存在があることを知りました。また、私たちはあくまでも樹脂材料を販売するというビジネスをしていますが、JRさんと一緒に事業を進めることで、一般消費者に商品の形として届けるところまで一気通貫でできるということに可能性を感じました。結果として「JR東日本スタートアッププログラム」に参加することにしました。

竹内:JR東日本スタートアッププログラムは、ベンチャー企業や様々なアイディアを有する方々から、駅や鉄道、グループ事業への経営資源や情報資産を活用したビジネス・サービスの提案を募り、ブラッシュアップを経て実現していくプログラムです。2017年度から毎年開催し、これまで合計81件の提案を採択。鉄道事業やIT事業など幅広い分野の実証実験を行い、一部の取り組みは実用化にいたっています。茄子川さんには、東日本大震災から10年という節目を迎えるタイミングでご参加いただきました。

バイオプラスチックによって、東北全体に新しい産業を。 写真2 バイオプラスチックによって、東北全体に新しい産業を。 写真3 バイオプラスチックによって、東北全体に新しい産業を。 写真4

線路沿いに敷設されている鉄道林。こういった場所で出る間伐材がプラスチックの原料となる。

植物性由来であり、
海中生分解性に秀でている素材の抽出に成功。

──御社が開発したバイオプラスチックの特徴について教えてください。

茄子川氏:今、地球温暖化問題によってCO2削減、海洋中のプラスチックゴミなどが社会問題となっています。それを受けて環境に配慮した素材というものは、10年ほど前から非常に注目されるようになってきました。以前からセルロースがそういった環境素材として有力であることはわかっていたのですが、すでにセルロースを使った素材はあって、それを中心とした業界構造もできてしまっており、なんとかそれを変えることができないかと考えていました。実は私たちが発見したヘミセルロースは、植物細胞壁に含まれる不溶性の多糖類で、樹木や植物の20~30%を構成しています。世界には約5億トンもあるという計算になります。それなのに、利用率は1%未満。実はこのヘミセルロースは、セルロースとして一括りにされていた成分でした。弊社はそのヘミセルロースという素材に着目し、その成分を抽出し、樹脂材料にする技術の確立に成功しました。

竹内:ヘミセルロースは、生分解性にも優れているんですよね。

茄子川氏:そうです。海洋中でも約60日90%以上が分解できることがわかっています。しっかり海洋分解されることが国際的に認定されている成分は、現状では実は2つくらいしかありません。その2つに比べても、ヘミセルロースは世界で一番早く海洋分解ができる、非常に有効な素材なんです。実は植物性由来のプラスチックはサトウキビなど食べられるものから抽出することが主流となっています。ですが、食用のものは食用で使ったほうが良く、食糧問題に影響を与えないためにも、私は食べられない植物性から出発したいと考えていました。そこで鉄道林の存在を知り、その間伐材の有効活用ができないかと検討をはじめました。

竹内:当社グループの未利用資源が有効に活用していただけるのではと、とてもうれしく思っています。実際に実証実験でどんなことを行ったのか、説明をお願いしても良いでしょうか?

茄子川氏:鉄道林の中でも割合の高い、杉を使って実験を行いました。どういう手を加えると原料として抽出できるのか。そして樹脂材料となり、製品の形に仕上げることができるのか。何回も失敗を繰り返しながら実験を重ねました。結果としてプロトタイプとしてプラスチックカップ(タンブラー)を完成させました。今は量産の手前の状態で、ある程度の数を作り、ユーザーの皆様にも手にとっていただいている段階です。使用感や感想、ご意見などを集約しているところですね。

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鉄道林から出る杉の間伐材。これらを加工し、バイオプラスチックの原料を抽出する。

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粗原料から成分を抽出した後樹脂材料として品質を向上するために、合成という工程を行っている様子。

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バイオプラスチックカップの金型。これを使って樹脂をプラスチックカップの形状にする。

東北の域内でバイオプラスチック産業が経済効果を生み出せるように。

──今後、JRとの取組をベースに目指していく方向性を教えてください。

茄子川氏:今回はJR東日本エリアの鉄道林を粗原料として、バイオプラスチックの樹脂材を製造します。原材料に東北の樹木を使い、製造を担当する金型のメーカーも東北のメーカーです。今後、この商品の成形メーカー、包装する箱を作るメーカー、運送業者などのバイオプラスチックカップを取り巻くサプライチェーンが東北で完結し、オール東北でやっていければと考えています。そのための調整も並行して行ってきました。今回はプラスチックカップ(タンブラー)のプロトタイプを先行して作りましたが、実際にはコップ以外でも多種多様なものが作れるのが樹脂材の特徴です。JRさんと連携して行っていくことで、さまざまな需要に応えながら、一般の方のニーズに合わせたものを製造していけたらと思います。

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竹内:実際、茄子川さんには製造にあたり、東北のさまざまなメーカーと連携を取っていただいており、とても感謝しています。茄子川さんとは当初より「ゆくゆくは、鉄道林に限らずにその他の森林を活用して、バイオプラスチックが製造されていくようになるといいですね」とお話しています。森林の手入れ、管理はとても重要ですがさまざまな理由で従前のようにはいかず、それにより放置され、きちんと手入れ・管理がされていない森林が増えてきていると聞きます。今回の取り組みを多くの方に見ていただき、プラスチックカップじゃなくてこういうものは作れないか? とか、鉄道林以外の森林でもやりたいみたいな波及が生まれたらうれしいです。JRグループだけでなく、地域にもっと広い意味合いを持つ、そんな可能性を感じています。

茄子川氏:そうですね。鉄道林よりもその他の森林のほうが広いですからね。日本の林業全体にも良い影響が波及すればうれしいです。また、はじめにも少しお話しましたが、私たちは金型業界とのつながりがあります。何かを量産するための原型を作る金型業界は、日本の製造技術の根幹を担っていると考えています。今、海外へ製造移管が進む中で、金型業界も仕事が減少している状態です。私たちは地球環境に優しい新しい素材を開発し、商品化することで、林業・金型産業・東北地方全体に新たな仕事を生み出すことを目指しています。

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