2021年3月26日

MIYAGI MONO

|宮城県|

JRフルーツパーク仙台あらはまが創造する復興のカタチ

仙台市の東部沿岸に位置し、かつては海沿いの集落に約800世帯が暮らしていた荒浜地区。2011年東日本大震災の大津波により壊滅的な被害を受け、かつての街並みは失われてしまいました。災害時、多くの人が避難した荒浜小学校は「震災遺構」としてこの地に残され、今も震災の爪痕を物語っています。震災から10年の月日が過ぎ、仙台・荒浜はJR東日本グループとともに新たな挑戦を始めています。

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災害時多くの人が逃げ込んだ荒浜小学校。震災後は震災遺構として、被災の痕跡を鮮明に残す校舎と、被災直後の様子を示す展示等で来館者に津波の威力や脅威を実感できる場として公開している。

1年を通じて果物が穫れる「体験型観光農園」への挑戦

きっかけは仙台市が公募した「仙台市東部沿岸部の集団移転跡地の利活用事業」のコンペティションにJR東日本グループの「仙台ターミナルビル株式会社」が参加し、採択されたことでした。これまで、仙台駅ビル関連事業としてショッピング部門とホテル部門を中心に事業展開を行ってきた仙台ターミナルビル株式会社ですが、2016年からは仙台市農業園芸センター再整備事業に参画し、「せんだい農業園芸センター みどりの杜」の運営を行っています。こういった事業での実績を認められ、手掛けた新たな施設が2021年3月18日、オープンを迎えます。1年中フルーツ狩りの体験ができる体験型観光農園「JRフルーツパーク仙台あらはま」です。

JRフルーツパーク仙台あらはまが創造する復興のカタチ 写真2 JRフルーツパーク仙台あらはまが創造する復興のカタチ 写真3

今回は仙台ターミナルビル株式会社総合企画本部 観光農業部の設楽真美に話を聞きました。
「JRフルーツパーク仙台あらはまでは、イチゴ・ブドウ・リンゴなど8品目156品種を1年を通じて摘み取る体験ができます。2021年はイチゴとブルーベリー、2022年以降はブドウ、リンゴ、ナシ、イチジク、キウイ、スグリと8種の果物の収穫体験を楽しんでいただける予定です。また、直売所、カフェ・レストラン、加工体験室を併設し、気軽に四季のフルーツを楽しんでいただけるような空間を目指しています」と設楽。施設オープン後は複合施設の店長として来場者をお迎えする予定です。

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旬の果物や野菜を使ったカフェ・レストラン「レ・ポム」は、ホテルメトロポリタン仙台のシェフがプロデュース。農園と地域の旬の食材をメインとした料理やデザート、ドリンクが楽しめる。

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「一年中様々な果物を食べることができるのはうれしいですよね。東北はお隣の山形県や福島県が果物の産地として有名ですが、今回の施設は宮城県が果物の産地というイメージを訴求する大きなきっかけになると思います。JR東日本としてもグループ一体となり、今後新たな観光流動の創造や地方創生に向けてJRフルーツパーク仙台あらはまとともに取り組んでいきたいと考えています」と話すのは、JR東日本仙台支社事業部 企画・地域共創課の渡邊智憲。東北デスティネーションキャンペーン期間中にはJRフルーツパーク仙台あらはまを訪れる方に向けて、仙台駅前から定期観光バスを走らせたり、旅行商品を販売したりするなどJRグループ全体でJRフルーツパーク仙台あらはまを応援します。

新たな技術を駆使した環境づくりと、最新技術の発信地を目指す

10年前、津波で甚大な被害を受けた荒浜地区は、残渣や泥、海水の影響もあり、土壌改良を余儀なくされました。水はけの良い、植物が育ちやすい土を作るため、これから数年をかけて土壌改良をしながら作付けを行う予定です。また、JRフルーツパーク仙台あらはまはスマート農業の実践地として、新たな技術を積極的に取り入れています。ハウス内は自動で湿度や温度を調節する最新の技術を駆使して「作物が育ちやすい」環境を作り出しています。

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いちごのハウスは高設ベンチを取り入れ、土耕より楽に収穫が可能。また栽培槽に地下水の流れるパイプを通すことで、低コストで温度の調整ができるように工夫されている。

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りんごの『ジョイント栽培』は、主枝の先端部を隣の木へ接ぎ木して連結し直線状の集合樹をつくる技術。人工的に枝の高さを揃えて収穫の効率をあげている。

仙台ターミナルビル株式会社観光農業部の山村真弓は「最新の実践地としてすでに全国の農園から視察の方が訪れています。利益追求はもちろんですが、被災地を技術発信の場として活かすことも目標に掲げています。これから野菜・果物栽培に取り組みたい若い人たちにも情報提供ができる場にしていきたいです」と力強く語ってくれました。山村はフルーツパークの野菜や果物の栽培に関わる生産指導を担当しています。

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いちご狩りはハウスに入れる人数制限を設けます。通常より入れるレーンを少なくすることで、ソーシャルディスタンスを保てるような仕組みをつくっています。コロナ禍でも開放感のある広いハウスで、安心して楽しんでもらいたいという。

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『にこにこベリー』デビューから3年目で宮城県での生産量はまだ少ないが、フルーツパークから全国にPRしてきたいたいと意気込む。

イチゴのハウス内の13,000株のうち、そのほとんどが震災以降に宮城県で開発された「にこにこベリー」という品種です。宮城のオリジナル品種「もういっこ」と、いちごの定番「とちおとめ」の交配により3万粒もの中から選ばれた品種です。甘みと酸味のバランスが良く、生食でも切れ味を感じるさわやかな味。また、芯まで赤いことから、加工をしてもきれいな色が出るのも特徴です。設楽は「併設のカフェではジェラートやソフトクリームなどの加工品の販売を予定しています。『笑顔を運ぶ奇跡の一粒』というコンセプトの通り、食べる人も売る人もみんな、笑顔になるようにPRしていきたいです」と話します。

被災地から、希望の地へ。「JRフルーツパーク仙台あらはま」が見据える未来

「荒浜の住民の方が事務所にいらして『ここは何ができるんですか?』と尋ねられたことがあります。果樹園になることをお伝えすると『ああ良かった』と安堵されました。荒浜が悲しい思い出の場所ではなく、被災された方に少しでも希望を持っていただけるような場所になるよう、心がけていきたいです」と山村は意気込みます。

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JR東日本も新しい事業として「JRフルーツパーク仙台あらはま」に期待を寄せています。
「当グループがビジョンとして掲げている『変革2027』では、人の生活を起点とした新たな価値の創造を挙げています。JRフルーツパーク仙台あらはまは、これからのJR東日本グループの期待が膨らむ新たな事業です。ぜひ一緒に、新しい10年を創っていきたいと思います」と渡邊。被災地から生まれた希望の種は、大きく枝葉を広げ、全国の農園の発展に役立つ施設となっていくでしょう。

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左からJR東日本仙台支社 事業部 企画・地域共創課 渡邊智憲、仙台ターミナルビル株式会社 総合企画本部 観光農業部 山村真弓、仙台ターミナルビル株式会社 総合企画本部 観光農業部 設楽真美。

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