2021年3月16日
新たな時を刻み始めた歴史ある蔵が拓く未来
JR東日本グループが2020年3月に開業した、歴史ある建築物を活用したホテル「和のゐ 角館」。それは宿泊客に新しい旅の体験を提供するにとどまらず、エリアのポテンシャルを引き出し、人と地域を密につないでいくという、滞在型観光の次なるフェーズを見据えた空間でした。
和のゐ 角館が提供する
特別な体験「KURA STAY」
元和6年(1620)に芦名義勝によって開かれ、その後、久保田城主佐竹氏の一族、佐竹義隣が統治し栄えた角館。火除けと呼ばれる広場を境に武家町(内町)と商人町(外町)に区分された町割りは、400年を経た今でも原形をとどめています。
佐竹氏が京都の公家の出だったこともあり、京文化が色濃く息づいているのもこの町の特徴。芸術、工芸、年中行事、建築物、街並みとあらゆる分野で、雅な美意識を感じ取ることができます。
「西宮家武士蔵」大正8年(1919)建築、木造2階建て、定員6名。先祖が高名な武士であった西宮家の武士蔵には、実際に触れられる武士の道具などが備えられ、城下町時代に生きた人々の営みを肌で感じることができます。空間に一歩足を踏み入れた瞬間から、時代を越境する感覚が味わえることうけあいです。
そんな歴史と文化の風薫る土地で、2020年から新たな時を刻み始めたのが「和のゐ 角館」。築100年を超える3棟の蔵を活用した宿泊施設です。建物に刻まれた記憶を壊さぬよう最小限のリノベーションが施され、客室として生まれ変わったのは、高名な武士だった西宮家の2棟の蔵と、反物屋だったと伝えられる蔵。それぞれの蔵の使用背景をインテリアのモチーフとして取り入れることで、建物の個性をより際立たせた空間になっています。施設のコンセプトは「KURA STAY」。営みが保存された蔵で、悠久の歴史に思いをはせながら過ごすことができます。
「西宮家ガッコ蔵」大正8年(1919)建築、木造2階建て、定員4名。ガッコ(秋田の方言で漬物の意)を貯蔵するために使用されてきた蔵の歴史を伝えるべく、漬物にまつわる道具等を空間デザインやアイテムに施し、漬物樽を模した浴槽からは、春には桜を眺めることもできます。
定員は蔵により異なり4~6名。一棟貸しスタイルで、チェックインはJR角館駅に隣接するホテルフォルクローロ角館にて行います。ホテルフォルクローロ角館から蔵までの距離は、最も遠いところで約1km。観光地の中を通る10~15分のルートを、寄り道を楽しみながら我が家へ帰るように歩くことになります(車による送迎サービスもあります)。そのさなか、きっと誰もが旅先に泊まるというより、新しい町で暮らし始めるときに近い感覚を覚えるでしょう。これも和のゐ 角館で味わえる特別な体験の一部。KURA STAYは、客室へ入る前から始まるとも言えます。
「反物蔵」江戸時代末期建築、木造2階建て、定員6名。最大の魅力は武家屋敷通りのすぐ手前という恵まれた立地。かつての反物屋を思わせるようなユニークな空間が広がり、着物や染料など反物にまつまる様々なアイテムが展示されています。
和のゐ 角館は、地域と旅行者を
密につないでいく存在
和のゐ 角館のスタートに先駆け、事業主体のJR東日本グループでは、秋田県仙北市ならびに一般社団法人田沢湖・角館観光協会と「観光まちづくり」に関する連携協定を締結。エリアの観光需要を全方位から創出しようと、地元企業をも巻き込んで、新たな旅のニーズをもたらすプランニングや商品づくりを進めています。
「和のゐ 角館が果たすべき役割は、寝食のスペースを提供することから発展して、地域と旅行者をつないでいくことだと考えています」
そう語るのは、和のゐ 角館の運営を行う秋田ステーションビル株式会社 経営企画室室長の清水勇輝さん。町を隅々まで歩いて調査し、3棟の蔵の選定に深く関わったプロジェクトのキーパーソンです。
「自分の足で歩いてあらためて実感したのですが、このエリアには、1日ではとても味わい尽くせないほど魅力的なモノ・コトがあふれています。それらと旅行者を結びつけるパイプ役として和のゐ 角館が十分に機能していけば、旅の顧客満足度を高められるだけでなく、町に対しても貢献できると考えます。チェックインの場所から歩いていただくこともそうですが、実際に触れられる地域の銘品を客室に置き、そのストーリーなどを紹介しているのは、新たな旅の目的が生まれるきっかけを創出するためで、旅行者が地域と関わり合うことで旅や滞在の価値が高まることを期待しています」(清水さん)
「角館は観光地として全国区の知名度を誇りますが、ツアーの通過点となるケースが多く、滞在者を増やすことが以前からの課題でした」と話すのは、JR東日本秋田支社 運輸部事業課事業企画グループの畠山愛美さん。自身の担当である媒体での広告宣伝のほか、和のゐ 角館の中で地元の魅力を伝えるための仕掛けづくりにも力を入れています。
「和のゐ 角館に宿泊されるお客さまに、古民家の魅力だけでなく、みちのくの小京都と呼ばれる角館の文化の奥深さを伝えられたらと思っています。滞在者を増やすためには宿泊施設を拡充していくことも大事ですが、"この土地を時間をかけてじっくり歩いてみよう"と考える方を増やしていくことが肝要ですから」(畠山さん)
そしてこうした和のゐ 角館の取り組みにいち早く呼応し、オリジナル日本酒の開発に踏み切ったのが創業320余年の老舗酒蔵。かつての秋田藩主から授かった「ひでよし(秀でて良しの意)」の酒銘を掲げる合名会社鈴木酒造店です。
「秀よしが角館の地酒として広く認識されているということから、宿泊者様にお出しするPBの日本酒を弊社でつくりたいとお話をいただきました。和のゐ 角館のお客さまの層を考えますと味わいで他を圧倒するようなものしか考えられませんでしたので、プレッシャーはなかなかのものでしたが、蔵人たちの知恵と技を結集することで、"これならば!"という自信作をつくることができました。和のゐ 角館のお客さまの層が発信する情報は誘客効果が高いと思われますので、地域の活性化のため、今後もできる限りの協力をしていきたいと考えています。また和のゐ 角館での出会いをきっかけに、弊社の酒蔵を見学したいというニーズが出た場合には、全力で対応したいと思っています」(合名会社鈴木酒造店 鈴木松右衛門代表)
「和のゐ 角館PB純米大吟醸」秋田の酒米、秋田酒こまちを40%まで精米し、低温でじっくり育てた上、雫取りと呼ばれる手法でしたたり落ちる一滴一滴を集めた日本酒は、グラスから立ち上がる爽やかな吟醸の香りと、口の中で優しく広がる米のうま味が特長。芸術作品と言っても過言ではない出来栄えになっています。
PB純米大吟醸のような和のゐ 角館発のコラボレーションは、今後も多岐に渡って展開されていくことは間違いありません。旅行者に新しい宿泊体験を提供するだけでなく、次なる旅を提示しながら、地域ともしっかりと手を結び、エリアの付加価値を上げる新商品や観光資源を開発。さらには地元の空き屋問題や後継者不足といった、社会的な課題の解決までを見据えているという和のゐ 角館が拓く未来に今、角館とその周辺地域で暮らす誰もが期待を寄せています。
左から 秋田ステーションビル株式会社 経営企画室 清水室長、 合名会社鈴木酒造店 鈴木代表、JR東日本秋田支社 運輸部事業課事業企画グループ畠山。