2021年3月16日

YAMAGATA MONO

|山形県|

人が集まり、交流する拠点として。
ホテルシェーネスハイム金山が担う役割とは。

まるでヨーロッパの高原のような雰囲気をまとう、山形県金山町にあるホテル「シェーネスハイム金山」。1998年に設立したこのホテルは、JR東日本と金山町が出資し、滞在型ホテルとしてオープンしました。それから23年が経ち、豊かな自然のなかでアクティビティーを楽しむための拠点として、また町の人にとっては町の外に向けた窓口として機能しています。今後、アフターコロナの世界で、シェーネスハイム金山にはどんな役割が求められていくのか、お話を伺いました。

こぢんまりとした美しい町並みが広がる、金山町。

秋田県境にほど近い、最上郡金山町。町を走ると、切妻屋根と白い壁の「金山住宅」が立ち並び、錦鯉が泳ぐ、石造りの大堰にはきれいな水が流れています。大きな町ではないけれど、町のどこにいても水のせせらぎの音が聞こえてくる。そこで暮らす人たちの、丁寧な暮らしが伝わってきます。シェーネスハイム金山は、町の中心から少し離れた神室山の麓に佇んでいます。

人が集まり、交流する拠点として。 写真1 人が集まり、交流する拠点として。 写真2

かつて宿場町として栄えた金山町。古き良き時代の面影を感じさせる、落ち着いた町並みが広がる。高齢の方でも街歩きを楽しめるコンパクトさも魅力。

山形新幹線の延伸による、
新庄駅開業が「シェーネスハイム金山」設立のきっかけ。

──20年以上前、この地に「滞在型リゾート」としてホテルを作ることになった経緯は?
JR東日本仙台支社 関口:山形新幹線は1992年に開業しましたが、その後山形から新庄まで延伸開業することが決定しました。1999年に延伸開業することを控え、JRとしても新幹線の始点となる新庄駅近辺に宿泊できる施設が必要と考えていました。シェーネスハイム金山のコンセプトには「まるで旅先で暮らしているような新しい旅」というものがありました。30~40代のファミリー世代が地域の方と交流するような、新しい形の旅行を提案したいということで、金山町が候補にあがりました。

金山町産業課 丹氏:町としてもその方針に賛同したそうです。もともと町ではこの神室エリアに放牧場を開設し、平成元年にはスキー場を開業しました。その後、温泉施設「ホットハウスカムロ」もオープン。ここにホテルができれば、複合的なレジャー施設として成り立つことになります。金山には100年をかけて自然・風景と調和した美しい街並みをつくっていこう、併せて林業などの地場産業の振興や人と自然の共生を図ろうというプロジェクト「街並み(景観)づくり100年運動」があります。ホテル建設にあたってもその考え方に則り、地元の金山杉をふんだんに使うこと、そして神室エリアの景観に調和したものにしようということになりました。

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「風景と調和した、独自のまちづくりをしてきた金山町だからこそ、環境と調和した施設を造りたかった」と語る金山町役場産業課の丹さん。

ホテルシェーネスハイム金山・総支配人 渡辺氏:シェーネスハイムとは、ドイツ語で美しい家という意味。100年運動の発起人である当時の町長が、古い街並みを大切にするドイツのまちづくりを参考にしていたことから、ドイツ語のネーミングとなりました。

関口:JRではスキー目的での旅行プロモーションを積極的行っていましたので、目的地としての相性が良かったということもあります。JR関連の宿泊施設の多くは、駅に近い、利便性の高いところがほとんどです。シェーネスハイム金山はその中でも、珍しく里山にあるホテルです。JRにとっても、とても大切な拠点として捉えています。

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金山杉と実際の古城のレンガを使い、
ヨーロッパ風の雰囲気を造成。

──ホテルを建設するにあたり、こだわった部分は?
総支配人 渡辺氏:ご覧のとおり、目の前にはスキー場があります。今は冬で雪に覆われていますが、雪が溶けると豊かな緑が広がる場所です。この自然の景色、環境に調和したものをというコンセプトがありましたので、館内では金山町の「金山杉」が使われています。金山杉はこの町の特産品。大切な産業のひとつです。いたるところに金山杉を使うことで、この自然のなかでも違和感のない外観、内観となっています。また、ドイツ風の雰囲気を醸成するため、ヨーロッパの古城で実際に使われていたレンガを手配したそうです。建設時、そのレンガが届くのが遅れて、とても大変だったという話を聞いています。

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「実際のお城で使われていたレンガには、実は猫の足跡が残っているものが。お客さまが見つけて喜んでくれます」と笑顔で教えてくれた渡辺総支配人。

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丹氏:まさに「どこか異国に来たみたい」と感じていただけるような雰囲気だと思っています。オープンのときには、町民がモニターとなって宿泊体験を行ったようです。当時の町の広報にそれが掲載されていて、そのときのメンバーを見ると現在でもご利用されている方が多いなという印象です。還暦のお祝いなども皆さんここで行ったりしてくれていますね。

渡辺氏:そうですね。この施設ができたことで、ここは町にとってはひとつの拠点となったんだと思います。リピーターの方には本当に支えられています。もうひとつ、ここの特徴としてはツインタイプとファミリータイプ、メゾネットタイプという客室のラインナップも挙げられます。長く滞在していただくことを想定していて、室内も広めに設計しています。宿泊される方は宮城県や岩手県、秋田県など近隣の県からのお客さまが多い印象です。そういった方も、リピーターになってくださっていますね。

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「シェーネスハイム金山」の、
これまでとこれから。

──ホテルができたことで、何か変化はありましたか?
丹氏:ホテルができたとき、町として大きなテーマがいくつかありました。それが、付属する観光メニューづくりや、地元住民の就業機会の拡大、地場産品の消費拡大、地域住民と滞在者の交流機会の造成、交流人口の拡大などでした。実際、ホテルができるタイミングで町の「金山田楽」「神室山楽」というお酒が造られたり、体験メニューを実施してくれる人たちを集めてオプションの形でサービスメニューを提供したり。それまで、観光よりも「暮らし」にフィーチャーしていた金山町が観光に目を向けるようになったきっかけになったと思います。

渡辺氏:ホテルとしては10周年記念のときに、森の演奏会というイベントを実施しました。それがきっかけとなり、今でも継続しているイベントとなっています。金山町とはいろいろなところで連携を持っていて、例えば町外の方に訴求したいことなどはシェーネスハイム金山で実施していただいたり。町の方にとってはひとつの拠点が増えた、ということになりますが、町外に対してはここがひとつの発信場所になっていると思います。町の魅力を外に発信する場所として、認識していただいていると自負しています。

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シェーネスハイム金山のファミリールームの一例。リビングとキッチン、主寝室のほかに和室もあり、広々とした造りとなっている。

──今後、どんなことに期待していますか?
関口:JRでは今、観光列車を走らせる動きがあります。福島ー新庄間でも「とれいゆ つばさ」という列車があるのですが、いかに楽しみながら移動していただけるかという取り組みです。山形県の工芸品なども取り入れていて、足湯が楽しめるというのが特徴です。内装も非常に高級感のある造りになっていて、海外の方からの人気も高い。福島から約2時間、非日常の時間を味わい、楽しんでもらいながら新庄までいらしていただき、さらに金山で宿泊してもらうことができれば。また、通常の料金に足湯代を追加するだけで楽しめるのも魅力です。今は海外の方もいらっしゃらなくなってしまいましたが、アフターコロナでいつか海外のお客さまが戻ってきてくれたらと思いますし、日本国内の方にも「とれいゆ つばさ」は楽しんでいただきたいです。

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丹氏:インバウンド需要が増えたとき、町としてはシェーネスハイム金山にいろいろな依頼をしました。新しい交流人口の拡大の機会と捉え、ホテルで番楽を見せてもらったり、ベジタリアン対応ができるようにしてもらったり。実は町が運営する「グリーンバレー神室キャンプ場」には、2020年秋のシルバーウイークに1日60組もキャンパーが来場しました。このコロナ禍で密を避けなくてはという動きと、そもそものキャンプブームが影響したとは思いますが、時代は都会よりも自然の中で過ごすことを求めているのかなと思います。

渡辺氏:そうですね。キャンプであればリーズナブルに楽しめますし、ここは温泉もあるし、食事がしたいと思えばレストランもある。もちろん、朝・晩ともにバーベキューを楽しむことだってできます。雪中キャンプも受け付けるようになりましたし、夏なら夏の楽しみ方がある。

丹氏:ワーケーション(働きながら休暇を取ること)という動きもコロナによって加速していますが、シェーネスハイム金山であれば長期滞在を想定した客室になっているため、非常に可能性があるのではと思います。キッチンも付いていますし、1週間、1ヶ月といった長期滞在を受け入れるプランなどがあっても良いのでは。今後、新しい生活様式にも順応しながら、この環境をもっと多くの方々に知ってもらうことも必要だと思います。

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左から金山町役場産業課 丹さん、シェーネスハイム金山・総支配人 渡辺さん、JR東日本仙台支社事業部 関口

ホテルシェーネスハイム金山

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