2021年3月16日

AKITA MONO

|秋田県|

「秋田の旨さは、寒さが作り出す」。
発酵×発酵が生み出す無限の可能性。

発酵食文化が根付く、秋田県。そのなかの代表格といえる「日本酒」と「いぶりがっこ」が結びついた商品「いぶりたくあん酒粕&チーズ」が、JR東日本おみやげグランプリ2020の審査員特別賞を受賞しました。秋田が生んだ2大発酵食品のコラボレーションはどのように生まれたのか、その開発には、それぞれの企業の思いがありました。

齋彌酒造店×桜食品による、新しい試み。

例年にも増して寒さが身に染みる、ある冬の日。秋田県由利本荘市石脇にある「齋彌酒造店」が運営するショップ&カフェ「発酵小路 田屋」に集まっていただいたのは、「雪の茅舎」の銘柄で知られる齋彌酒造店常務の齋藤眞紀氏と専務の佐藤昭久氏、桜食品株式会社社長の佐川真理子氏。カフェの店内に穏やかな日差しが差し込むなかでお話を伺いました。

秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真1 秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真2

──まずは、今回のコラボレーションの経緯について教えてください。
LiViT 佐藤:JR東日本東北総合サービス株式会社秋田支店(以後、愛称であるLiViTと表記)では、JR秋田駅の駅ビル・トピコの中でお土産品を扱う店舗を2店舗運営しています。日々、いろいろな業者様とのやりとりがあるのですが、納入してくださる業者の方と一緒に、店舗の目玉になるような【秋田らしい】新しい商品を作ってみたいというお話になりました。当店では県内のさまざまな商品を取り扱っていますが、いぶりがっこも日本酒も、とても人気の高い商品です。そこで、このふたつをかけ合わせてみたいと考えました。「酒粕」と「いぶりがっこ」という組み合わせに可能性を感じ、各事業者様に提案を行いました。

──それでは、酒粕を提供された齋彌酒造店について教えてください。
齋彌酒造店 佐藤氏:私たちは明治35年に創業した、ここ秋田県由利本荘市で地酒を造る酒蔵です。かつては「由利正宗」という銘柄でしたが、昭和62年から「雪の茅舎」というブランドで酒造りを行ってきました。当蔵の杜氏・高橋藤一のこだわりに「三無い造り」というものがあります。1つ目は「櫂入れをしない」こと。微生物の働きに任せて長い時間をかけてじっくりと醪(もろみ)を醸すことで、まろやかで豊かな風味が生まれます。2つ目は「濾過をしない」こと。搾られたお酒を濾過してしまうと、丁寧にじっくりと醸したことで生まれた豊かな風味が損なわれてしまうからです。そして3つ目は「割り水をしない」こと。全量を加水なし、原酒のままで出荷するというのは非常に珍しいとされています。「三無い造り」は、すべて酒の風味と旨みを大切にしたいという思いからなされていることです。その結果、選ばれる酒となり、おいしさを認められていると自負しています。

秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真3

蔵人の多くは農家であり、蔵人たちが作った酒米を使って酒造りを行っている。清潔感のある蔵の中で、蔵人たちはひとつひとつの工程を大切にしながら、米の旨さを引き出した日本酒の製造に取り組んでいる。

酒粕は、酒造りによって造られる、
もうひとつの製品

齋彌酒造店齋藤氏:お酒の造る量が増えれば自ずと酒粕の量も増えます。残念ながら、酒粕は昔ほど需要がなくなってきています。いずれ、使い道がないとお金をかけて処分をすることになりますし、それではあまりにももったいないと思っています。齋彌酒造ではお酒を搾るときに、酒粕にも旨みを残してあげる、という杜氏の優しさが残るものです。私たちは酒粕は副産物だとは思っていません。もちろん、ギリギリまで搾ることもできますが、日本酒の雑味となってしまうことを嫌います。弊社の大吟醸の袋吊りなどは、酒粕歩合が醪の約60%と、とても贅沢なものです。酒粕はアミノ酸がたっぷりで、旨みの塊です。これをもっと皆さんに食べてもらいたい。だから、今回のコラボレーションのお話はとても嬉しいものでした。

秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真4

ヤブタ式と呼ばれる圧搾する機械から、板粕を剥ぎ取る作業の様子。齋彌酒造店では、この「板粕」にも旨みが残るよう搾り具合を調整しているという。

添加物・着色料不使用の
いぶりがっこ製造メーカー「桜食品」

──今回の販売・製造事業者である桜食品株式会社について教えてください。
桜食品 佐川氏:先代の社長(現会長)である私の父は、もともと米農家で生計を立てていましたが、農作業がない冬季間に何か産業を作れないかと、地域の仲間とともに「いぶりがっこ」を作ることになりました。昭和50年ころは、秋田ではいぶりがっこは家庭で作られるもので、企業としていぶりがっこを製造しているものは少なく、知名度も今ほどありませんでした。当初は着色料を使ったり、甘くて塩気の強い味付けで、食品添加物も使っていましたが、弊社では次第に時代に合わせて身体に良いものをと考え、食品添加物と着色料不使用の商品を開発しました。今でもどんな原材料を使うべきか、試行錯誤の連続です。まろやかな風味をどう出すかとか、どうしても漬物については塩分を気にされる方が多いので、天日塩を使ったりとか。その試行錯誤はこれからも続けていくと思います。

秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真5

ひとつの小屋に約1,000本ほどの大根を吊るし、2昼夜かけて楢の木を燃やした煙で燻される。その日の天候や気温によって、その火加減などを調節して最適な水分量になるまで燻していく。10月~12月、この仕込み作業の間、この一帯は大根を燻す煙がもくもくと立ち込める。

齋彌酒造 齋藤氏:いぶりがっこは、大根を燻す作業が大変そうですね。

桜食品 佐川氏:弊社は現在の会長である私の父のこだわりがあり、今も手作業で大根を縄で編んで、2昼夜楢の木を燃やした煙で燻して漬け込んでいます。毎年10月から12月ころが仕込みの時期で、天気や気温によってその燻し具合も調整しています。私たちは秋田県大仙市に加工場がありますが、とても雪深い地域でもあり、かなりの積雪量になります。仕事のほとんどは除雪作業をしているような気がしてくるほどです。でも、その寒さがなければおいしいいぶりがっこは作れません。寒さの中でゆっくりと発酵させていかないと、桜食品のいぶりがっこの味を作ることができないと考えています。

齋彌酒造店 佐藤氏:お酒も同じです。やっぱりどちらも発酵食品ですから、寒さは大切ですよね。

秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真6

「日本酒のアテ」という、わかりやすさが商品の魅力。

──企画立案から商品化までどれくらいの期間でしたか?
LiViT 佐藤:2019年の年末に販売業者様との企画会議があり、それをもとに齋彌酒造店様と桜食品様に企画開発を相談しました。弊社の運営している店舗では、桜食品様のいぶりがっこは本当に良く売れています。酒粕にしてもいぶりがっこにしても、お願いする先としてはすぐにこの2社のお名前が出ました。

桜食品 佐川氏:お話をいただいたときは、とても驚きました。雪の茅舎さんと一緒に商品が作れるなんて恐縮してしまいました…。せっかくですから良い商品に仕上げたい。そう思って試作に取り組みました。チーズと酒粕を合わせるならいぶりがっこで挟むスタイルにしたい。でも、通常の厚みでは厚すぎて食感が良くない。苦労したのは厚みの調整でしたね。また、いぶりがっこの味にも甘みを加えたり、塩分を足してみたり…。社内でも試食をして、スタッフの間で意見を出し合いました。

齋彌酒造店齋藤氏:いただいた試作品を食べて、とてもおいしかったです。その後、酒粕の量の割合を変えたものをいくつか出してもらい、その中から決定させていただきました。弊社も「おいしいものでなければ嫌だ」という思いを伝えていましたが、やはり佐川さんも同じ思いでいてくださったんですね(笑)。

秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真7

LiViT 佐藤:味が確定し、2020年8月10日に販売することができました。ちょうどそのころ「JR東日本おみやげグランプリ」のエントリーがあり、桜食品様のお名前で応募することになったんです。企画した商品が受賞できたのは、本当に皆さんのおかげであり、とても光栄なことだと思っています。日本酒の売り場のすぐ横に置いて、お酒と一緒にお買い求めいただけるように陳列しています。今は販路を拡大して、県内各地の道の駅などでも販売しています。秋田のお酒と秋田の漬物、このコラボで新しい商品ができたことは本当に喜ばしいことだと思います。

齋彌酒造佐藤氏:どちらも秋田の寒さと、冬の空気のきれいさが生み出したものだと思います。低い気温と雑菌の少ないきれいな空気があってこそ、日本酒もいぶりがっこもゆっくりと丁寧に発酵されていく。そのふたつをかけ合わせることで生まれたのが、今回の商品です。秋田の先人たちが生み出した「おいしくする技術」をかけ合わせることで、より秋田の特色を打ち出した商品を生み出していくことができるかもしれないですね。

秋田の旨さは、寒さが作り出す 写真8

左から齋彌酒造店 佐藤専務、LiViT 種藤、LiViT 佐藤、桜食品 佐川社長、齋彌酒造店 齋藤常務。

取材先情報

  • 株式会社齋彌酒造店 写真

    株式会社齋彌酒造店
    住所 秋田県由利本荘市石脇字石脇53
    電話番号 0184-22-0536 (※平日の8時~17時)
    URL http://www.yukinobosha.jp/

  • 桜食品株式会社 写真

    桜食品株式会社
    住所 秋田県大仙市協和稲沢本郷野37-1
    電話番号 018-894-2147
    URL https://sakuragakko.com/

  • 【撮影場所】
    発酵小路 田屋
    住所 秋田県由利本荘市石脇字石脇279
    営業時間 10時~18時(カフェは17時まで)
    定休日 木曜
    URL https://www.hakkokoji-taya.jp/
    アクセス JR羽後本荘駅から車で約6分

  • 【LiViT 秋田支店 運営店舗】
    おみやげ処 こまち苑
    住所 秋田県秋田市中通七丁目1番2号(秋田駅構内)
    営業時間 7時30分~20時
    電話番号 018-853-1524

  • 東北めぐり いろといろ トピコ秋田店
    住所 秋田県秋田市中通七丁目1番2号(トピコ内)
    営業時間 9時~20時
    電話番号 018-889-3557

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