江戸時代後期のこと。旧庭坂村に住む炭焼きの者が大やけどをおった際、沢辺に湧くゆで玉子の匂いの温泉で傷を完治させたとか。時を経て「この薬湯を多くの人々に」と、そこに仮小屋を建てたのが旅館 玉子湯の初代であった。明治元（1868）年、こうして玉子湯は創業した。

　「当館3代目の妻も、やけどの跡を玉子湯で治したと聞いています」と、湯守の後藤省一さん。お客様からも傷跡がよくなった、皮膚病が改善されたなどの声が届くという。

　その湯はpH約2.8という酸性の温泉ながら独特のピリピリした感触はなく、驚くほどやわらかな肌ざわり。使用する4本の源泉のうち2本は敷地内のすぐ近くに湧くが、あえてぐるっと遠回りさせながら樋で引いているという。その間にほどよくもまれ、極上のやわらかな湯に変化するのだとか。館内の大浴場、内湯のほかに、庭園には2つの野天岩風呂や貸切露天風呂、レトロな雰囲気の湯小屋、足湯など湯処が豊富。空気が澄みわたる秋から冬は、夜の野天もおすすめだ。晴れた夜、湯船から見上げれば満天の星。冷えた夜気に、玉子湯の温もりが心地よく染みわたる。